産業保健コラム

門田 聖子 相談員

    • カウンセリング
    • シニア産業カウンセラー
      ■専門内容:カウンセリング全般・治療と仕事の両立支援
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産業カウンセラーは翻訳者

2026年10月

働く私たちにとって、秋は労働に関する週間や月間が目白押しの時期です。9/10~16は自殺予防週間、10/1~7が全国労働衛生週間、10/10は世界メンタルヘルスデー、11/1~30が過労死等防止啓発月間と並びます。これらは厚生労働省管轄のものですが、もう1つ「11月23日産業カウンセラーの日」を付け加えます。この日は、1960年11月23日に日本産業カウンセラー協会が設立された、ということからのようです。1960年代の日本の状況として、急速な高度経済成長と職場の歪み、アメリカからの「人間関係論」や「カウンセリング理論」の導入、そのような状況に対して「専門的に支援できる人材」の育成・確立という社会的要請が高まってきたことが、日本の産業カウンセラー誕生の源泉であったのではないかと思います。

さて、そこから現代の産業現場において、産業カウンセラーが果たすべき役割をあげようとすると、枚挙にいとまがありません。山ほどある、役割や課題の中の氷山の一角のようなことになりますが、公益財団法人日本生産性本部より2026年9月に出された「生産性年次報告」から、目についたものを取り出しました。

まず、1)「会社の理念や経営方針が従業員に浸透」していない企業の半数で「心の病」が増加傾向。という結果です。「会社の理念や経営方針は従業員に浸透している」に“そう思わない”と回答した企業では「心の病」の増加傾向が50.0%だったのに対して、“そう思う”と回答した企業では34.2%。理念や経営方針が浸透していないと回答した企業では、「心の病」が増加との回答が半数に上り、浸透していると回答した企業より15ポイント以上高い結果となっている。

そして、2)経営理念の浸透は、ワークエンゲージメントおよび心理的安全性と相関がみられ、経営理念の共有が職場環境や働きがいに影響を与えている可能性が示された。という内容です。経営理念の浸透は、回答者自身の生産性に対する認知とも相関がみられ、理念の理解促進が従業員の生産性向上に寄与する可能性が示唆された。経営理念の浸透に対する肯定的回答者は否定的回答者に比べ、ワークエンゲージメントは約1.5倍(肯定的回答4.58、否定的回答3.00)と高く、心理的安全性、生産性においても同様の傾向がみられた。

これに関連する内容として、3)自社の経営理念が説明可能と答えた従業員は4割前後にとどまる。という内容です。自社の経営理念・行動指針の「内容を理解している」(「あてはまる」「ややあてはまる」の計)と回答した従業員は54.3%と半数を超えた一方、「新入社員に説明できる」(40.2%)、「社外の人に説明できる」(39.4%)はいずれも4割前後にとどまった。年齢別では55~64歳で経営理念の浸透度が相対的に高かったが、他の年齢層では差が表れなかった。

さて、この結果を概観して組織人としては、早速「会社の理念や経営方針をあらためて従業員に浸透させよう」と、実行することに何ら憚るところはないと思います。一方、産業カウンセラーとしては、この数字だけでなく、数字の後ろにある背景を読み解きたいものです。
1つの見方ですが、理念の共有ができている、ということは、トップからの表明ができており、自分たちが組織から何を求められ、何をすればよいのかが分かっている。従業員間で理念が伝達されうる絆ができている。忙しい中でも、共有する時間を確保している。ということが言えるかと思います。産業現場全体を理解しようとするカウンセラーはカウンセリングの場面だけでなく、コンサルティングとしての側面でも状況や数字を捉えることができる、生きた翻訳者であることが求められます。そして、このようなエンゲージされた状態になり得るよう、“個人と組織双方向の今”、に対してアプローチしていくことも、1つの役割であると感じています。

出典元:公益財団法人日本生産性本部「生産性年次報告」2026年9月
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/innocon20260930_nenji2026.pdf

門田 聖子 産業保健相談員

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