産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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安衛法のハイリスクアプローチ

2023年03月


Ⅰ.安衛法は、お墓に入らないための必要最低限のルールを定めたもの

労働者の安全と健康を守るための安全衛生対策は、労働基準法(S22年)で定められていましたが、その後の急激な産業変化に対応し、安全衛生の充実強化を図るため、労働安全衛生法(安衛法)がS47年に制定されました。

安衛法は,職場の安全衛生を確保するために事業者が講ずべき措置の基準を定め、快適な職場環境をつくることを目的(第1条)とし、重大な違反行為に対しては罰則を規定したものです。

法令の内容は、過去の災害を教訓に、同種災害の再発防止のために規定されているものが大部分です。

過去の多くの犠牲の上にできた条文ですので、「墓標条文」と言われることもあります。

労働災害の再発防止のための「貴重な財産」ですので「財産を守り」ましょう。

労働災害でお墓に入ることのないようにするための基本 (必要最低限の措置)を定めたものです。

Ⅱ.そのような法令があることを「知らなかった」は通用しません。
法令遵守(コンプライアンス)は、産業保健活動の第一歩です。
法令を「知らなかったは」通用しません。
成立した法令等が拘束力を持つのは、公表して一般国民が知ることのできる状態に置く「公布」という行為が必要ですが、この公布方法は、最高裁は官報掲載によって行うことを相当としています。
官報で公示された時点から、全国民が知ったものとみなされます。
従って、「知らなかった」と主張しても罰則は適用されます。

Ⅲ.安衛法の条文による法的拘束力、強制力の違い
法的拘束力、強制力は、労働者への健康影響の程度によって、大きい順に、罰則付きの義務、義務、努力義務となります。
「労働衛生教育」の必要性を例にとると、次のようになります。

(1)罰則付き義務→ 雇い入れ、作業内容変更、特別教育、等

(2)義務       → 職長教育

(3)努力義務     → 能力向上、有害業務現従事者、健康教育、等

Ⅳ.罰則の程度も、労働者への健康影響の重要度を反映しています
上記の罰則付き義務の中でも、罰則の程度が、健康影響の大きさを反映しています。
具体的には、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金から、50万円以下の罰金までにランクされています。

Ⅴ.ハイリスクアプローチ
ハイリスクアプローチの観点から、罰則付き義務になっている労働衛生(産業保健)関係の主な条文は、下記のとおりです。 チェックリストとしても活用できます。

1.3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
法55条の規定に違反した者(禁止化学物質を製造、輸入、使用、提供)
禁止化学物質とは、重度の健康障害を生ずる物質で、政令で定めるもの

令16条  法第55条の政令で定める物は次のとおり

1 黄りんマツチ

2 ベンジジン及びその塩(重量の1%を超えて含有)

3 4-アミノジフエニル及びその塩(重量の1%を超えて含有)

4 石綿(重量の0.1%を超えて含有)

5 4-ニトロジフエニル及びその塩(重量の1%を超えて含有)

6 ビス(クロロメチル)エーテル(重量の1%を超えて含有)

7 ベーターナフチルアミン及びその塩(重量の1%を超えて含有)

8 ベンゼンを含有するゴムのりで、その含有するベンゼンの容量がゴムのりの溶剤の5%を超えるもの

2.1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
法56条  ジクロルベンジジン、ジクロルベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずるおそれのある物で、政令で定めるものを製造しようとする者は、厚労省令で定めるところにより、あらかじめ、厚労大臣の許可を受けなければならない。→この条文に違反した者

令17条  厚労大臣の製造許可のいる化学物質(特化則第1類物質)

1 ジクロロベンジジン及びその塩

2 アルファ-ナフチルアミン及びその塩

3 塩素化ビフェニル

4 オルトトリジン及びその塩

5 ジアニシジン及びその塩

6 ベリリウム及びその化合物 合金については含有重量3%を超えるもの

7 ベンゾトリクルリド

3.6月以下の懲役又は50万円以下の罰金

(1)作業主任者を選任せずに作業を行わせた(法・14条、令6条)
作業主任者を選任しなければならない作業は、次のとおり(労働衛生関係)
( )内は作業主任者の資格

1 高圧室内作業(高圧室内作業主任者免許)

5 放射線業務に係る作業(エックス線作業主任者免許)

6 ガンマ線照射装置を用いて行う透過写真の撮影の作業
(ガンマ線透過写真撮影作業主任者免許)

26 特化物等を製造し、又は取り扱う作業
(特化及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習)

27 鉛業務に係る作業(鉛作業主任者技能講習)

28 四アルキル鉛等業務に係る作業(特化及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習)

29 酸素欠乏危険場所における作業

イ 酸素欠乏危険作業場所における作業
(酸欠作業主任者技能講習又は酸欠・硫化水素危険作業主任者技能講習)

ロ 酸欠、硫化水素中毒の危険場所における作業
(酸欠・硫化水素危険作業主任者技能講習)

30 屋内作業場、タンク、船倉、坑の内部その他一定の場所において有機溶剤を製造し、又は取り扱う作業(有機溶剤作業主任者技能講習)

31  石綿等を取り扱う作業又は石綿等を試験研究のため製造する作業(石綿作業主任者技能講習)

(2)危険防止、健康障害防止の規定措置をしなかった (法20~25条)
法22条  事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害

