産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
  • ←記事一覧へ

「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られますよ

2026年03月


厚労省では、改正健康増進法施行5年後の受動喫煙対策の見直しが、受動喫煙対策専門委員会で行われています。
5年前の法改正時には、加熱式たばこの受動喫煙の健康影響が十分に解明されておらず、経過措置が取られたという経緯がありました。
このため、今回の専門委員会では、最新の科学的知見等も踏まえた検討がなされると思います。
そこで、ご参考までに加熱式たばこの5年前(改正法制定当時)の状況がどうであったのかを、当時の私のメルマガ(編集あり)で振り返ってみます。

チコちゃんは知っている、加熱式たばこが有害なことを(2019-11)

一般に新型たばこと言われているものには、「加熱式たばこ」と「電子たばこ」がありますが、以後は、日本で急速に増えている加熱式たばこについて、今までに報告されている資料を基に説明します。
加熱式たばこは日本では、次の3種類の商品名で販売されています。
アイコス IQOS (PMI)、プルームテック Ploom TECH (JT)、グロー glo (BAT)
紙巻たばこは、たばこ葉を燃焼させますが、加熱式たばこは、たばこ葉を加熱して(温度はメーカーで異なる)、発生したニコチンを含むエアロゾルを吸う構造になっています。
たばこ葉を使用するため「たばこ事業法」の規制対象品で、たばことして販売されており、包装にも「本製品は、たばこ製品です」と明記されています。
さらに、加熱式たばこの包装の警告表示は、来年(2020年)の4月からは、「健康への悪影響が否定できません」との文言が入っています(財務省令改正)。
日本で販売されている加熱式たばこ3製品のパンフレットには、「健康懸念物質を99%オフ」、「国際公衆衛生機関が優先する9つの有害性成分の量の低減率が約90%」、「有害性物質約90%オフ」等と書かれています。
いずれもが「紙巻たばこよりも有害成分量が減っている」ことを積極的にPRしています。
皆さんは、これを見て、加熱式たばこによる「健康障害」についてどう思いますか。
多くの人たちは、加熱式たばこは、紙巻たばこよりも「病気」になり難いと間違った認識を持ってしまいます。もう一度よく読んでください。
「有害性物質が減っている」とは書かれていますが、「病気になるリスクが減る」とは一言も書かれていません。非常に上手に書かれています。
たばこ煙では、「有害物質の低減」=「健康リスクの低減」ではありません。
これについては、米公衆衛生局長官報告書(2010年)で、次のように発表されています。
たばこの煙には、「吸っても安全なレベルはない」ことが立証されたと述べた上で、受動喫煙を含む低レベルの暴露でも、急速かつ著しく血管内の機能障害、炎症は増加し、心臓発作や脳卒中に関わると警告しています。
1日の喫煙本数が2~3本とか、たまにしか吸わない、あるいは受動喫煙といった低レベルの暴露でさえ、心血管事故のリスクを大幅に増加させるに十分だとの証拠が挙げられています。
さらに、「たばこ煙に対する健康リスクの増加は直線的(比例)ではない」という見解も示されています。
このことは日本においても、わかりやすく次のように説明されています。
加熱式たばこの有害物量は減っていると宣伝しているが、1日僅か3本の喫煙でも、1日20本以上の喫煙に近い心臓病リスクがもたらされるのだから、有害物質量が10分の1に減っても、病気の危険がそれに応じて減ることは期待できない。
世界保健機関(WHO)を始め、日本の諸学会等も繰り返し警鐘を鳴らしているように、受動喫煙に「安全なレベルというものはない」ということです。
特に、高齢者、子供、病人にとっては、少しの受動喫煙でも大きなダメージを受けます。
加熱たばこも受動喫煙のリスクがあります。
たばこメーカーは、以上のことや訴訟リスクを避けるためか?、包装の警告表示の注釈の続きには、「健康障害のリスク」について、次のように記載されています。
「『有害性成分の量を約90%低減』の表現は、本製品の健康に及ぼす悪影響が他製品と比べて小さいことを意味するものではありません」、「健康に及ぼす悪影響が小さいことを意味するものではありません」、「本製品にリスクがないと言うわけではありません」、「たばこ関連の健康リスクを軽減させる一番の方法は、紙巻たばこも本製品も両方やめることです」と書かれています。
このようにたばこメーカーも、加熱式たばこには健康障害のリスクがあることを認めた記載となっています。
また、加熱式たばこは、米国で「紙巻たばこよりも害が少ないたばこ」とは認められませんでした。
現在(2020年)、日本で一番売れている加熱式たばこは、アイコス(IQOS フィリップモリス社)で、国内シェアの70%程度を占めています。(2025年のシェアは55%)
2016年にアイコスは世界の10ヶ国以上で販売されていましたが、その時の世界シェアの98%が日本でした。
しかし、フィリップモリス社の本拠地のアメリカでは、販売されていませんでした。
その理由は、当初、フィリップモリス社からアイコスを「紙巻タバコよりも害が少ないたばこ」としての販売申請がなされたからです。
そして紙巻たばこと比べてアイコスの害が少ないことを証明するために多くの実験資料等が提出されました。それを米国食品医薬品局(FDA)の専門家が詳細に検討しました。
その結果、「紙巻たばこよりもアイコスの方が、健康影響が少ないとは言えない」との判断が下され、「紙巻たばこよりも害が少ないたばこ」としては認められませんでした。
公衆衛生の原則に則り、予防的観点からの判断です。
申請資料等では安全が確認できないので「NO」ということです。
本年(2019年)5月から、米国でもアイコスの販売が開始されるという報道がありましたが、これは「通常のたばこ」としての販売が承認(FDAは4月に販売許可)されたからです。
この販売承認に当たっても、次のような条件が付けられています。

