産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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ヘルスリテラシーを高め健康寿命を延ばそう

2022年09月


9月になりましたが、まだまだ残暑が厳しい状況ですので、職場の暑熱対策についても十分に気を付けてください。
今回は前回に引き続いて、「エイジフレンドリーガイドライン」について、「健康や体力の状況の把握とこれに応じた対応」、「安全衛生教育」、「労働者に求められること」等の内容をご紹介します。
ご参考になれば幸いです。

Ⅲ. 現状把握(健康、体力の状況)

1. 健康診断による健康状況の把握
高年齢労働者が自らの健康状況を把握できるよう健康診断を実施しましょう。

(1).法定(※安衛法で定める雇入時及び定期)の健康診断を確実に実施し健康状況を把握しましょう。

(2).法定対象外の者に対しても、事業場の実情に応じて、健康診断を実施するよう努めて、健康状況を把握するように努めましょう。

※ 安衛法で、一般健康診断を実施すべき「常時使用する短時間労働者」とは、次の(A)と(B)のいずれの要件をも満たす場合 (H19 基発第1001016号通達)

(A) 期間の定めのない契約により使用される者。なお、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者。

(B) 1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。

概ね2分の1以上である者に対しては、一般健康診断を実施するのが望ましい(努力義務)。

アルバイトやパートであっても労働時間等が、上記の条件を満たしておれば一般健康診断対象となりますので、雇用形態ではなく、労働時間をチェックする必要があります。

・ 法定健康診断の対象にならない者が、地域の健康診断等(特定健康診査等)の受診を希望する場合は、必要な勤務時間の変更や休暇の取得について柔軟な対応をし、健康状況の把握に努めてください。

・ 健診結果について、産業医、保健師等に相談できる環境を整備しましょう。

・ 健診結果を高年齢労働者に通知するに当たり、産業保健スタッフから健康診断項目毎の結果の意味を丁寧に説明する等、高年齢労働者が自らの健康状況を理解できるようにしましょう。

・ 日常的なかかわりの中で、高年齢労働者の健康状況等に気を配りましょう。

・健診結果の通知を必ず実施し、その内容をよく理解してもらい、健康の維持増進に努めるように配慮しましょう。

・ 健康の保持・増進のために健康に関するアドバイスを受けられるように環境を整備し、身体機能維持のための運動、栄養、休養に関するアドバイスを受けさせましょう。
また、高齢になると高血圧、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病にかかる人が増えますので、これらに関する知識や対策についても指導や教育をしましょう。

2. 体力の客観的把握(体力チェック)

高年齢労働者の労災防止の観点からも、事業者、高年齢労働者双方が高年齢労働者の体力の状況を客観的に把握しましょう。
事業者は、その体力に合った作業に従事させるとともに、高年齢労働者が自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、主に高年齢労働者を対象とした体力チェック(※)を継続的に行うように努めましょう。

体力チェックの対象となる労働者から理解が得られるよう、わかりやすく丁寧に体力チェックの目的を説明するとともに、事業場における方針を示し、運用の途中で適宜方針を見直しましょう。

※ 具体的な体力チェックの方法として次のようなものが挙げられます。

・ 労働者の気付きを促すため、加齢による心身の衰えのチェック項目(フレイルチェックシート)等を導入。

・ 厚労省作成の「転倒等リスク評価セルフチェック票」等を活用。

・ 事業場の働き方や作業ルールにあわせた体力チェックを実施。

この場合、安全作業に必要な体力について、定量的に測定する手法及び評価基準は安衛委員会等の審議を踏まえてルール化することが望ましい。

体力チェックの実施に当たっては、以下の点を考慮しましょう。

・ 体力チェックの評価基準を設ける場合は、合理的な水準に設定し、職場環境の改善や高年齢労働者の体力の向上に取り組むことが必要です。

・ 体力チェックの評価基準を設けない場合は、体力チェックを高年齢労働者の気付きにつなげるとともに、業務に従事する上で考慮すべきことを検討する際に活用しましょう。

・ 労働者の体力には幅があることを前提とし、安全に行うために必要な体力の水準に満たない労働者がいる場合は、当該労働者の体力でも安全に作業できるよう職場環境の改善に取り組むと共に、労働者自身も作業に必要な体力の維持向上に取り組むように仕向けましょう。

・ 高年齢労働者が病気や怪我による休業から復帰する際、休業前の体力チェックの結果を休業後のものと比較することは、体力の状況等の客観的な把握、体力の維持向上への意欲や作業への注意力の高まりにつながり、有用です。

3. 健康や体力の状況に関する情報の取扱い

健康情報等を取り扱う際には、「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い指針公示第1号」(H30.09.07 ※)を踏まえた対応が必要です。

