産業保健コラム

岸田 建夫 相談員

    • 労働衛生工学
    • 岸田労働安全衛生コンサルタント事務所 代表
      労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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私の熱中症体験記

2025年09月


私事ですが、この夏、熱中症になってしまいました。熱中症予防教育などに携わっている身でありながら、誠に恥ずかしいのですが私の熱中症体験を聞いてください。

8月上旬の日曜日のことです。前日に親戚の集まりで遅くまで飲み、二日酔いでボーとしていたところに母親から電話がありました。庭の木のツルが電線近くまで延びて危ないので何とかならないかとのことで、二日酔いの体に鞭を打ち、午前9時頃から母親の庭の草刈りを始めました。当日は県下に『熱中症警戒アラート』が出ており、朝から気温が上がっていました。私は、日除けや水分補給に注意しながら1時間半ほどで作業を終了しました。

草刈りを終え母の家で休んでいると、急に吐き気を感じ、4回ほどおう吐してしまいました。その後は、濡れタオルで体を冷やし、水分を摂取し、しばらく休憩すると体調が戻ったので、病院へは行かず自宅に戻り静養しました。体調の悪いときの熱中症リスクを痛感しました。

具合が悪くなったのは翌日からです。もともと風邪気味ではあったのですが、1日中の講習で朝から話をしていると夕方には声がかすれて出なくなりました。この日から、熱は無いのですが、寒気や倦怠感が続き、軽いジンマシンが数回出るなどの体調不良に3週間ほど悩まされました。
私には医学的な知識がありませんので、熱中症との因果関係は定かではありませんが、やはりあの日の熱中症の影響があったと思われます。

日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン」によれば、おう吐等の症状は「熱疲労」に分類され、重症度Ⅱで医療機関への搬送が必要とされています。当日に病院で点滴などの治療を受けていれば、これほど症状が長引くことは無かったと思われ、今更ながら「これくらいは大丈夫」と勝手に判断したことが悔やまれます。

本年の6月1日、職場の熱中症対策について、労働安全衛生規則が改正され、罰則付きで施行されました。今回の改正は、熱中症による死亡災害の多発を踏まえたもので、熱中症の症状を早期に見つけ連絡する体制を整備し、重症化させないための処置基準を定め労働者に周知することなどが義務付けられました。
産業保健担当者の皆さまは、改正安衛則への対応に追われたものと思われますが、法規制が行われたことで、職場の熱中症対策はこの夏に大きく前進しました。

気象庁は、9月1日に今年の夏(6月~8月)の日本の平均気温が平年を2.36度上回り、1898年の統計開始以降で最高になったと発表しました。これまでの記録を大きく上回り、3年連続で最も暑い夏となり、気温上昇に歯止めがかからない状況が続いています。

8月4日には、群馬県伊勢崎市で41.8度を観測し、国内最高記録を更新するなど、9月に入っても異常な暑さが続いています。

歴史的な猛暑が続く中、熱中症を完全に防ぐことは困難と思われますが、熱中症の症状を早期に発見し、適切に対応すれば死亡や重症化を防ぐことは可能です。作業している方々には「これくらいなら大丈夫、もうひと頑張り」という心理があることを理解いただき、朝の体調確認(二日酔い、睡眠不足など)を行い、作業中の声掛け(水分補給や休憩の確認)、熱中症が疑われる症状への適切な対応をお願いいたします。

産業保健相談員(衛生工学) 岸田建夫

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