産業保健コラム

近藤 亨子 相談員

    • 保健指導
    • 元 愛媛産業看護研究会 会長
      ■専門内容:産業保健指導・産業看護・事業場における治療と職業生活の両立支援
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耳の聞こえに気をつけましょう

2024年07月


スマートフォンなどの普及により、いつでも気軽に音楽を楽しめるようになりました。
その一方でヘッドホンやイヤホンの使用によって聞こえにくくなる、ヘッドホン・イヤホン難聴(医学的には音響性聴器障害または騒音性難聴)が大きな問題となっています。2019年、WHO(世界保健機関)の発表によると、音楽プレイヤーやスマートフォンを危険な音量で使用したり、クラブやライブイベントなどで大音量にさらされていることによって、若者を中心に世界で11億人が難聴のリスクにさらされていると警鐘を鳴らしています。

私たちが“音”を感じるしくみは、耳介で音を集め、外耳道を通って中耳の鼓膜を振動させ内耳の蝸牛で鼓膜から伝わった振動を電気的な信号に変換し、大脳の聴覚領域を刺激して音が聞こえたという感覚を生じさせます。音のエネルギーが大きくなるとこの伝導系に障害がおこり、聞こえが低下します。
感覚細胞は完全に壊れてしまうと再生できないとされています。音楽を聴いたあとで耳鳴りを感じたり、聞こえ方に違和感があったら、静かな環境でしばらく耳を休めましょう。一晩たっても症状が治らないときはすぐに耳鼻咽喉科へ受診しましょう。

=難聴をどうすれば予防できるのでしょうか=
日常の生活の中であなたの習慣がある項目①~⑤中で、1つ以上該当する項目があれば「難聴」になるリスクが大きいといわれています。

1 よく電車の中で音楽を聴く
2 大音量で音楽を聴くのが好き
3 ノイズキャンセリング機能がないイヤホンを使用している
4 長時間のオンライン会議/オンライン授業に参加している
5 イヤホンで音を聞きながら寝る習慣がある

難聴を予防するには、ヘッドホン・イヤホンをしたままでも会話が聞き取れるくらいの音量なら、ほぼリスクがないと言われる65dB程度。ヘッドホン・イヤホンの最大出力は100-120dBくらいですから、60%以下の音量に設定するとよいでしょう。ノイズキャンセリングという機能がついたヘッドホン・イヤホンなら周りの騒音を抑えてくれるので、より小さな音量で楽しむことができます。

次には、耳を休めることです。目安としてヘッドホンをつけて20分~30分ぐらい音楽を聴いたら5分は休憩をもちましょう。また、疲れているときや精神的にストレスがかかっているときは、音に対する耳の耐性も弱まっていて難聴になるリスクが高まるとされていますので、音楽以外でのリフレッシュすることをおすすめいたします。
なお、騒音職場(等価騒音レベル85db以上)で従事されている労働者の方は、適正な聴覚保護具(耳栓やイヤーマフ)での装着を適切に使用することを怠らないようにしましょう。
職場では、雇入時健康診断や定期健康診断で聴力検査を実施します。なお、労働安全衛生規則588条に該当する作業および騒音障害防止のためのガイドラインに掲げる作業に従事する方(騒音作業の常時従事する労働者)は、6月以内ごとに1回、定期に、聴力検査を受けることになっています。

<騒音作業従事者の健康診断の健診項目の改正点>
令和5年10月20日付け基発0420第2号「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」(https://www.mhlw.go.jp/content/001089239.pdf)より

*雇入時健康診断は、オージオメータによる250、500、600、800、1,000、2,000、4,000、6,000、8,000ヘルツ・・・6,000ヘルツの追加

*定期健康診断では、選別聴力検査(1,000ヘルツについては30㏈、4,000ヘルツについては25㏈および30dBの音圧での検査)(※1)・・・4,000ヘルツは25㏈および30dBの音圧の検査に変更

事業者は、上記の定期健康診断の結果、30dB の音圧での検査で異常が認められる者やその他医師が必要と認める者については、次の項目について、医師による二次検査を行うこと。なお、雇入時等健康診断又は過去の二次検査の結果、前駆期の症状が認められる者及び聴力低下が認められる者については、(※1)の選別聴力検査を省略して、二次検査を行うこととして差し支えないことになっています。

① オージオメータによる250、500、1,000、2,000、4,000 、6,000及び8,000ヘルツにおける聴力の検査

② その他医師が必要と認める検査

また、加齢に伴う難聴は、老化現象の一種なので誰にでも起こりうる現象です。
進行を遅らせる加齢以外の原因を避けることで予防することが可能になります。

1)耳にやさしい生活を心がける
・大音量でテレビを見たり音楽を聴いたりしない
・騒音など、大きな音が常時出ている場所を避ける
・騒音下で仕事をしている方は耳栓をする
・静かな場所で耳を休ませる時間を作る

2)老化を遅らせるための生活習慣の見直し
・生活習慣病の管理・・・栄養バランスがとれた食事
・適度な運動
・規則正しい睡眠
・禁煙

(参考文献:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)

産業保健相談員 近藤 亨子(保健指導)

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