※ 事業者は医師等による面接指導や健康診断の結果等から必要な健康情報を取得し、労働者の健康と安全を確保することが求められていますが、このような健康情報の取扱いで労働者に不利益がないように定められた指針で、ポイントは下記のとおりです。

・ 労働者の健康確保措置の実施、事業者が負う民事上の安全配慮義務の履行

・ 事業場で、情報の取扱いに関する取扱規定を定め、労使で共有

・ 安衛法上労働者の同意を得なくても収集できる情報であっても、取り扱う目的及び取扱方法等について、労働者に周知したうえで収集することが必要

・ 健康診断の再検査・精密検査の結果、がん検診の結果等の安衛法令において事業者が直接取り扱うことが規定されていない情報の収取は、個人情報保護法第 17 条第2項に基づき労働者本人の同意が必要

また、労働者の体力の状況の把握に当たっては、個々の労働者に対する不利益な取扱いを防ぐため、労働者自身の同意の取得方法や労働者の体力の状況に関する情報の取扱方法等の事業場内手続について安衛委員会等の場を活用して定める必要があります。
例えば、労働者の健康や体力の状況に関する医師等の意見を安衛委員会等に報告する場合等に、労働者個人が特定されないよう医師等の意見を集約又は加工する等。

Ⅳ. 高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応

1. 個々の高年齢労働者の健康や体力の状況を踏まえた措置
健康や体力の状況を踏まえて必要に応じ就業上の措置を講じる。

脳・心臓疾患が起こる確率は加齢にしたがって徐々に増加するとされています。
個々の高年齢労働者の健康や体力の状況を把握し、脳・心臓疾患等の基礎疾患を踏まえ、労働時間の短縮、深夜勤務の削減、作業配置転換等を行います。
この場合、産業医等の意見を聴くとともに、高年齢労働者本人の同意を得るようにします。

就業上の措置を講じるに当たっては、以下の点を考慮します。

・ 健康診断や体力チェック等の結果、高年齢労働者の労働時間や作業内容を見直す必要がある場合は、産業医等の意見を聴いて実施します。

・ 業務の軽減等の就業上の措置を実施する場合は、高年齢労働者に状況を確認して、十分な話合いを通じて当該高年齢労働者の了解が得られるよう努めること。
また、健康管理部門と人事労務管理部門との連携にも留意します。

2. 高年齢労働者の状況に応じた業務の提供
高齢者に適切な就労の場を提供するため、職場における一定の働き方のルールを構築するよう努めましょう。

労働者の健康や体力の状況は高齢になるほど個人差が拡大するとされていますので、個々の労働者の状況に応じて、以下の点を考慮し、安全と健康の点で適合する業務を高年齢労働者とマッチングさせます。

・ 業種特有の労働災害、労働時間、作業内容
業種特有の就労環境に起因する労災があることや、労働時間の状況や作業内容により、個々の労働者の心身にかかる負荷が異なることに留意。

・ 業種特性による労働環境の違い
危険有害業務を伴う労災リスクの高い製造業、建設業、運輸業等の労働環境と、第三次産業等の労働環境とでは、必要とされる身体機能等に違いがあることに留意。
例えば、運輸業等においては、運転適性の確認を重点的に行うこと等。

・ 治療と仕事の両立
何らかの疾病を抱えながらも働き続けることを希望する高年齢労働者の治療と仕事の両立を考慮。

・ ワークシェアリングの適用
複数の労働者で業務を分けあう、いわゆるワークシェアリングを行うことにより、高年齢労働者自身の健康や体力の状況や働き方のニーズに対応。

3. 心身両面にわたる健康保持増進措置
健康保持増進のための指針公示第1号(S63.09.01 ※)に基づき、事業場における健康保持増進対策の推進体制の確立を図る等組織的に労働者の健康づくりに取り組むよう努めます。

※ 本指針は、事業者が講ずるよう努めるべき労働者の健康保持増進対策を定めたものです。
健康保持増進対策とは、健康測定とその結果に基づく運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導等です。
これらは、それぞれのスタッフの緊密な連携により推進されます。

集団及び個々の高年齢労働者を対象とし、身体機能の維持向上のための取組を実施することが望まれます。

常時50 人以上の労働者を使用する事業者は、対象の高年齢労働者に対してストレスチェックを確実に実施すると共に、ストレスチェックの集団分析を通じた職場環境の改善等のメンタルヘルス対策に取り組むことが必要です。
併せて、健康保持増進のための指針公示第3号(H18.03.31)に基づき、メンタルヘルス対策に取り組むよう努めましょう。

