産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
  • ←記事一覧へ

記憶より記録を残しましょう

2024年03月


「記憶にございません」とよく言われていますが、人の記憶は時と共に曖昧になってくるのも事実です。
大切なことは、「記録し保存」しておくことが必要です。
安衛法でも労働者の健康にかかわる大切なことは、記録し一定期間保存することが定められています。
重要なものには、罰則付きの義務となっており、これに違反すると、次の事例のように検察庁に送検され、罰則が適用されることもあります。

(事例は労基法違反ですが安衛法違反も同様です)

(事例)
平成4年にK労基署は、運送会社と同社代表取締役を、労働関係の重要な書類(労働者名簿、賃金台帳、労働時間管理としての運転日報やタコグラフ等の書類)を3年間保存せずに廃棄したとして、労基法第109条(記録の保存)違反の疑いで、地検に書類送検した。

記録・保存は、法違反にならないためだけでなく、ノウハウの継承、健康障害発生時の因果関係究明の資料に、また教育記録であれば労働者の育成資料に・・・等々にも活用できます。

1. 保管すべき労働衛生関係書類と法的根拠

法的根拠を確認しながら、記録・保存すべき書類を紹介します。
安衛法に基づき作成すべき書類のうち、特に健康障害を防止する上で必要とされるものは、罰則付きの義務になっています。
これらを中心に(それ以外も含めて)、説明します。

事業者が、安衛法・第103条第1項の規定に違反して、法定事項を記録し保存しない場合は、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
以下にこの法的根拠を示します。

書類の保存については、安衛法・第103条第1項で、「事業者は、厚労省令で定めるところにより、この法律又はこれに基づく命令の規定に基づいて作成した書類を、保存しなければならない」と定められています。

安衛法・第103条第1項に基づき事業者が保存すべき書類の主なものは、次の通り。
① 特別教育記録
② 健康診断の結果に関する記録
③ 定期自主検査結果報告記録
④ 作業環境測定結果記録及びその評価記録
⑤ 安全衛生委員会会議記録(議事で重要なもの)

安衛法・第103条第1項に違反した時の罰則は、安衛法・第120条第1項で、50万円以下の罰金となっています。

2. 保存すべき書類の詳細

(1). 特別教育の記録 ( 3年間保存)
安衛則・第38条(特別教育の記録の保存)
事業者は、特別教育を行なったときは、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成して、これを3年間保存しておかなければならない。

特別教育を必要とする業務は、安衛則・第36条に列挙されています。
(例)  酸欠、特定粉じん、石綿、四アルキル鉛・・・等の作業

なお、雇入れ時と作業内容変更時の教育については、実施記録と保存は、法令では明記されていませんが、トラブル回避の観点からは、記録を残しておくのが望ましいと思います。

(2). 健康診断の結果記録
健康診断結果記録や面接指導結果記録は、医療法のカルテの保存年限に合わせて保存年限が原則5年間とされています。

原則から外れるものとしては、じん肺健康診断記録の保存期間は、7年間です。
特化則等で「発がん性」のある物質(特別管理物質)の健康診断記録の保存期間は、30年間となっています。
また、石綿健康診断記録の保存期間は、40年間となっています(中皮腫)。

健康診断の結果は、電子データ又は紙にて保管するように定められています。
紙での保管は、物理的な収納スペースの確保が必要であり、かつ必要データを探し出すのに時間と労力がかかります。
電子データでの保管は、収納スペースの確保も不要で、過去の結果参照や分析等もスムーズに実施できるという利点があります。

1). 一般健康診断の「記録・保存」の法的根拠は、安衛法・第66条の3(健康診断の結果の記録)で、「事業者は、厚労省令で定めるところにより、第66条第1項から第4項まで及び第5項ただし書並びに前条の規定による健康診断の結果を記録しておかなければならない」です。

安衛則・第51条(健康診断結果の記録の作成)
事業者は、以下の健康診断結果に基づき、健康診断個人票(同・様式第5号)を作成して、これを5年間保存しなければならない。

雇入時の健康診断(安衛則・第43条)、定期健康診断(同・第44条)、特定業務従事者、海外派遣労働者、給食従業員の検便、歯科医師の健康診断(同・第45条~48条)
都道府県労働局長の指示による臨時の健康診断(安衛法・第66条第4項)
他医師による健康診断(安衛法・第66条第5項ただし書の場合の健康診断)
自発的健康診断(安衛法・第66条の2の自ら受けた健康診断)