二 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害

三 計器監視、精密工作等の作業による健康障害

四 排気、排液又は残さい物による健康障害

法23条
事業者は、労働者を就業させる建設物その他の作業場について、通路、床面、階段等の保全並びに換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難及び清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じなければならない。

法24条
事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

法25条
事業者は、労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等必要な措置を講じなければならない。

法31条の2
化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物を製造し、又は取り扱う設備で政令で定めるものの改造その他の厚労省令で定める作業に係る仕事の注文者は、当該物について、当該仕事に係る請負人の労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

(3)個別・型式検定合格表示がされていない機械等を使用(法44,44条の2)
法44条の2 型式検定

5 防じんマスク

6 防毒マスク

12 保護帽

13 電動ファン付き呼吸用保護具

(4)製造許可対象化学物質(令7条)を許可条件で製造しなかった場合(法56条)

(5) 有害物質を包装して譲渡、提供する際、名称、成分、人体に及ぼす影響等を無表示、虚偽表示をし、文書交付せず、又は虚偽の文書を交付(法57条)
法57条  ・・・ ベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第1項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚労省令で定めるところにより、その容器又は包装に次に掲げるものを表示しなければならない。

イ 名称    ロ 人体に及ぼす作用    ハ 貯蔵又は取扱い上の注意

ニ イからハまでに掲げるもののほか、厚労省令で定める事項

(6)特別教育を行わなかった(法59条)

法59条

3 事業者は、危険又は有害な業務で、厚労省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚労省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。

(7)作業環境測定を行わず、及び記録していなかった(法65条)

第65条  事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚労省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。

2 前項の規定による作業環境測定は、厚労大臣の定める作業環境測定基準に従って行わなければならない。

4 厚労大臣は、作業環境測定指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者若しくは作業環境測定機関又はこれらの団体に対し、当該作業環境測定指針に関し必要な指導等を行うことができる。

5 都道府県労働局長は、作業環境の改善により労働者の健康を保持する必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚労省令で定めるところにより、事業者に対し、作業環境測定の実施その他必要な事項を指示することができる。

(8)伝染病等の病者を就業させた(法68条)
法68条 事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚労省令で定めるものにかかった労働者については、厚労省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。

(9)法律違反を労基署に申告したことを理由に不利益な取り扱いをした(法7条)
法97条 労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する
事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。

2 事業者は前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(10)健康診断等に関する秘密の保持に違反
法105条 法定の健康診断、面接指導、ストレスチェックの実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。

4.50万円以下の罰金

(1)総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医等を選任しなかった
安全委員会等を設置しなかった(法10~13,15,15の2,16~18,25条の2等)

(衛生管理者)
法12条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚労省令で定める資格を有する者のうちから、厚労省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、その者に法10条第1項各号の業務のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。

(産業医等)
法13条  事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚労省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理等を行わせなければならない。

1 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚労働令で定める要件を備えた者でなければならない。

3 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。

4 産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚労省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚労省令で定めるものを提供しなければならない。

5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。

6 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚労省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚労省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。

(衛生委員会)
法18条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。

一 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。

二 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。

三 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。

四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項

2 衛生委員会の委員は、次の者をもつて構成する。
ただし、第一号の者である委員は、一人とする。

一 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者

二 衛生管理者のうちから事業者が指名した者

三 産業医のうちから事業者が指名した者

四 当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者

(2)化学物質の設備等の修理等の注文者が、請負人の災害防止に必要な措置を講じなかった(法31条の2)
法31条の2 化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物を製造し、又は取り扱う設備で政令で定めるものの改造その他の厚生労働省令で定める作業に係る仕事の注文者は、当該物について、当該仕事に係る請負人の労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

(3)新規化学物質の有害性の調査(法57条の4)
法57条の4  化学物質による労働者の健康障害を防止するため、新規化学物質を製造し、又は輸入しようとする事業者は、あらかじめ、厚労省令で定めるところにより、厚労大臣の定める基準に従って新規化学物質が労働者の健康に与える影響についての調査(有害性の調査を)行い、当該新規化学物質の名称、有害性の調査の結果その他の事項を厚労大臣に届け出なければならない。

2 有害性の調査を行った事業者は、その結果に基づいて、当該新規化学物質による労働者の健康障害を防止するため必要な措置を速やかに講じなければならない。
以下・略

(4)雇い入れ時の安全衛生教育を行わなかった (法59条)
第59条  事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚労省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。

2 前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。

(5) 定期健康診断、特殊健康診断を行わなかった(法66条)
第66条  事業者は、労働者に対し、厚労省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。

2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚労省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。
有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚労省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。

健康診断の結果の記録 法66条の3
健康診断の結果の通知 法66条の6
面接指導   第66条の8の2  第66条の8の2

(6)計画の届け出を行わなかった(法88条)

(7)労働基準監督官等の立入調査を拒否、質問に答えず、虚偽の陳述を行った(法91、94条)

(8)使用停止命令、労基署長等からの報告に応ぜず、出頭命令にも応じない、選任、解任、変更報告、設置、休止報告、健診結果報告、事故報告、労働者死傷病報告、記録の備付け、保存義務等に違反 (法98条~103条)

以上が罰則付き義務規定の主だったものですが、あなたの職場は問題ありませんか。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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