産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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糖尿病とうつ病

2015年09月


 私自身は内科医ではありませんが、嘱託産業医として幾つかの企業の定期健康診断結果を判定しています。いわゆる「有所見者」として、高血糖、高血圧、脂質異常などは非常に多く指摘されます。当然、これらに関しては、適切な医療に結びつけると同時に、生活習慣(食生活や喫煙など)についても指導します。ここで是非、精神科医である私としては、身体疾患患者のメンタルケアに関心を持って頂きたいと思います。

 糖尿病とうつ病には双方向性の関係があるとされています。これまでの調査によると糖尿病患者の約30%にうつ症状があると指摘されており、糖尿病とこころの問題が重要視されています。

 うつ病患者における糖尿病発症リスク増加は医学的に比較的明確になっていますが、糖尿病患者におけるうつ病発症メカニズムはまだ明らかではありません。両者の関係について、神経系・内分泌系および免疫系の相互関係の研究が進められていますが、行動上の要因も大きいとされます。

 糖尿病では、食事制限などの自己管理を強く求められ、長引く治療がストレスになって、うつ病を併発するのではないかと考えられます。またうつ病があると、運動不足になり、自己管理も難しくなり、糖尿病になり易くなるとも言われています。糖尿病合併症として神経症状(しびれ、痛み)出現なども関与します。

 糖尿病とうつ病を併発している患者の約半数は、自分自身で「うつ病」に気付かないため、支援するためには十分な観察と注意が必要です。糖尿病とうつ病の併発は、治療の効果を期待することが出来なくなり、食事制限や運動への関心が低下し、その結果有効な療養行動を実施・継続することが出来なくなり、喫煙量やアルコール量が増えるなど、糖尿病の悪化を招く悪循環に陥りやすくなります。両者の併存は糖尿病患者に重大な影響を与えます。血糖コントロールが良好に維持されてきた人が、急激に悪化した場合には、心理面や行動面に影響を与えうるライフイベントの有無を確認する必要があります。

 糖尿病治療の指導において、単に「糖尿病の合併症は恐ろしい」といったネガティブな動機付け(脅し教育)は有効でないとされます。「こういう行動をとれば安心」という感覚を患者が持てるようなポジティブな動機付けが望まれます。

 また、うつ病と糖尿病の併存は認知症リスクを有意に上昇させることが判っています。もともと、糖尿病もうつ病も、認知症の独立したリスクとして知られていましたが、最近の研究では、併存すると認知症発症率がおよそ2~5倍になるという研究報告があります。労働者の糖尿病管理には、このような視点も必要です。

産業保健相談員 牧 徳彦(メンタルヘルス)

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