2025年10月
温泉に毎日入るとうつになりにくい――。2023年に九州大学の研究チームが「温泉入浴の習慣が気分の落ち込みの改善をもたらし、高齢者のうつ発症の予防につながる可能性がある」との研究論文を国際学術誌に発表した。
温泉に限らず、入浴には身体を温めることで血行を促進し、筋肉の緊張を和らげ、リラクゼーション効果がある。日本では古くから「湯治」や「温泉療法」など、入浴による心身の健康増進が行われてきており、現在その効果が見直されている。特に、自律神経の調整(副交感神経が優位になりやすい)や、睡眠の質の向上には効果に関する報告は多い。
また、湯に浸かる入浴(浴槽入浴)の頻度と長期的な抑うつ発症との関連を、長期コホート研究の結果、冬に浴槽入浴を頻繁に行う高齢者では新たな抑うつの発症が有意に少ないことを、早坂ら(東京都市大学)が日本温泉気候物理医学会雑誌に報告(2023年)した。
これらの報告は、臨床医としては大変興味深く、日々の診療に照らし合わせると、確かに「うつ傾向」にある方は、何事にも億劫で入浴を毎日していない旨もよく聞く。特に高齢者は入浴自体が、身体的にも却ってしんどいとの表現も多い。
ただ、入浴は「今、この瞬間」に意識を向けるマインドフルネス的な効果もあり、気分転換や安心感を得やすい環境を作ることができるため、ストレスが溜まったと感じる方にはセルフ対応としてお勧めしたい。無理をせず、シャワーや足湯など短時間・部分的な温浴から始めるのも一手である。
ちなみに、長時間の入浴や熱すぎるお湯は体への負担となるため、38〜40℃程度のぬるめのお湯に10~20分程度浸かるのが一般的には適している。
環境省のリーフレット「あんしん・あんぜんな温泉利用のいろは」をご参照されたい。
牧 徳彦 産業保健相談員(メンタルヘルス)
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