産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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委員会議事録・リスクアセスメント結果の記録・他

2024年05月


記録の保存の後編として、安全衛生委員会議事録、がん原性物質等の作業記録、リスクアセスメントの結果の記録、長時間労働に関する面接指導の結果記録、ストレスチェックの結果記録・面接指導結果の記録等について説明します。

1. 安全衛生委員会議事録 (重要なものに係る記録を3年間保存 → 安衛則23条)
労基署立ち入りの際、必ず確認されるのが「衛生委員会の議事録」です。

法令では、安衛則第23条(委員会の会議)で、

1. 事業者は、安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下委員会)を毎月1回以上開催するようにしなければならない。 ・・・第2項(略)

3. 事業者は、委員会の開催の都度、遅滞なく、委員会における議事の概要を以下に掲げるいずれかの方法によって労働者に周知させなければならない。

(1) 常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けること。

(2) 書面を労働者に交付すること。

(3) 事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体をもつて調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

4. 事業者は、委員会の開催の都度、次に掲げる事項を記録し、これを3年間保存しなければならない。

(1) 委員会の意見及び当該意見を踏まえて講じた措置の内容

(2) 前号に掲げるものの他、委員会における議事で重要なもの ・・・第5項(略)

1). 委員会の議事録作成の目的、役割
労基署立入り(臨検)の際、必ず確認されるのが、この「委員会の議事録」です。
委員会議事録には下記のような目的、役割がありますので、「適切な内容での作成」と「3年間の保存」が必須です。

(1).法定の義務 → 作成と3年間の保存(23条4項)

(2).労基署の立入り検査(臨検)時に提示 → 3年分の議事録

(3).委員会での内容を労働者へ周知しなければならない(23条4項)。
このためにも議事録を適切に作成しておくことが必要です。
周知方法は、掲示、従業員に書面を交付、電磁的記録媒体を使う方法等(23条3項)

(4).委員会でのテーマの重複を避ける。

(5).委員会を欠席したメンバーへの情報提供にも使えます。

(6).今後の委員会の活性化と職場環境の改善に活かせます。

2). 議事録の保管方法
議事録は電子データとしての保管も認められていますので、電子データ保管にしておけば、ファイリングや管理の手間が削減でき、検索も容易になります。

3).記載内容
議事録を作成しなさいと定められている(23条4項)ものの、その記載内容の詳細までは決められていません。
そこで、記載例を紹介します。

議事録に記載する主な項目

(1).開催日時
委員会は毎月1回以上の開催が義務であり、議事録に開催日時を明記しておくことで法令遵守を証明することになります。

(2).出席者
出席したメンバーの名前と委員会での役割を記載しておくことで、法定(安衛法第19条)の構成メンバーになっていることが確認できます。

(3).審議・報告された内容 → 下記に例示
委員会で話し合われた事項をまとめて記載します。
議題毎に要点や決定事項、補足事項、今後の検討事項等に分別して記載すれば、分かりやすくなります。

1.定例報告・・・私傷病、休職者、長時間労働者等の発生状況報告、労災報告、職場巡視の結果報告、作業環境測定結果、実施予定の健診、医師面談、点検、監査等のスケジュール

2.議題に関する調査審議
・定期健診の結果と有所見者の事後措置
・ストレスチェックの結果や高ストレス者の事後措置
・熱中症等の業務上疾病(健康問題)予防対策検討

(4).合意・決定事項

(5).産業医コメントや産業医講話
医学的な専門家の立場からアドバイスしてもらえるので参考になります。

(6).議長コメント
委員会の内容をまとめたもので、議事録作成のポイントとなります。

追加された委員会の付議事項(議事)

委員会の付議事項(議事)に、以下の 1~4の事項が追加となり、化学物質の自律的な管理の実施状況の調査審議を行うことが義務になり、これらの議事録の作成・保存が必要となりました。

