2025年01月
Ⅰ.化学物質管理強調月間
2月1日から28日までの1ヶ月間、掲題のスローガンで、「化学物質管理強調月間」が初めて実施されます。
現在、職場で製造、取り扱われている化学物質は、数万と言われており、そのうち危険性・有害性が明らかなものが、約2,900程度あると言われています。
これらの化学物質による労働災害を防止するため、安衛法に基づく新たな化学物質規制が設けられ、昨年4月から施行されています。
この月間を通じて、化学物質管理の重要性を再認識すると共に、新たな規制による管理活動の定着を図ることを目的としたもので、今後、毎年2月に実施することになっています。
なお、月間中の職場での取り組み事項としては、次の通りですので、この機会に是非チェックしてみてください。
1. 製造、取り扱っている化学物質の把握及び、化学物質の安全データシート(SDS)等による危険有害性等の確認
2. 特化則等の特別規則、石綿則の遵守の徹底
3. ラベル表示・SDS交付、リスクアセスメントの実施等
(1) 製造者・流通業者が化学物質を含む製剤等を出荷する際のラベル表示・SDS交付等の徹底及びユーザーが購入した際のラベル表示・SDS 交付等の状況の確認
(2) SDS 等により把握した危険有害性に基づくリスクアセスメントの実施とその結果に基づくばく露濃度の低減や適切な保護具の使用等のリスク低減対策の実施
(3) ラベル・SDSの内容やリスクアセスメントの結果をもとに、労働者に教育を実施
(4) 危険有害性等が判明していない化学物質を安易に用いないこと、また、危険有害性等が不明であることは、当該化学物質が安全又は無害であることを意味するものではないことを踏まえた取扱物質の選定、ばく露低減措置及び労働者に対する教育の推進
(5) 皮膚接触や眼への飛散による薬傷等や皮膚からの吸収等を防ぐための適切な保護具の使用や、汚染時の洗浄を含む、化学物質の取扱上の注意事項の確認
(6) 特殊健康診断等による健康管理の徹底
(7) 塗料の剥離作業における健康障害防止対策の徹底
(8) 金属アーク溶接等作業における健康障害防止対策の徹底
4. 化学物質管理者の選任状況の確認
5. 日常の化学物質管理の総点検
6. 事業者又は化学物質管理者による職場巡視
7. スローガン等の掲示
スローガンは、必要に応じて以下より選択
・正しく理解 正しく管理 化学物質と向き合おう
・危険知り 管理を徹底化学物質 みんなで守れ安心職場
・目に見えないからこそ実施しよう 化学物質のリスクアセスメント
・化学物質に潜む危険 知って対策 慣れた作業も総点検
8. 有害物の漏えい事故、酸欠等による事故等緊急時を想定した実地訓練等の実施
9. 化学物質管理に関する講習会・見学会等の開催、作文・写真・標語等の掲示、その他化学物質管理への意識高揚のための行事等の実施
Ⅱ.エイジアクション100
前回に引き続いて、高年齢労働者の産業保健面での対応として、「作業環境管理」、「腰痛予防」、「交通災害予防」「熱中症予防」を説明します。
1 作業環境管理
(1)視覚環境の整備
・書面、ディスプレイ(表示画面)、掲示物等の文字の大きさや色合いは、見やすくなるように工夫していますか。
情報機器作業では、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に基づき、照明、画面における文字サイズの調整、必要な眼鏡の使用等によって適切な視環境や作業方法を確保すること。
・手元や文字が見やすくなるように、職場の明るさを確保していますか。
・近い距離での細かい作業を避けて、見やすくなるように、作業者と作業対象物との距離を調整していますか。
加齢に伴って視認性が低下することから、有効視野を考慮した警告・注意機器(パトライト等)を採用することが望まれます。
<ポイント>
高年齢者の視覚機能については、遠近調節力が低下して焦点が合わせにくくなることや色の識別能力が低下することが指摘されています。
特に、老眼といわれる1mより近くの物を見る力が衰えるとともに、近くと遠くを交互に見る力、コントラストの低いものを見分ける力、暗い場所での物を見る力等の低下も見られます。
このため、小さな文字や目盛りの数値を読む際に、焦点を合わせるのに苦労したり、その調節の努力のために疲労したりすることにもなります。
また、色のコントラストの低いものは識別しにくくなり、判断を見誤る可能性があります。
さらに、視力はバランス感覚を補う働きをしていることから、見えにくさは、転びやすさにもつながります。