安衛則・第51条の2
健康診断後「異常の所見あり」と診断を受けた従業員に対しては、3ヵ月以内に産業医等の意見を聞くこと。
聴取した意見は、健康診断個人票に記載し、健康診断結果と合わせて、適切に保管すること。

2.) 有機溶剤等健康診断  個人票(有機則・様式第3号)  5年間保存
有機則・第30条 (健康診断の結果の記録)
事業者は、前条第2項、第3項又は第5項の健康診断(有機溶剤等健康診断)の結果に基づき、有機溶剤等健康診断個人票(様式第3号)を作成し、これを5年間保存しなければならない。

3). 特定化学物質健康診断  個人票(特化則・様式第2号)
特別管理物質の製造・取扱い業務は30年間、それ以外は5年間の保存特化則・第40条(健康診断の結果の記録)
事業者は、前条第1項から第3項までの健康診断(特定化学物質健康診断)の結果に基づき、特定化学物質健康診断個人票(様式第2号)を作成し、これを5年間保存しなければならない。

特別管理物質を製造し、又は取り扱う業務に常時従事し、又は従事した労働者に係る特定化学物質健康診断個人票は、これを30年間保存する。

4). じん肺健康診断  個人票 (じん肺・様式第3号)  7年間保存
じん肺法・第17条(記録の作成及び保存等)
事業者は、厚労省令で定めるところにより、その行ったじん肺健康診断及び第11条ただし書の規定によるじん肺健康診断(他医師のじん肺健康診断)に関する記録を作成しなければならない。

2 事業者は、厚労省令で定めるところにより、前項の記録及びじん肺健康診断に係るエックス線写真を7年間保存しなければならない。

じん肺則・第22条(記録の作成及び保存等)
事業者は、法第7条から第9条の2までの規定によりじん肺健康診断を行つた時、又はじん肺法第11条ただし書の規定によりエックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面が提出された時は、遅滞なく、当該じん肺健康診断に関する記録を様式第3号により作成しなければならない。

2 事業者は、前項の場合には、同項の記録及びじん肺健康診断に係るエックス線写真を保存しなければならない。
ただし、エックス線写真については、病院、診療所又は医師が保存している場合は、この限りでない。

5). 電離放射線健康診断 個人票(電離則・様式第1号の2、第1号の3) 30年間保存
5年間保存後に厚労大臣が指定する機関に引き渡す時はこの限りではない。
電離則第57条(健康診断の結果の記録)
事業者は、第56条第1項又は第56条の2第1項の健康診断の結果に基づき、
第56条第1項の健康診断(電離放射線健康診断)にあっては、
電離放射線健康診断個人票(様式第1号の2)を、
第56条の2第1項の健康診断(緊急時電離放射線健康診断)にあっては、
緊急時電離放射線健康診断個人票(様式第1号の3)を作成し、
これらを30年間保存しなければならない。

ただし、当該記録を5年間保存した後において、厚労大臣が指定する機関に引き渡す時は、この限りではない。

6). 石綿健康診断  個人票(石綿則・様式第2号)  40年間保存
石綿則・第41条(健康診断の結果の記録)
事業者は、前条各項の健康診断(石綿健康診断)の結果に基づき、個人票(様式第2号)を作成し、これを当該労働者が当該事業場において常時当該業務に従事しないこととなった日から40年間保存しなければならない。

以下、詳細は省略
7). 鉛健康診断      個人票(鉛則・様式第2号)       5年間
8). 四アルキル鉛健康診断 個人票(四アルキル鉛則・様式第2号) 5年間
9). 高気圧業務健康診断   個人票(高圧則・様式第1号)     5年間

(3) 作業環境測定結果記録とその評価結果記録
1).特化則・第36条 (測定及びその記録)
事業者は、令第21条第7号の作業場について、6月以内ごとに1回、定期に、第1類物質又は第2類物質の空気中における濃度を測定しなければならない。

2 事業者は、前項の規定による測定を行つたときは、その都度次の事項を記録し、これを3年間保存しなければならない。
1.測定日時 2.測定方法 3.測定箇所 4.測定条件 5.測定結果 6.測定実施者名
7.定結果に基づき当該物質による労働者の健康障害の予防措置を講じた時は、当該措置の概要