これらの実施に当たっては、以下の例を参考に、リスクの程度を勘案し、事業場の実情に応じた優先順位をつけて取り組みましょう。

・ 健康診断や体力チェックの結果等に基づき、必要に応じて運動指導や栄養指導、保健指導、メンタルヘルスケアを実施。

・ フレイルやロコモティブシンドロームの予防を意識した健康づくり活動を実施。

・ 身体機能の低下が認められる高年齢労働者については、身体機能の維持向上のための支援を行うことが望まれます。
例えば、運動する時間や場所への配慮、トレーニング機器の配置等の支援。

・ 保健師や専門的な知識を有するトレーナー等の指導の下で高年齢労働者が身体機能の維持向上に継続的に取り組むことを支援しましょう。

・ 労働者の健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践する健康経営の観点から企業が労働者の健康づくり等に取り組みましょう。

・ 保険者と企業が連携して労働者の健康づくりを効果的・効率的に実行するコラボヘルスの観点から、職域単位の健康保険組合が健康づくりを実施する場合には、連携・共同して取り組みましょう。

Ⅴ. 安全衛生教育

1. 高年齢労働者に対する教育

・ 安衛法で定める雇入れ時等の安衛教育、危険有害業務での技能講習や特別教育を確実に実施

・ 加齢に伴う健康や体力の低下や個人差の拡大等を踏まえ、以下のポイントを考慮して安衛教育を計画的に実施し定着を図ることが望まれます。

(1) 十分な時間をかけ、写真や図、映像等の活用
(理解しやすくするため文字以外の情報を活用)

(2) 再雇用や再就職等により未経験業務に従事する場合、特に丁寧な教育訓練

(3) 加齢に伴う身体機能の低下が労災につながることの自覚と生活習慣改善の必要性の理解

(4) 体力チェックの実施等により、自らの身体機能の低下の客観的な認識

(5) 転倒災害を防ぐため、わずかな段差等、周りの環境に常に注意を払う等の意識づけ

(6) サービス業等の軽作業でも被災するおそれがあることの周知

(7) 教育手段として、危険感受性向上教育(KYT)、危険体感教育(VR等)も活用

(8) サービス業では対人コミュニケーション等の教育

(9) 現場経験の豊富な高年齢労働者とIT 機器に詳しい若年労働者とのチームワークで、相互の知識経験を活用することの有効性

2. 管理監督者等に対する教育
教育を行う者や高年齢労働者が従事する業務の管理監督者等に、高年齢労働者の特徴と安衛対策についての教育を行いましょう。

この教育は、体系的なキャリア教育の中に位置付けると共に、労働者が主体的に取り組む健康づくりも含めます。
また、高齢者労働災害防止対策の具体的内容の理解に資するよう、支援機器や装具に関することも加えておきましょう。

管理監督者等に対する教育のポイント
(1) 高年齢労働者の身体機能低下、それに応じた安衛対策
(2) 高年齢労働者を支援する機器や装具
(3) 管理監督者の責任、健康問題が経営に及ぼすリスク
(4) 救命講習や緊急時対応 (脳・心臓疾患発症時等の対応)

Ⅵ. 労働者に求められる事項

一人ひとりの労働者は、生涯にわたり健康で長く活躍できるようにするために、事業者が実施する取組に協力するとともに、自己の健康を守るための努力の重要性を理解し、自らの健康づくりに積極的に取り組むことが必要です。

また、自らの身体機能の変化が労災リスクにつながり得ることを理解し、労使の協力の下、以下の取組を実情に応じて進めることが必要です。

・ 労働者に求められる事項のポイント

(1) 自らの身体機能や健康状況を客観的に把握し、健康や体力の維持管理に努める (青年、壮年期から取り組むことが重要)

(2) 定期健康診断等を受診する
(法定対象外の者は特定健康診査等を受けるよう努める)

(3) 事業者が実施する体力チェックに参加 (自身の体力の水準を確認)

(4) 日ごろからストレッチ、軽いスクワット運動による基礎体力の維持、生活習慣の改善 (通勤時間や休憩時間を活用し、簡単な運動を小まめに実施等)

(5) ラジオ体操、転倒予防体操等の職場体操へは積極的に参加

(6) 適正体重の維持、栄養バランスの良い食事等、食習慣や食行動の改善

(7) ヘルスリテラシー(※)の向上に努める

※ 健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解、評価して活用する能力。
ヘルスリテラシーを高めることは、病気の予防や健康寿命を延ばすことにつながります。

長文になりましたが、「エイジフレンドリーガイドライン」の内容を説明してきました。
今後、職場の高齢労働者対応がますます重要となってきます。
その一助になれば幸いです。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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