従って、このような高年齢労働者の視機能の低下を踏まえた視覚環境の整備を行うことが必要です。
「文字の大きさや色合い」の工夫の具体例
ア ディスプレイ(表示画面)は、十分なサイズを確保して、大きな文字で見ることができるようにする。
イ はっきりした色合いにして、見えにくい色彩、不明瞭なコントラストになっている掲示物等は改善する。
ウ 明るさの急な変化やムラを減らす。
「職場の明るさ」の確保の具体例
明るすぎる場所、暗い場所での作業を減らす。
事務所の照度基準
事務所の照度は、事務所則(最低基準)で、一般的な事務作業は300ルクス以上
付随的な事務作業は150ルクス以上とすること。
とされているほか、JISZ9110で、事務所・工場等の照度基準が定められていますが、高年齢労働者の視機能の低下を踏まえた視覚環境の整備のためには、JISZ9110の基準を満たす照度とすることが望ましい。
例・事務所 750
(2)聴覚環境の整備
・会話を妨げる背景騒音の音量を小さくし、警報音を聞き取りやすくしていますか。
・会話を聞き取りやすくなるように工夫するほか、聞き取りが難しい場合には、見て分かる方法(書面、回転灯、タワーランプ等)によっていますか。
<ポイント>
聴力は、加齢とともに高音域から低下していきます。
特に、高年齢者は、2000Hz以上の高い音が、500Hz以下の低い音に比べて聞き取りにくくなります。
例えば、女性が話すときは、男性の約1.5倍の声の大きさが必要です。
また、高年齢者は、背景騒音があると、必要な音声情報が聞き取りにくくなります。
このため、高年齢労働者との職場でのコミュニケーションについては、聴覚機能が少なからず低下していることを前提として、会話や会議での発言、警報音等の業務上必要な音声情報が聞き取りやすくなるように工夫するとともに、できるだけ背景騒音レベルが低くなるようにすることが必要です。
「会話を聞き取りやすくなるように工夫」した具体例
ア 静かな場所で話す。
イ 発言は一人ずつ行う。
ウ 聞き取りやすい言葉で話す(「待機」は「待て」、「退避」は「逃げろ」等)。
エ 補聴器を活用する。
(3)寒冷環境への対応
・寒冷環境に長時間さらされないように作業計画を立てていますか。
・寒冷環境下での作業を開始する前に、体を温めるための準備運動を行うとともに、作業時は、保温性のある防寒具(服装、手袋、帽子、靴等)を着用させていますか。
<ポイント>
人体は、寒冷環境に置かれると、身体の表面や内部の温度の低下に伴い末梢血管の収縮や血圧の上昇、筋肉のこわばり等の様々な悪影響が現れます。
また、それに伴って、低体温症、凍傷、脱水症等の様々な疾病のリスクが高まることも懸念されます。
さらに、防寒対策として着用する防寒服(具)のかさばりや体重増加によって余分な作業負担が生じる場合もあります。
特に、高年齢労働者では、体温調節能力の低下による耐寒性の低下や、基礎代謝の低下による体温維持能力の低下が見られることから、冷凍庫内での作業や冬期の屋外作業等の寒冷環境下で作業を行う場合には、対策を行うことが必要です。
2 腰痛予防
(1) 作業姿勢
・ひねり、前かがみ、中腰等の不自然な作業姿勢を取らせないようにしていますか。
・肘の曲げ角度が90度になるように、作業台の高さを調節していますか。
・同一作業姿勢を長時間取らせないようにしていますか。
・不自然な姿勢を取らざるを得ない場合や反復作業を行わせる場合には、休憩・休止をはさんだり、他の作業と組み合わせることにより、できる限り連続しないようにしていますか。
(2) 重量物の取扱い
・重量物の取扱作業を、できる限り少なくしていますか。
・重量物を取り扱う場合には、機械(台車・昇降装置・バランサー等)による自動化・省力化、腰痛予防ベルト・アシストスーツ等の活用による負担の軽減を行っていますか。
・重量物の重量や外観から判断できない偏った重心の位置を、できる限り明示していますか。
(3)介護・看護作業
・要介護者のベッドから車いす等への移乗介助等には、介護用リフト、スライディングボード・シート等を活用していますか。
サービス業のうち社会福祉施設、飲食店等では、家庭生活と同種の作業を行うため危険を認識しにくいが、作業頻度や作業環境の違いにより家庭生活における作業とは異なるリスクが潜んでいることに留意が必要です。
社会福祉施設等で利用者の事故防止のために「ヤリ・ハット事例」の収集に取り組んでいる場合、こうした仕組みを労働災害の防止に活用することが有効です。
<ポイント>
