産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
  • ←記事一覧へ

高齢者のメンタルヘルス

2024年10月


総務省は9月16日の「敬老の日」にあわせ、65歳以上の高齢者に関する統計を15日に公表しました。2023年の65歳以上の高齢者は前年比2万人増の3625万人と過去最多を更新しました。総人口に占める高齢者の割合も29.3%と過去最高となりました。

また、働く高齢者も増加しており、65歳以上の就業者数は914万人となり、全就業者の13.5%に該当しました。この数字も20年連続で増加しており、過去最多を更新しました。

高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52%と2人に1人が働いている計算です。定年を延長する企業が増加して、高齢者が働く環境が整ってきたことが反映されたと考えられます。今後、人口減少に伴い、高齢者の働き手が人手不足を補う形になっていくと想定されます。役員や自営業を除いた被雇用者は543万人で、このうち8割に当たる417万人はパートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用でした。

産業別では「卸売業、小売業」が132万人と最も多く、「医療、福祉」が107万人、「サービス業」が104万人と続きました。「医療、福祉」に従事する高齢者の数は、13年からの10年間でおよそ2.4倍となっています。

これらの実態を見据えると、企業は労働者の高齢化に備えて、高齢者が働きやすい職場環境を整える必要があります。腰痛や転倒などの身体的疾患のほかに、「高齢者のメンタルヘルス」に対して十分な配慮が望まれます。

高齢者のメンタルヘルスを損なう原因には、一般的に「重大なライフイベント」があり、家族や身近な人物との死別やペットロス、退職など社会的役割の低下・喪失、経済不安等が挙げられます。

これらの慢性的ストレスは、本人も気付かないうちに、うつ病等に徐々に進行してしまう可能性があります。そもそも高齢者は若年者に比べて、心気的な訴えが多い傾向があるため、本人も周囲も「いつもの愚痴」程度に受け止めてしまい、ストレス性障害に気付くことが遅れることが多いのです。いつもと違う体調不良を訴えた場合には、丁寧に話を聞く必要があります。

その傾聴の際には、相手のペースに合わせて話を進め、コミュニケーションには声の大きさや高さ、抑揚にも配慮して下さい。

定年後の再雇用で、豊富な経験を活かして働いていた67歳男性が業務上のミスが重なり、産業医から当院へ紹介されました。非常に礼儀正しく真面目なご性格でしたが、なかなか詳しい事情を教えて頂けませんでした。不安・抑うつ傾向が強まった為にご家族に連絡しようとした矢先に、ご尊父様の認知症で家族皆が困っていることを打ち明けてくれました。

このような事例では、本人ではなく、その悩みの原因について対応しなくては解決できません。職場以外の出来事は把握が難しいですが、何でも相談できる雰囲気つくりも大切です。

高齢労働者は経験豊富な人材です。企業にとってもその重要性は今後増すと思われます。ぜひ、年齢を重ねても働きやすい環境を考えて頂ければと思います。

【参考】

① NHK「きょうの健康」
うつ病 信頼できる最新治療「高齢者のうつ病」
https://www.nhk.jp/p/kyonokenko/ts/83KL2X1J32/episode/te/DNZL7KQR25/#article

② 厚生労働省
「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08912.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000585317.pdf

牧 徳彦 産業保健相談員(メンタルヘルス)

記事一覧ページへ戻る