産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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安全衛生管理レベルアップに必要な教育

2023年07月


事業者が実施しなければならない教育・研修にはどのようなものがあるか知っていますか。
安全衛生教育等推進要綱(H28年改正 基発1012 通達) によると次のとおりです。

1.実施が事業者に義務付けられているもの。
(1).雇入時教育、(2).作業内容変更時教育、(3).特別教育、(4).職長教育

2.実施が事業者の努力義務になっているもの。
(1).危険有害業務従事者に対する教育、 (2).安全衛生業務従事者に対する能力向上教育、(3).健康教育等

3.上記の法定教育以外の教育等で実施すべきもの(推奨されているもの)
危険有害業務(就業制限業務、特別教育)に準ずる危険有害業務従事者に対して、特別教育に準じた教育・・・他17の教育(後記)

このうち、雇入時教育、作業内容変更時教育、特別教育は、前回に説明しましたので、今回は職長教育以降を順次説明していきます。

職長等教育
職長とは、作業現場において労働者を直接、指揮監督する現場での第一線監督者(監督、班長、主任、リーダー、作業長等)であり、現場の安全衛生管理を主導するキーパーソンです。
従って、新たに職長に就く人が出れば、一定の業種にあっては、安全衛生に関する教育(職長教育)が義務付けられています。
職長教育とは、現場で作業者を指揮するために必要な教育です。

また、新たに職長に就く時だけでなく、概ね5年毎定期にと、機械や設備の変更があった時に、再教育が望ましいとされています。
再教育については、「製造業における職長能力向上教育」R2年(基発0331第7号)通達で示されています(下記)

職長教育の内容は、主に作業方法の決定、作業者の配置、労働者の指導や監督、危険性や有害性の調査や措置等です。
なお、派遣労働者についての職長教育は、派遣先事業者に実施義務があります。
職長教育に関する法令は以下のとおりです。

職長等教育(法・60条、 令・19条、 則・40条) 法・60条
事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する
者(作業主任者を除く)に対し、次の事項について、厚労省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。

1 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。

2 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること。

3 前2号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な事項で、厚労省令(下記)で定めるもの

則・40条
法・60条第3号の厚労省令で定める事項は、次のとおりとする。

1 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること。(法第28条の2第1項、第57条の3第1項及び第2項)

2 異常時等における措置に関すること。

3 その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること。

2 法・60条の安全又は衛生のための教育は、以下の項目について12時間以上行うこと。

1.作業方法の決定及び労働者の配置に関すること(2時間)
1)作業手順の定め方
2)労働者の適正な配置の方法

2.労働者に対する指導又は監督の方法に関すること(2.5時間)
1)指導及び教育の方法
2)作業中における監督及び指示の方法

3.危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること(4時間)
1)危険性又は有害性等の調査の方法
2)危険性又は有害性等の調査の結果に基づき講ずる措置
3)設備、作業等の具体的な改善の方法

4.異常時等における措置に関すること(1.5時間)
1)異常時における措置
2)災害発生時における措置

5.その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること(2時間)
1)作業に係る設備及び作業場の保守管理の方法
2)労働災害防止についての関心の保持及び労働者の創意工夫を引き出す方法

3 事業者は、前項の表の上欄に掲げる事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる者については、当該事項に関する教育を省略することができる。

令・19条 職長等の教育を行なうべき業種
法・60条の政令で定める業種は、次のとおりとする。

1 建設業

2 製造業 ただし、次に掲げるものを除く。
イ たばこ製造業
ロ 繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く。)
ハ 衣服その他の繊維製品製造業
ニ 紙加工品製造業(セロファン製造業を除く。)

職長等教育の対象外であった食料品製造業、新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業が追加され、令和5年4月から新たに職長となった者に対する教育が義務化されました。

3 電気業 4 ガス業 5 自動車整備業 6 機械修理業

通達
製造業の職長等能力向上教育に準じた教育について(令和2年基発0331)

