産業保健コラム

園田 順二 相談員

    • メンタルヘルス
    • 園田内科神経科医院 院長
      ■専門内容:精神科・神経科・精神保健
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診断書にみられるメンタル疾患について考える

2012年10月


 最近、特に気にしているのですが、病気休暇に入るときに医療機関から提出される診断書の疾患名について私見を述べておきたいと思います。

 私もこれまでに多くの患者さんに出会いました。例えば、100人の患者さんがおられたら100種類の病態があり、症状も多岐に亘りその経過も様々です。

 ただし、医療機関から提出される診断書の疾患名は、ほぼ限られておりますが100パーセント患者サイドに立った前提で書かれたのではないかと推測されるものが多く、注意深く判断する必要があります。勿論、事業者は病気による休養として扱い、主治医に対し異議を唱えることはありません。

 昭和57年、日航機が東京の羽田沖に不時着し、多くの犠牲者を出しました。

 「機長は心身症」という見出しで当時、新聞紙上をにぎわし、職場の健康管理でメンタル疾患が注目され始めた頃でした。その後の調査で機長の言動には幻聴や被害妄想があり、心身症の疾患名について議論されたことが記憶に残っております。私の経験では、診断書で統合失調症の診断名には、ほとんど出会うことはありません。以前、会社の偏見や無理解の中で精神分裂病と呼称されていた時代には、患者さんの立場にたって、心身症、神経衰弱、自律神経失調症や心因反応等の疾患名で提出されていました。近年、統合失調症の治療薬として新しい抗精神病薬が開発され、早期に診断し治療を行うことによって、良好な治療成績が得られるケースが多くなっております。

 過去の偏見が未だに企業や事業所内に残っているのではと危惧をしております。

 統合失調症についての正しい知識の理解と普及啓発が望まれます。

 ここで少し私の見解を述べておきます。自律神経失調症は、自律神経(交感神経と副交感神経はもともとバランスが取れて機能している)が身体的あるいは心理的な何らかの要因で自動的にうまく機能していかない状態のことを意味しています。心因反応は、生活上の激しいストレスの反応として、あるいは生活上の出来事や環境の変化に対する不適応として起こる障害(適応障害も含む)すべてを包含しており、不眠、不安、精神病症状(幻覚や妄想)、さらにうつや躁症状をみることがありますので診断名としてよく使用されています。

 うつ病、抑うつ状態、うつ状態は、企業に提出される診断書に書かれている疾患名としては最も多いのではないかと思います。「うつ病」は疾患名です。

 抑うつ状態、うつ状態は、状態像であってこの状態を呈する疾患としては、うつ病の外、統合失調症、不安障害、認知症、ステロイドなど薬物による精神障害、身体疾患(甲状腺機能不全など)に併発する精神障害などがあります。単にうつ病といっても様々な背景や経過と他の症状の出現や病相の推移を考慮しなければ患者さんの病状を理解することが困難であります。

 さらに、外因性という心因としては考えられない心の外側に原因がある場合、主に、アルコール性、薬剤性、脳の器質的疾患、糖尿病やパーキンソン病ではうつ病が併発するケースが多いと言われております。うつ病は従来の分類では統合失調症と同じく内因性の精神障害として、脳内の何らかの生物学的・脳化学的な要因(脳の神経伝達物質など)の追求や遺伝子解析研究などが進められてきました。また生体リズムの異常仮説も報告されていますが、いまだ確立されたものはありません。今後の研究に期待が寄せられています。

 心因性の代表的なものは、「仕事上のミスをした」、「上司から叱責を受けた」、「行きたくない部署に異動された」という悩みを抱くなど、職場のメンタルヘルスと関係の深い「うつ病」です。適応障害というのは、ある出来事や状況の変化(生命的危機のある疾患に罹る、職場環境の変化、退職、死別など)への適応をするように本人も努力をするのですが、それに失敗して心身の症状が現れたのが適応障害です。うつ病のような症状を呈していても、うつ病の診断基準を満たしていない、厳密には人事異動で転勤などのストレスから3か月以内に発症した場合で、職場のメンタルヘルス不調としてよくみられる疾患です。

 特に気になるのは、近年、企業における機械化の進展、情報化の普及が進み、職場における人間関係の希薄が目立つようになり、一方では個人情報云々といった影響もあって、労働者(患者)―医師―企業の連携がうまく機能していないように感じています。診断書の疾患名だけの問題ではないと思います。

 したがって、職場復帰に際しては支援体制の一環として患者(労働者)―主治医―産業医の意思疎通が図れる仕組みが必要ではないかと思います。

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