産業保健コラム

門田 聖子 相談員

    • カウンセリング
    • シニア産業カウンセラー
      ■専門内容:カウンセリング全般・治療と仕事の両立支援
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現在のことで夢中になる

2022年02月


2022年北京オリンピックのニュースとともに味わう私の感情は、悲喜こもごもにとどまらず、大きく揺さぶられている。
この色々な感情を呼び起こさせてくれるオリンピックだが、もう1つ感じるのが、「鬼気迫るアスリートの集中」である。“今に集中する”ことで4年間積み重ねてきたトレーニングの全成果を、その瞬間に開花させることができると、結果本人ですら信じられない色のメダルを手にする、ということもあるわけである。そんな中、本メールマガジンで、何か伝えられることはないかと、マズローの書籍を手にしていると、「現在のことで夢中になる」という言葉が目にとまった。
そして、ほぼ半世紀前の1973年に書かれたものであるが、まさに今を語っているかのようで、ぞくっとしてしまった。
「われわれは現在、以前にはみられなかったような歴史上の転換点に立っており、この絶えず動き続けてじっとしていない世界に生きることのできる新しい形の人間を必要としている。
…事実を教えても事実はあっという間に変わってしまう。
技術も同じく瞬く間に古くさくなってしまう。何が起こるかを知らなくても自信をもって明日に備えることができ、以前になかった状況の中で十分な確信を保持しつつ対処できる人間に脱皮できるかということが問題だ」と。
なんとも絶妙なタイミングで開いたこの本の中でマズローが語っていることを、今に活かしたい。
新しい人間となるための要素の1つとして創造性を持つということがあげられ、この創造性にとって必要不可欠な条件が、『現在のことで夢中になる』ということである。
その夢中は、どのような瞬間に生じるのか、その中で1つ目にとまったのが『無邪気』という表現であった。「高度に創造的な人には、「義務」や「当為」もなく、流行やドグマや習慣もなく、正しいものは何かという固定観念もない。
どんなことが起ころうと驚きもショックも受けず、怒りも否定もしないで受けとめようとする、そういう人だ。この無欲な受容性をより一層はっきり取り得ているのは子どもであり、賢明な大人である。
われわれでもすべて『いまここ』の心境に至ったとき、無邪気さをもっと身につけることができるかもしれない」と書かれていた。

変化が激しく、不確実な現代である今、過去や他者にとらわれず、『いまここ』に無欲で集中できれば、創造性が発揮され、恐れをいだかない新しい人間が形成されるということになるのだと確信したい。
無邪気にオリンピックを観戦したり、ゲームに夢中になったり、音楽作成に集中したり、自分の仕事に没頭したりすることができれば、私たちは自分らしく生きることにおいて、大きな一歩が踏み出せているといえるのではないだろうか。
賢明な大人になるために、無欲な受容性を身につけたいものである。

引用文献/A・H・マスロー著「人間性の最高価値」上田吉一訳(1973)誠信書房

門田 聖子 産業保健相談員

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