産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-32 全体換気装置

2018年06月


 有害物質からのばく露の低減化対策(衛生工学的対策)は、今まで説明してきました「設備の密閉化」や「局所排気装置」、「プッシュプル型換気装置」が基本的な方法ですが、以下のような場合に「全体換気装置」が使われます。

(1)上記の基本的方法が著しく困難な場合
 例えば、広い作業場に不特定多数の発散源が散在している、有害物質の発散源が移動する場合等

(2)有害物質の有害性が低く、かつ取扱量が少ない・発散速度が遅い等で作業環境中の有害物濃度が低い場合

(3)密閉や局所排気装置等で十分に補足できなかった有害物質の作業環境濃度を下げる場合

(4)臨時の作業を行う場合

 全体換気装置は、作業場外から清浄な空気を取り込み、作業場内で発散している有害物質と混合・希釈しながら作業場外に排出し、作業場内の有害物の濃度が有害な程度にならないようにする(有害物の平均濃度を下げる)ことで、ばく露量を少なくする換気方法です。

 作業場内全体を換気することから全体換気装置と呼ばれていますが、その機能から「希釈換気装置」とも呼ばれています。

 全体換気装置は、小型であるため設備費、ランニングコストが安い、作業の妨げにならず作業性を損なわない等の長所がありますが、有害物質の濃度を薄める(平均濃度を下げる)だけのものであり、汚染空気の除去・排出という点では、局所排気装置やプッシュプル型換気装置よりも劣ります。従って、これらの装置から漏出した有害物を希釈する目的で使われる等、補助手段として使われる場合が多く、根本的な環境改善手段ではありません。

 換気方式は、「送気」、「排気」、「送排気」の3つがあります。排風機を用いて作業場内の空気を排出し、給気口から清浄な空気を流入させる方法では、作業場内の圧力は負圧になりますので、有害物質が作業場外へ漏出するのが防止できます。
 送風機を用いて作業場内に清浄な空気を送風し、排気口から作業場内の空気を排出する方法では、作業場内が陽圧になりますので、作業場へ有害物が流入してくるのを防止できます。
 送風機と排風機を用いる場合は、それぞれの能力に差をつけることで、機能 (負圧、陽圧)を変えることができます。

全体換気を効果的に行うための留意点は次のとおりです。

1. 希釈に必要な換気量を確保する
有害物質の使用量(消費量)に応じて、希釈に必要な換気量を確保します。

【有機則の例】 有機溶剤の種別毎に表の換気量を得られるもの

第1種有機溶剤等 Q=0.3W
第2種有機溶剤等 Q=0.04W
第3種有機溶剤等 Q=0.01W

Q 1分間当りの換気量(単位 m3/分)
W 作業時間1時間に消費する有機溶剤等の量(単位g)

【有害物質の発生量がわかっている場合】

管理濃度以下に下げる全体換気量の目安
必要換気量(m3/min)=
(有害物質の発散量(g/h) /管理濃度(mg/m3))×16.7

2. 給気口と換気扇は、作業場全体が換気できる (給気が部屋全体を通って排気される) ように、複数にして分散設置します。
大容量の換気扇を1台設置するのではなく、小容量のものを複数個設置(分散設置)することで、換気のムラを少なくします。

3. 気流の短絡が起こらないように、新鮮な外気が部屋全体に行き渡るように、換気扇と給気口はできるだけ離れた相対する位置(作業場全体が換気できる位置)に設置します。
換気扇を稼動している時には、近くの窓は閉めます。
これは、窓から入った空気がそのまま換気扇に短絡し、作業場内の換気が不十分になる、また排出した汚染空気が窓から逆流してくるおそれがあるためです。

4. 空気より重い(比重の大きい)有害物に対しては、床に近い低い位置に換気扇(排風)を設置すると効率よく換気ができます。

5. 作業位置(発散源)を換気扇(排風)に近い位置にすると、高濃度の汚染空気を排気できるので、換気効率が向上します。

6. 発散源より風下側は、平均濃度より高くなりますので、作業位置が風上になるように工夫することが必要です。

7. 作業場の有害物質の平均濃度が管理濃度以下になったとしても、作業者は発生源付近での作業が多く、平均濃度より高濃度に暴露されるおそれがあるので、必要に応じて呼吸用保護具を使用します。

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