腰痛の発生件数は増加傾向にあり、業務上疾病全体の約6割を占めています。
業種別にみると、保健衛生業が30%と最も多く、商業・金融・広告業、製造業、運輸交通業では10%を超えている等、発生業種は多岐にわたっています。
不自然な姿勢をとった時、瞬間的に力を入れた時に発症したものが多く見られます。
加齢に伴って、①筋力(特に体幹)の低下、②柔軟性の低下、③慢性の筋疲労の増加等が見られ、腰痛が発生しやすくなる傾向にあります。
腰痛等の「動作の反動・無理な動作」の災害の発生率をみると、50歳未満の労働者と比べて、50歳以上では1.3倍と、やや高くなっています。
このため、重量物の取扱い、不自然な姿勢による作業、要介護者のベッドから車イス等への移乗介助等についての腰痛予防の対策が必要です。
重量物の取扱い制限
ア ガイドラインでは、取扱物の重量は、男性は体重のおおむね40%、女性は男性が取り扱う重量の60%程度までにするように努めることとされています。
イ 妊娠中の女性(満18歳以上)については、断続した作業は30kg以上の重量物を、継続した作業は20 kg以上の重量物を取り扱うことは禁止されています。
3.交通労働災害防止
(1)適正な労働時間管理・走行管理
・長時間走行、深夜・早朝時間帯や悪天候時の走行を避け、走行計画は十分な休憩時間、仮眠時間を確保した余裕のあるものにしていますか。
(2)安全健康問いかけ等
・疲労、飲酒、睡眠不足等で安全な運転ができないおそれがないかについて、運転開始前に、問いかけやアルコールチェッカー等により確認していますか。
(3)運転適性の検査
・運転適性検査や睡眠時無呼吸症候群の検査を定期的に行っていますか。
(4)交通安全教育の実施
・睡眠不足、飲酒や薬剤等による運転への影響の他、長年の「慣れ」等によって、安全確認や運転操作が疎かにならないように、交通安全教育を行っていますか。
・自動車運転を専門とする運転手については、ドライブ・レコーダーの記録や添乗チェック等により運転技能を確認して、運転指導を行っていますか。
(5)交通安全情報マップの作成・周知
・交通事故発生状況、デジタル・タコグラフ、ヒヤリ・ハット事例等に基づき、危険な箇所注意事項等を記載した交通安全情報マップを作成して周知していますか。
(6)先進安全技術を搭載した車両の導入
・自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置等の先進安全技術を搭載した車両を導入していますか。
(7)異常気象時等の対応
・急な天候の悪化や異常気象の場合には、安全の確保のための走行中止、徐行運転や一時待機等の必要な指示を行っていますか。
(8)点検・整備
・定期点検整備の他に、乗車・走行前に、必要に応じて、日常点検整備を行って、車両の保守管理を適切に行っていますか。
<ポイント>
交通労働災害の死亡者は、労働災害による全死亡者の約2割を占め、墜落・転落に次いで2番目に多くなっています。
一般的な交通事故の原因としては、次の「ながら運転(漫然運転、脇見運転)」等が、死亡者全体の約3割を占めている他、
・携帯電話に気を取られていた
・カーナビに気を取られていた
・景色を眺めていた
・助手席に落ちたものを探したり拾おうとしていた
企業の運転手の事故原因として指摘されるのは、「急ぎ・あせり運転」です。
加齢に伴って、運転技能が低下して、交通事故を起こしやすくなる傾向にあります。
・視認性の低下
・身体空間的位置関係の認識力低下
・状況判断能力の低下
・睡眠の質の低下 ・敏捷性の低下
・筋力の低下・・・等
また、加齢に伴って、駐車場や構内でのバック時の事故、信号のない交差点での直進時・右折時の事故等が多くなります。
これらの交通環境の共通点は、行わなければならない安全確認や運転操作が多いということです。
一般的にミスやエラーを起こしやすくなる環境ですが、高年齢者では、その傾向がより強くなっています。
さらに、高年齢労働者の交通労働災害の発生率をみると、50歳未満の労働者と比べて、50歳以上では1.5倍、60歳以上では1.8倍と高くなっています。
このため、高年齢労働者については、長年の「慣れ」によって基本的な安全確認や安全運転がおろそかにならないように基本的な安全運転習慣を徹底することをはじめとして、適正な労働時間等の管理・走行管理、交通安全教育の実施、通労働災害防止に対する意識の高揚等の対策を実施していくことが必要です。
先進安全技術を搭載した自動車
