産業保健コラム

園田 順二 相談員

    • メンタルヘルス
    • 園田内科神経科医院 院長
      ■専門内容:精神科・神経科・精神保健
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精神障害等の労災認定について

2009年06月


仕事のストレスが高まって精神障害を引き起こした、あるいは業務の心理的負荷を原因として自殺したとして労災請求されるケースが増えています。精神障害等というのは精神障害、精神障害による自殺企図、自殺の事を指します。精神障害等による労災請求の統計は昭和58年度から始まっていますが、平成8年度までは1桁、平成9年度にやっと2桁の11件となりました。その後、精神障害に係る労災請求は急増し、平成19年度の請求件数は952、決定件数812、支給決定件数268(うち自殺81)となっています。

平成10年の自殺者は警察庁の統計で年間3万人を超えました。そのことを受けて平成11年9月に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が策定されました。判断指針ではその成因を「ストレス-脆弱性」理論により理解することとしています。環境ストレス(心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性の関係で精神的破綻が生じるかどうか決定されるという考え方です。心理的負荷が非常に大きければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害を起こしますし、逆のことも言えます。精神障害発症のメカニズムは複雑で、その症状も様々なため業務との関連性を証明するには慎重かつ正確な調査が求められます。

業務上外認定の流れについて述べてみます。
①精神障害が発病した場合、国際疾病分類第10回修正(以下「ICD-10」)に基づく疾患名を特定します。気分(感情)障害、神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現障害の疾患名が多くみられます。余談になりますが、「心身症」は業務上外判定の対象となる精神障害には該当しません。

②次に発病前6ヶ月間における出来事を評価します。事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生、質・量にわたる仕事の変化など業務による心理的負荷の有無、業務による心理的負荷の強度の評価・修正をおこないます。

③個人の出来事、家族・親族の出来事、金銭問題など業務以外の心理的負荷の強度を評価します。

④既往歴、生活史(社会的適応状況)、アルコール・薬物への依存、性格傾向等の個体側の要因についても検討します。精神障害は②③④が複雑に作用して発症するものと考えられています。

総合的評価を行った結果③業務以外の心理的負荷④個体側要因より②業務による心理的負荷が〔強〕と判断された場合、業務上の精神障害と認定されます。「ICD-10」に分類される精神障害で、業務による心理的負荷によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、または自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されて自殺が行われたと推定される場合、原則として業務起因性が認められます。

平成21年4月6日付で「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の一部が改正されました。具体的出来事が新たに12項目追加され「心理的負荷の強度を修正する視点」の見直しも行われています。「違法行為を強要された」などが追加されています。食品偽装、賞味期限の改ざん、欠陥製品等、法令に違反する行為を強要された場合の心理的負荷が評価され世相が反映されたものとなっています。

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