2026年05月
毎年6月4日から10日までの1週間は「歯と口の健康週間」です。かつては「虫歯予防デー」として親しまれていましたが、今では虫歯だけでなく、歯周病の予防や口腔機能の維持など、お口全体の健康を考える期間へと広がっています。私たちは毎日、何気なく食べたり、話したり、笑ったりして過ごしていますが、これらを支えているのが「歯」と「口腔」です。口の健康は単に“食べ物を噛むため”だけではなく、全身の健康や人生の質(QOL)にも深く関わっています。
近年の研究から、特に歯周病が全身に及ぼす影響が明らかになってきました。歯周病菌やその毒素が血管を通じて全身に広がると、糖尿病、心疾患、誤嚥性肺炎、認知症などのリスクが高まることが指摘されています。つまり、口の健康を守ることは、そのまま全身の健康を守ることにつながるのです。しかし実際には、歯や口の不調は痛みが出るまで気づきにくく、気づいたときには治療が必要な状態になっていることも少なくありません。
「8020(ハチマルニイマル)運動」(80歳で20本以上の歯を残そう)は大きな成果を上げ、達成者はすでに半数を超えています。ただ、人生100年時代を迎えた今、歯が残っているだけでは十分とは言えません。大切なのは、しっかり噛んで食事を味わい、会話を楽しみ、日々をいきいきと過ごせる「口の働き」を保つことです。
最近では、この口の機能が少しずつ弱っていく状態を「オーラルフレイル」と呼び、注目が集まっています。オーラルフレイルは、実は全身の健康とも深くつながっています。噛む力や舌の動き、飲み込む力が弱くなると、食べられるものが限られ、食事量が減り、栄養不足を招きます。すると筋肉量が減少したり(サルコペニア)、疲れやすくなったりします。また、噛みにくさは食事の楽しみを奪い、人と食卓を囲む機会が減ることで、外出や会話の機会も少なくなりがちです。こうした小さな変化が積み重なると、気づかないうちに体力や気力が弱り、フレイルへと進んでしまうことがあります。
「歯と口の健康週間」は、忙しい毎日の中でつい後回しにしがちなお口の状態を見つめ直す絶好のチャンスです。まずは丁寧な歯磨きが基本です。ただし歯ブラシだけでは歯間の汚れは落としきれないため、デンタルフロスや歯間ブラシを併用しましょう。そして残念なことに、セルフケアには限界があります。数ヶ月たつと歯石や自分では届かない汚れがどうしても蓄積します。だからこそ、歯科医院での定期健診が大切です。歯科医院は「痛くなってから行く場所」ではなく、「定期的にメンテナンスに行く場所」へと意識を変えてみてください。プロによるクリーニングは爽快感があるだけでなく、病気の早期発見にもつながります。
歯と口の健康は、毎日の生活を心地よくしてくれる大切な存在です。「歯と口の健康週間」をきっかけに、毎日の歯磨きを“ただの習慣”から“未来への投資”へとアップデートしてみませんか。小さな積み重ねが、10年後、20年後のあなたの健康を支えてくれます。
産業保健相談員 田中 景子(産業医学)
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