2017年12月
前回に、捕捉点において「制御風速以上の風速」で吸引すれば、有害物質はフードに全部吸い込まれて、作業者は有害物質を吸うこと(ばく露)がなくなると説明しました。
従って、局所排気装置のファン(排風機)は、この制御風速を得るのに必要な排風量(フードから吸い込む空気の量)を持ったものが必要となります。
これを「必要排風量」と言います。
必要排風量の計算と留意点
必要排風量の計算は、「囲い式フード」と「外付け式フード」では異なります。
一般的に使用されている計算式で説明します。
囲い式フードの必要排風量の計算
必要排風量(Q) 立方メートル/分 |
= | 60 | × | K係数 | × | 制御風速(V) メートル/秒 |
× | 開口面積(A) 平方メートル |
この式で「60」は、風速を秒速から分速に直すためのものです。
「K」は、気流分布のムラのために必要な補正係数で、ムラのない理想的なものであれば、K = 1 となりますが、ムラがあれば、Kは、「1」より大きくなり、必要排風量も大きくなります。
縦と横が1メートルの開口部を持つ囲い式フードで、開口面での制御風速0.5メートル/秒を得るのに必要なファンの最低排風量(Q)を計算してみましょう。
補正係数がムラのない理想的なものとして
K = 1 、
制御風速(V) = 0.5メートル/秒 、
開口面積(A) = 1×1 = 1平方メートル 、
これを上式に代入すると、
必要排風量(Q) = 60×1×0.5×1 = 30 (立方メートル/分) となります。
この値が、縦と横が1メートルの開口部を持つ囲い式フードで、制御風速(V)0.5メートル/秒を得るのに必要な最低排風量(Q)となります。
囲い式フードの留意点
上式でわかるように、囲い式フードの必要排風量(Q)は、フード開口面積(A)に比例しますので、開口面積(A)を小さくすることで、囲い式フードを効率よく使うことができます。
例えば開口面に、ビニールカーテン等を取り付けて開口面積(A)を小さくしている場合がありますが、このような場合に、ビニールカーテン等が作業に邪魔だからと取り除いたりすると、風速が落ちて制御風速が得られなくなり、有害物が作業場に飛散することになります。
また、囲い式フードの制御風速は、囲いの中の有害物を開口面から外に出さないだけの吸い込み気流の速度ですので、開口面の外で有害物を発散する作業をしてはなりません(吸い込み能力が足らない)
外付け式フードの必要排風量の計算( 円形又は長方形のフードの場合 )
必要排風量(Q) 立方メートル/分 |
= | 60 | × | 制御風速(V) メートル/秒 |
× | (10×距離 | × | 距離 メートル |
+ | 開口面積(A) ) 平方メートル |
この式で距離(X)は、フードの開口面から最も離れた作業位置(捕捉点)までの距離で、単位はメートルです。
縦と横が1メートルの開口部(A=1×1)の外付け式フードで、距離(X)=1メートル、捕捉点での制御風速 = 0.5メートル/秒、を得るのに必要なファンの最低排風量(Q)を計算してみましょう。
必要排風量(Q)= 60×0.5×(10×1×1+1)= 330 (立方メートル/分)
距離(X) が、 2メートルになると
必要排風量(Q)= 60×0.5×(10×2×2+1)=1,230 (立方メートル/分)
となり、距離が離れると非常に大きな排風量が必要となります。
外付け式フードの留意点
上記の計算例でわかるように、外付け式フードの必要排風量(Q)は、捕捉点までの距離(X)の2乗にほぼ比例します。
X = 1メートルで、Q = 330 X = 2メートルで、Q = 1,230
従って、開口面から捕捉点までの距離(X)を小さくすることが効率的な使い方となります。
つまり、フード開口面と発散源をできるだけ近づけるようにします。
ご家庭で、電気掃除機で掃除をするときに、掃除機の吸い込み口をゴミに近づければよく吸い込んでくれます。これと同じです。
フードの選択
上記の必要排風量(Q)の計算結果でわかるように、フード開口面積が同じで、制御風速も同じでも、
囲い式の場合はQ = 30
外付け式の場合は、X = 1 で Q = 330 になります。
従って、フードの選択に当たっては、まず囲い式が使えないかを考えます。
作業性等から、どうしても囲い式が使えない場合は、外付け式としますが、この場合は、フード開口面と発散源をできるだけ近づけるようにします。
フードは、「囲む」、「近づける」が基本です。
局所排気装置を使っている作業を見直してみましょう。
臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)
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