3 事業者は、特別管理物質を製造・取り扱う作業場について行った測定の記録については、30間保存するものとする。

特化則・第36条の2(測定結果の評価)
事業者は、測定を行つた時は、その都度、速やかに厚労大臣の定める作業環境評価基準に従つて、作業環境の管理の状態に応じ、第1管理区分、第2管理区分又は第3管理区分に区分することにより、当該測定の結果の評価を行わなければならない。

2 事業者は、前項の規定による評価を行つた時は、その都度次の事項を記録して、これを3年間保存しなければならない。
1.評価日時  2.評価箇所  3.評価結果  4.評価実施者名

3 事業者は、特別管理物質に係る評価の記録については、30年間保存する。

以下 2)~ 5)は、上記の特化則と同じ内容のため、詳細は省略
2). 有機溶剤作業環境測定記録     3年間  有機則28条
有機溶剤作業環境測定結果の評価記録   3年間  有機則28条の2

3). 粉じん作業環境測定記録      7年間  粉じん則26条
粉じん作業環境測定結果の評価記録   7年間  粉じん則26条の2

4). 石綿作業環境測定記録       40年間  石綿則36条
石綿作業環境測定結果の評価記録     40年間  石綿則37条

5). 鉛作業環境測定記録 3年間 鉛則52条
鉛作業環境測定結果の評価記録 3年間 鉛則52条の2

6). 酸欠則・第3条(作業環境測定等)
事業者は、作業を開始する前に、当該作業場における空気中の酸素(第2種酸欠危険場所では酸素及び硫化水素)の濃度を測定しなければならない。

2 事業者は、前項の規定による測定を行つた時は、その都度、次の事項を記録して、これを3年間保存しなければならない。
1.測定日時 2.測定方法 3.測定箇所 4.測定条件 5.測定結果 6.測定実施者名
7.測定結果に基づいて酸欠症等の防止措置を講じた時は、当該措置の概要

その他の作業環境測定
放射性物質(5年保存)
著しい騒音を発する作業場の等価騒音レベル(3年)
坑内の通気量、気温、炭酸ガス濃度(3年)
気温、湿度及びふく射熱(暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場)(3年)
焼却施設関連のダイオキシン類の濃度(3年)
事務所の中央管理方式の空気調和設備
(一酸化炭素、炭酸ガス、室温、外気温、相対湿度)(3年)

(4) 点検・検査結果の記録
1). 定期自主検査結果の記録
安衛法・第45条第1項(定期自主検査)
事業者は、ボイラーその他の機械等で、政令で定めるものについて、厚労省令で定めるところにより、定期に自主検査を行ない、その結果を記録しておかなければならない。

安衛令・第15条(定期に自主検査を行うべき機械等)
安衛法・第45条第1項の政令で定める機械等は、次のとおり(衛生関係抜粋)。

32. 化学設備及びその付属設備          安衛則276条
33. アセチレン溶接装置及びガス集合溶接装置   安衛則317条
34. 乾燥設備及びその付属設備          安衛則299条
36. 局所排気装置、プッシュプル型換気装置、除じん装置、排ガス処理装置及び廃液処理装置で労働省令で定めるもの
特化則32条、有機則20条、粉じん則18条・・・等
37. 特定化学設備及びその付属設備   特化則32条
38. ガンマ線照射装置で、透過写真の撮影の用に用いられるもの
電離則18の6 電離則18の7

省令の定めは、次の事項を記録し3年間保存
1.検査年月日  2.検査方法  3.検査箇所  4.検査の結果  5.検査実施者名
6.検査の結果に基づいて補修等の措置を講じたときは、その内容

2). 点検結果の記録
事業者は、厚労省令で定めるものを初めて使用する時、又は分解して改造若しくは修理を行つた時は、装置の種類に応じ、当該各号に掲げる事項について点検を行わなければならない。
事業者は、点検を行った時は、次の事項を記録し、これを3年間保存しなければならない。
1.点検年月日 2.点検方法 3.点検箇所 4.点検の結果 5.点検実施者名
6.点検の結果に基づいて補修等の措置を講じたときは、その内容

以上について、記録・保存に抜けがないかチェックしてみましょう。

次回は、後編として、安全衛生委員会議事録、がん原性物質等の作業記録、リスクアセスメントの結果の記録、長時間労働に関する面接指導の結果記録、ストレスチェックの結果記録・面接指導結果の記録等について説明します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

記事一覧ページへ戻る