産業保健コラム

門田 聖子 相談員

    • カウンセリング
    • シニア産業カウンセラー
      ■専門内容:カウンセリング全般・治療と仕事の両立支援
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「インテリジェンス」と「インテレクト」

2020年12月


3年ほど前、母親の本棚から探し物をしていると、そこに「森信三一日一語」という古びた本が出てきた。その中に四葉のクローバーが挟んであり、母はこの本をさぞかし大切にしていたのだろうと、と尋ねてみると、そんなものがあったのか、という感じで何の思い入れも語ってもらえなかった。何らかエピソードを聞かせてもらえると思っていたので、かなり期待外れであったが、そのおかげで、私はその年から一日一言を毎年手にしており、今年は「渡部昇一一日一言」を毎日目にしている。今回触れたいのが、「駝鳥と鷲」という内容である。英国の随筆家であるP・Gハマトンの「知的生活」という書籍を渡部昇一氏が訳しており、その中でハトマンは、人間の知力には二種類あるのではないかと表現している。1つはたくましく地面を蹴ってダダダダとひたすら走っていく、駝鳥みたいな知力と、もう1つは翼を一つも動かさずにさーっと空中を飛ぶ鷲の知力を例としてあげている。駝鳥は、前方に何があるかまで考えず、鷲は、遠くまで全体を俯瞰している。ここまでを読んで、私は駝鳥だ…、とがっかりし、同時に鷲に強く憧れた。その先を読むと、その駝鳥のような感じの知力を「インテリジェンス」と呼び、鷲のような知力を「インテレクト」と述べている。これまた意外な感じであった。英和辞典によると、インテリジェンス(inteligence )は、知能・理知・理解力、頭の良さ・頭の働き・知恵・英知、インテレクト(intellect)は、知性・知力・英知・理知、論理的あるいは客観的思考力と表現されている。渡部氏は、インテリジェンスは測ることのできるIQのような頭の良さで、一方インテレクトは、修道院で瞑想して得る悟りのようなもので、測れない頭の働きであると思ったとのことである。ユングのタイプ論の一部を強引にあてはめると、鷲のような知力は” 感覚”で、鷲の知力は” 直観”に似ているようにも感じられる。

現代はブカ(VUCA)な時代であると言われるようだが、不透明で不確実な世界であるからこそ、測れるもの、回答があるものだけでなく、測れないもの、回答がないものにも目を向け、力を発揮したいものである。欲張りな私は、駝鳥と鷲、両方の知力を手に入れたいと望んでしまう。しかし、まず自分はどちらの知力を持ち合わせているのか、そして他者はいずれなのか、を感じてみるだけでも、目に見えない対人関係が少し見え、不透明で不確実な現実も乗り切れるのではないではないかと思いたい。

※VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

引用・参考文献/渡部昇一著「渡部昇一一日一言」致知出版社、「子どもの育ち、親の育ち」未来教育シンポジウム講演集④ 遠藤利彦著「未来を生き抜くこころを育む -アタッチメントと非認知的な心の発達-」公益財団法人前川財団

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