1. 労働者が化学物質にばく露される程度を最小限度にするために講ずる措置に関すること
2023(R5).4.1施行  以下の2.~4は、2024(R6).4.1施行

2. 濃度基準値の設定物質について、労働者がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関すること

3. リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講ずるばく露低減措置等の一環として実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関すること

4. 濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときに実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関すること

2. 作業の記録

1).特別管理物質 ・・・ 特化則・第38条の4
事業者は、特別管理物質を製造し、又は取り扱う作業場において、常時作業に従事する労働者について、1月を超えない期間ごとに次の事項を記録し、これを30年間保存するものとする。

1. 労働者の氏名

2. 従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間

3. 特別管理物質により著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び事業者が講じた応急の措置の概要

特定化学物質の第1類物質と第2類物質のうち、がん原性物質又はその疑いがある物質を「特別管理物質」として、後々発生する恐れがある健康被害(がん)を監視するため、常時使用する場合は「作業記録」を作成して、これを30年間保存することが義務付けられています。

作業記録は、1ヶ月以内毎に作成(毎日が望ましい)し、その内容は、特化則・第38条の4を参照ください。
また特別管理物質は、特化物等健康診断個人票と作業環境測定結果についても30年間の保存が必要です(前回参照)。

2). がん原性物質 → 安衛則第577条の2第3項
がん原性がある物として厚労大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者については、労働者のばく露の状況、作業の概要等の記録を30年間保存しなければならない。

安衛則・第577条の2・第3項(概略)
事業者は、がん原性物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者について、1年を超えない期間ごとに1回、定期に、記録を作成し、当該記録を1号と4号は3年間、2号と3号は、30年間保存しなければならない。

1. 労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を、最小限度にするために講じた措置の状況

2. 労働者のがん原性物質の暴露の状況

3. 労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
(概略、特化則の特別管理物質の規定に類似)

4. 前項の規定による関係労働者の意見の聴取状況

記録の頻度は、1年を超えない期間ごとに1回、定期に、記録を作成。
特別管理物質では「1月を超えない期間ごとに1回」の記録に対して、頻度が緩和されています。

厚労大臣が定めるがん原性物質についての告示 (2023年4月1日施行)
この告示で、がん原性物質の対象を定めています。
これによると、リスクアセスメント対象物のうち、国が行う化学物質の有害性の分類の結果、発がん性の区分が区分1に該当する物となっています。

2023年4月1日から適用されているものは、約120物質
2024年4月1日から適用されているものは、約 80物質

対象物質名は、厚労省の告示ホームページに「対象物質の一覧」があるので確認できます。
ただし、特化則第38条の3に規定する特別管理物質(前記)は、特化則で作業記録の30年間保存が既に規定されており、二重規制を避けるため、対象から除外されています。

3. リスクアセスメント結果等に関する記録の作成と保存

1).リスクアセスメントの結果と、その結果に基づき事業者が講ずる労働者の健康障害を防止するための措置の内容等は、関係労働者に周知するとともに、記録を作成し、次のリスクアセスメント実施までの期間(ただし、最低3年間)保存しなければならない。
2023(R5).4.1施行

事業者は、リスクアセスメントを行ったときは、下記の事項について、記録を作成し、次にリスクアセスメントを行うまでの期間保存するとともに、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取扱う業務に従事する労働者に周知させねばならない。

• リスクアセスメント対象物の名称
• 業務の内容
• リスクアセスメントの結果
• リスクアセスメントの結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容

保存期間

• 次にリスクアセスメントを行うまでの期間
• リスクアセスメントを行った日から起算して3年以内にリスクアセスメント対象物についてリスクアセスメントを行ったときは、3年間

2). ばく露低減措置等の意見聴取、記録作成・保存

ばく露低減措置について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けなければなりません。
なお、関係労働者等が委員会に参加している場合は、委員会の調査審議と兼ねて行っても差し支えありません。
下記の1~4の事項について、1年を超えない期間ごとに1回、定期に、記録を作成し、記録を保存するとともに、従事労働者に周知させねばなりません。