経済産業省・国土交通省において、安全技術を支援する自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置等の先進安全技術を搭載した自動車(安全運転サポート車・セーフティー・サポートカーS)の普及啓発が進められています。
4.熱中症予防
(1)作業計画の策定等
・天気予報や熱中症予報で把握した熱中症発生の危険度に応じて、作業の中止、作業時間の短縮等ができるように、余裕を持った作業計画を立てていますか。
(2)暑さ指数(WBGT値)の把握
・暑さ指数を測定し、基準値を超える(おそれのある)作業場所(高温多湿作業場所)については、必要な熱中症予防対策を行っていますか。
(3)暑さ指数を下げるための設備の整備
・簡易な屋根、通風・冷房設備や、ミストシャワー等の暑さ指数を下げるための設備を整備していますか。
(4)休憩場所の整備
・作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所や日陰等の涼しい休憩場所を整備していますか。
(5)涼しい服装
・クールジャケット等の透湿性・通気性のよい服を着用させるとともに、直射日光下では、通気性の良い帽子(クールヘルメット等)を着用させていますか。
(6)作業時間の短縮等
・暑さ指数が高いときは、作業の中止、作業時間の短縮、こまめな休憩、身体作業強度の低い作業への変更、作業場所の変更等を行っていますか。
(7)熱への順化
・暑さに慣れるまでの間(梅雨明け直後、長期の休み明け等)は十分な休憩を取り、1週間程度以上かけて除々に身体を慣らすようにしていますか。
(8)水分・塩分の摂取
・自覚症状の有無に関わらず、定期的に水分・塩分を摂取させていますか。
(9)健康診断の有所見者への対応
・健康診断結果に所見のある高年齢労働者に、高温多湿作業場所で作業をさせる場合には、医師の意見を聴いて、適切な就業上の措置(作業時間の短縮、就業場所や作業内容の変更等)を行っていますか。
(10)健康問いかけ
・作業開始前に、睡眠不足や体調不良の有無等の問いかけを行って、健康状態を確認していますか。
(11)作業中の巡視
・高温多湿作業場所での作業中は、巡視を頻繁に行って、暑熱環境や健康状態等を確認していますか。
熱中症の初期症状を把握できるウェアラブルデバイス等のIoT(Internet of Things)機器の利用も有効です。
<ポイント>
夏季には、建設作業や屋外での警備はもとより、調理場など高温多湿な室内や倉庫など通風の悪い場所において熱中症は発生しています。
職場における熱中症による死亡者は、近年、年間20人に及び、休業4日以上の死傷者は800人を超える状況にあります。
熱中症の発生事例をみると、高温多湿環境下での作業の危険性について認識のないまま作業が行われており、適切な休憩時間がとられていない、水分・塩分等の補給が適時行われていない、作業者の健康状態が把握されていないことによるものが多く見られます。
加齢に伴って、
(1)体温調節機能の低下、(2)暑さや脱水に対する感覚機能の低下、(3)高血圧、心疾患、腎不全等の基礎疾患の増加等が見られ、高年齢労働者は熱中症を発症しやすくなる傾向にあります。
また、高年齢労働者の熱中症の発生率をみると、50歳未満の労働者と比べて、50歳以上では1.6倍、60歳以上では1.7倍と、加齢に伴って高くなっています。
このため、職場における暑さ指数(WBGT値)を測定した上で、基準値を超える(おそれがある)場合には、高い輻射熱にさらされる作業場所は避けること、冷房等により暑さ指数の低減を図ること、身体作業強度の低い作業に変更すること等の熱中症予防対策を行うことが必要です。
WBGT基準値を超える(おそれのある)作業場所(高温多湿作業場所)で作業を行わせる場合は、特に注意してください。
熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある基礎疾患(熱中症にかかりやすくなる健康診断の有所見者)としては、
・糖尿病、 ・高血圧症、 ・心疾患、 ・腎不全、 ・精神、神経関係の疾患、・広範囲の皮膚疾患、 ・感冒、 ・下痢等に罹患している者があげられます。
以上、4回にわたり高年齢労働者が、職場で健康で、持てる力を十分に発揮して活き活きと働けるようにするための配慮点を、エイジアクション100を基に説明してきました。
今後、増々高齢者の職場進出が増加してきます。ご活用いただければ幸いです。
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