・紙巻きタバコよりも有害性が軽いと宣伝しないこと。

・使用者には、リスクが軽いわけではないと説明すること。

人の健康に係わることですから、科学的エビデンスに基づいて、安全確認ができて初めて「OK」を出すという慎重な判断に基づいています。
前回に説明した「安全確認型システム」と同じ考え方です。

加熱式たばこについて、次のような間違った認識をしている方はいませんか。
「紙巻たばこほど体に害がない」、「受動喫煙のリスクがなく受動喫煙に配慮できる」
「加熱式たばこを吸うことは喫煙ではない」このような間違った認識の方、チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られますよ。

未知との遭遇 見えない危険(2019-12)

加熱式たばこのアイコスやグローは、紙巻たばこのようにたばこ葉に直接火をつけるのではなく、たばこの葉を専用のデバイスを用いて電気的に加熱(240~350℃)し、エアロゾル(気体の中に微小な液体や固体粒子を多数含む物→ニコチンや香料を含む微粒子)を発生させ、これを吸入するものです。
加熱式たばこのプルーム・テックは、粉末状のたばこの葉に、溶液(グリセロールやプロピレングリコール等)を加熱して、発生したエアロゾルを通して、ニコチン等をエアロゾル経由で吸入するものです。
いずれにしろ、紙巻たばこと加熱式たばこの主な違いは、たばこ葉を燃やすのか、それとも加熱するのかということで、「たばこの葉」を使用することでは同じです。
日本では、世界に先駆けて2014年に発売され、現在は多くの方が使用しています。
加熱式たばこの有害性については、使用され始めてからまだ日が浅いため詳しいことはわかっていませんが、「わかってきたこと、まだわかっていないこと」(2019年11月当時のもの)をお話します。

1. わかってきたこと

(1)加熱式たばこのエアロゾルには、紙巻たばこと同様に、ニコチンをはじめさまざまな有害物質が含まれており、人体に有害です。
既に、加熱式たばこが原因と疑われる重篤な健康障害(急性好酸球性肺炎)等も出始めています。
加熱式たばこから発生するエアロゾル中に含まれる有害物質は、紙巻たばこと比較して、減った物質もあれば、減っていない物質もあり、更には加熱式たばこの方が多くなっている物質もあるとのことです。(複数の研究機関による分析結果)
一律に低減されているわけではありません。
加熱式たばこは、たばこの葉を燃やさないため一酸化炭素とタール成分の発生が抑えられますが、「発がん性」のあるホルムアルデヒド、アクロレイン等は、少ししか減りません。
ニコチンもほとんど減りませんので、ニコチン依存は維持されます。

(2)加熱式たばこによる「受動喫煙」の害もあります(詳細は後述)。

(3)このため、世界保健機関(WHO)をはじめ、国内の多くの学会等からも「健康に悪影響を与える」との警告がなされています。

2. わかっていないこと→「未知との遭遇」

(1)加熱式たばこを長期間使用した場合の未知のリスク
加熱式たばこの毒性の程度や人体への影響は、研究データも少なく、使用し始めてからの日が浅いこともあり、詳しいことはまだわかっていません。
今後、喫煙者や受動喫煙を受けた人の健康被害の調査が必要です。
世界に先駆けて使用し始め、多数の利用者がいる日本が、その実験場となっているという学者もいます。
健康への影響は、長い時間を必要とするので,その結果がわかるのは数十年後です。
仮に有害物質が極少量だったとしても、断続的かつ長期の喫煙により体内に摂取されれば、有害物質が蓄積し、喫煙者の健康に悪影響を与えます。