1. ばく露低減措置の状況 … 保存年限3年

2. 業務従事労働者のばく露の状況 … 保存年限3年 がん原性物質は30年

3. 労働者の氏名、従事した作業の概要及び作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要 保存年限30年間

4. 関係労働者の意見の聴取状況

3). リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講じるばく露低減措置等の一環としての健康診断の実施・記録作成等  2024(R6).4.1施行

• リスクアセスメント対象物による健康影響の確認のため、事業者は、労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師等が必要と認める項目の健康診断を行い、その結果に基づき必要な措置を講じなければなりません。
• 濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときは、速やかに、医師等による健康診断を実施しなければなりません。
• 上記の健康診断を実施した場合は、その記録を作成し、5年間(がん原性物質に関する健康診断は30年間)保存しなければなりません。

4. 長時間労働に関する面接指導の結果記録
事業者は、面接指導に関わる記録を一定期間保存することが必要です。

1. 面接指導の結果を記録し、5年間保存

2. 面接指導後に事業者が講じた措置内容を記録し、5年間保存措置を講じない場合は、その旨と理由を記録して保存すること。

3. 委員会に報告する「産業医からの勧告内容」と、勧告を踏まえて講じた措置内容を記録し、3年間保存

安衛則・第52条の6(面接指導結果の記録の作成)
事業者は、面接指導の結果に基づき、当該面接指導の結果の記録を作成して、これを5年間保存しなければならない。

2 前項の記録は、下記の各号に掲げる事項及び法第66条の8第4項の規定による医師の意見を記載したものでなければならない。
面接指導結果の記録は、次に掲げる事項を記載したものでなければならない。

(第52条の5)
・実施年月日
・当該労働者の氏名
・面接指導を行つた医師の氏名
・当該労働者の疲労の蓄積の状況
・前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況

5. ストレスチェックの結果記録
面接指導の結果の記録 ・・・ 5年間 保存
50人以上の従業員がいる企業は、ストレスチェックと面接指導の実施状況を記載した報告書を労基署へ提出する義務があります。

第52条の18
事業者は、面接指導の結果に基づき、面接指導の結果の記録を作成して、これを5年間保存しなければならない。

2 前項の記録は、前条各号に掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載したものでなければならない。

1 実施年月日
2 当該労働者の氏名
3 面接指導を行つた医師の氏名
4 法第66条の10第5項の規定による医師の意見

前条各号に掲げる事項(記録が必要な事項)とは、
1 当該労働者の勤務の状況
2 当該労働者の心理的な負担の状況
3 前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況

第52条の21
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、定期に、心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書を所轄労基署長に提出しなければならない。

6. 高ストレス者に対して行う医師による面接指導

ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された従業員に対して行う医師による面接指導の結果記録についても、業者が5年間保存することが義務付けられています

対象者が申し出を行い面接指導が行われた後、事業者は1カ月以内に医師から意見聴取し、面接指導を受けた労働者に関わる以下7項目について記載した面接指導の結果記録を作成しなければなりません。

1. 面接指導の実施年月日
2. 労働者の氏名
3. 面接指導を行った医師の氏名
4. 労働者の勤務状況
5. 労働者の心理的な負担状況
6. 労働者の心身の状況(4、5以外)
7. 労働者の健康を保持するために必要な措置についての医師の意見

7. 衛生管理者の巡視記録
衛生管理者は週1回の頻度で職場巡視をする必要があります。
職場巡視記録の作成は法定ではありませんが、巡視でわかったことを記録(日誌、報告書等)として残しておくことは、今後の活動の参考になりますし、巡視を行ったことの証明にもなります。

記録には、
1. 巡視日時
2. 巡視場所
3. 実施者名
4. 指摘事項、
5. 問題点のリスク評価
6. 対策案 ・・・ 等

前回分と合わせて、記録・保存に抜けがないかチェックしてみましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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