産業保健コラム

廣瀬 一郎 相談員

    • カウンセリング
    • カウンセリングルームこころの栞 主宰カウンセラー
      ■専門内容:カウンセリング全般
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これからの企業経営に求められるカウンセリング的態度

2026年02月


名だたる経営者は皆、カウンセラーです。相手に敬意を払い、自己決定を尊重し、善意を信じ、温かさ、厳しさ、重々しさを兼ね備えた生き方をしています。よって、目の前にいる相手は「あなたがそこにいてくれるだけで、私は安心できる」という心理的安全性を感じることができます。これが本来のリーダーの権威であり、迫力、影響力です。

ビジネスの世界では、常に成果を上げることが求められます。従って、いつまでたっても目に見える成果の上がらない部下がいれば、上司の頭の中に「役に立たない奴」という言葉が、つい、よぎることだってあるでしょう。しかし、本当に「役に立たない奴」が事実なのでしょうか?物事には、必ずプラス面とマイナス面があります。それを観察しようともせず、上司の期待に応えていないというだけで、部下に無能のレッテルを貼り、人としての価値を値引いてはいないでしょうか。

ほとんどのハラスメントは『値引き』です。ここでの『値引き』とは、自己や他者、または現実場面のある面を過小評価あるいは無視している状態を指します。よって、声をかけたのに挨拶もしてくれないことが2、3回あったというだけでは、ハラスメントには該当しません。けれども、「お前は役に立たん。お前みたいなやつを給料泥棒と言うんぞ!」と言えば、たった1回でもハラスメントです。

もし、お店に並ぶ商品(モノ)にこころがあったらと想像してみてください。商品棚で待っているのに、ずっと自分だけ買い手が現れません。店主が「これ全然売れない」「もう、半額でいいぞ」と言っているのが聞こえてきます。隣の商品たちは、なぜか、どんどん購入され、入れ替わっていきます。挙句の果てには、「それ、あげますから、どうぞ持って行ってくださいよ」と言われる始末です。皆と同じように作られ、同じように並んでいるのに、自分はただ同然の扱いを受けるのです。相手の存在そのものを否定する心理的『値引き』は、これと同じ状態です。

成果が上がらない部下に言葉をかける場合、それが現実と合っていて、なおかつ、部下の人間性と可能性に対する「あなたの力になりたい」という敬意を反映した言動であれば、値引きやハラスメントにはなり得ません。「もっとお前頑張らんといかんぞ」「このままでは、会社としても何らかの対応をしないといけない」という厳しい言葉も、信頼関係をベースに、敬意を反映した態度とともに伝えられることで、必ず相手に響き、行動変容へとつながります。

これからの時代、企業にも、管理監督者にもカウンセリング的な態度が必要不可欠です。誰にも、自分自身や他者の存在を否定することはできません。目の前の人が、奇妙だろうと、何だろうと、かけがえのない1人の人として尊重するのが、カウンセリングの基本的態度です。これは、こころが広い、狭いの問題ではありません。目の前の人を、ありのまま、あるがまま、そのまんまで受け入れることなのです。

産業保健相談員 廣瀬 一郎(カウンセリング)

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