(2)有害性が未知の物質も多くあります
たばこ製品から出る物質は7000種類以上あると言われています。
その全てについて健康影響が明らかにされているわけではありません。
有害性が未知の物質も多くあります。
PMI社がアイコスの販売申請のために、米国FDAに提出した資料は、FDAが定める有害物質の内の半数程度と言われています。
潜在する多数の未知の有害物質、発生する化学物質の相互作用や複合影響も未知です。

(3)加熱式たばこは、加熱温度で化学物質の発生(量、種類)が変わります。
従って、使用者が故意に加熱温度を変えたり、デバイスのメンテが悪くて加熱温度が変わったりすると、未知の物質が発生する可能性もあります。

(4)エアロゾルを肺の奥深くまで吸い込んだ場合の人体への影響は、今までに経験がなく未知です。紙巻たばこではあまり発生しない化学物質(プロピレングリコールやグリセロール)が高濃度に発生します。
このような化学物質を、大量に継続的に呼吸器から肺の奥深くまで吸い込んだ場合の毒性については、詳しいことはわかっていません。
加熱式たばこの使用は、情報も経験も少ないままで、未知との遭遇ということになります。このような場合は、人の命にもかかわることですので、以前にも説明しました。
「安全性が確認されるまでは販売を認めない、安全が確認できるまでは紙巻たばこと同様な規制をする」と言う安全確認型の対応が必要と考えます。

世界保健機関(WHO)は、2019年7月26日に「たばこの世界的流行に関する報告2019」を発表しました。これは、たばこ規制枠組み条約(FCTC)の各国の取り組みを分析したもので、たばこ対策に関するWHOの7番目の報告書です。
この報告の中で、「加熱式たばこ」と「電子たばこ」について、解説を加えて注意を喚起しています。
具体的には、「これらのたばこ製品には、有害物質が含まれているために健康上のリスクがあるので、紙巻たばこと同様の規制が必要だ」との見解を示し、「受動喫煙の有害性」も否定できないと指摘しています。

3.受動喫煙について→「見えない危険」を頭で見る

加熱式たばこは、煙が出ないから受動喫煙の害はないと誤解されがちですが、使用者が呼出するエアロゾルに有害物が含まれています。
加熱式タバコからは副流煙が出ませんが、受動喫煙は、副流煙だけで生じるものではありません。
呼出煙(呼気で吐き出されるエアロゾル)によっても、受動喫煙は起こります。
呼出煙は、臭いも少なく、見えづらく、分かりにくいのですが、特殊なレーザー光を照射することで、肉眼でも見えるようになります。
人の目には見えにくいエアロゾルが大量に呼出していることが分かります。
この呼出されたエアロゾルは、2~3m先まで飛散するため、受動喫煙が起こります。
紙巻たばこのように、煙が見えて臭いもあれば、気づいて受動喫煙を避けることもできますが、エアロゾルは、肉眼では見えにくく、臭いも少ないので、避けることが難しく、気づかないうちに、ばく露している可能性があり危険です。

見えない危険は、さらに危険
このエアロゾルには、紙巻きたばこと同レベルのニコチンや有害物質(発がん物質等)が含まれていると報告されています。
加熱式たばこは、煙も匂いも少ないので、周囲の環境を汚していないように思い込み、これまでは受動喫煙の害を考えて、家庭内や車の中でたばこを吸わなかったお父さんが「加熱式たばこなら大丈夫」と家庭内等で吸い始めたとの事例もあります。
加熱式タバコは、煙も臭いも少なく、人の感覚では察知できませんが、「受動喫煙の害」はあります。このことをしっかりと認識しておくことが大切です。
特に子どもや妊婦さんへの配慮、化学物質にアレルギー反応を示す方等は、極微量でも反応して体調不良を引き起こすことがありますので配慮が必要です。
加熱式タバコなら大丈夫というわけにはいかないのです。

以上が2019年当時の知見をまとめ、メルマガに投稿したものです。その後の5年間で得られた知見を基に、今後の加熱式たばこの取り扱いを決めていくことになります。

(ご参考)
最近話題になっている「ソンビたばこ」と加熱式たばことは、別物です。
俗称「ゾンビたばこ」は、電子タバコ用のリキッドに、エトミデート(指定薬物・危険ドラッグ)が入ったものを吸引するもので、これにより中枢神経系が抑制され、手足がけいれんし、意識がもうろうとしてふらついたり、路上に倒れこんだりし、その様子がゾンビのように見えることから、こう呼ばれています。
指定薬物の使用の罰則 3年以下の拘禁刑、または300万円以下の罰金

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

記事一覧ページへ戻る