製造業における労働災害防止を推進する上で、職長等の果たすべき役割は非常に重要であることから、今般、推進要綱を踏まえ、製造業における職長等に対する能力向上教育に準じた教育(職長等能力向上教育)の詳細について下記のとおりとする。

1 製造業に係る事業者は、職長等に対し、新たにその職務に就くこととなった後概ね5年ごと及び機械設備等を大幅に変更した時に、職長等能力向上教育を行うものとする。

2 職長等能力向上教育の実施に際しては、教育目標を定めた上で、別表に示す要件を満たすカリキュラム(実行カリキュラム)を策定すること。

実行カリキュラムの合計時間は、360分(6時間)以上とする

実行カリキュラムの要件
職長等として行うべき労働災害防止及び労働者に対する指導又は監督の
方法に関すること

1 基本項目(必須) →2時間以上

(1) 職長等の役割と職務

(2) 製造業における労働災害の動向

(3) 「リスク」の基本的考え方を踏まえた職長等として行うべき労災防止活動

(4) 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置

(5) 異常時等における措置

(6) 部下への指導力の向上(リーダーシップ等)

(7) 関係法令に係る改正の動向

2 専門項目(選択) →必要な時間

(1) 事業場の安全衛生活動

(2) 労働安全衛生マネジメントシステムの仕組み

(3) 部下に対する指導力の向上(コーチング、確認会話等)

グループ演習 →2時間以上
以下の項目のうち1以上について実施すること。
・職長等の職務を行うに当たっての課題
・事業場における安全衛生活動(危険予知訓練等)
・危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置
・部下に対する指導力の向上(リーダーシップ、確認会話等)

安全管理者選任時研修
則・5条、 告示第24号基発0224004号
(H18年2月16日 厚労省告示第24号、H18年10月1日施行)

安衛法第11条では、一定の業種及び規模の事業場ごとに「安全管理者」を選任し、その者に安全衛生業務のうち、安全に係る技術的事項を管理させることとなっています。
則・5条の改正により、新たに安全管理者を選任する際には、従来の学歴と実務経験に加え、厚労大臣が定める研修を修了していることが、H18年10月1日から義務付けられています。

安全衛生管理者等に対する能力向上教育
(法・19条の2  能力向上教育指針 改正H18.3.31)

能力向上教育は、安全衛生業務に従事する者の能力を維持・向上させるため、対象者へ実施する安全衛生教育であり、事業者の努力義務です。

能力向上教育を、もう少し詳しく言えば、
労災の動向、技術革新の進展等社会経済情勢の変化に対応し、事業場の安全衛生水準の向上を図るために、安全衛生業務従事者(安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者等)に対して行う業務に関する能力の向上教育、講習等です。

事業者は、安全衛生業務従事者に従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならないと規定(法・19条の2)しています。
この規程に基づき、指針(能力向上教育指針)が公表されています。
「労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能力向上教育の指針」

法・19条の2
事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者その他労働災害の防止のための業務に従事する者に対し、これらの者が従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならない。

2 厚労大臣は、前項の教育、講習等の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表する。

「能力向上教育指針」  第1号H元.5.22 → 最新改正・第5号H18.3.31
事業者は、安全衛生業務従事者に対する能力向上教育の実施に当たっては、事業場の実態を踏まえつつ本指針に基づき実施するよう努めなければならない。

対象者
(1) 安全管理者
(2) 衛生管理者
(3) 安全衛生推進者
(4) 衛生推進者
(5) 作業主任者
(6) 元方安全衛生管理者
(7) 店社安全衛生管理者
(8) その他の安全衛生業務従事者

【参考】
(5)の労働衛生関係の作業主任者
高圧室内、エックス線、ガンマ線透過写真撮影 特定化学物質 鉛、
4アルキル鉛、酸欠、有機溶剤、石綿、等

種類

初任時教育
初めて当該業務に従事することになった時に実施教育内容は、当該業務に関する全般的事項

定期教育
従事後、一定期間毎に実施
教育内容は、労災動向、社会経済情勢、職場環境変化等

随時教育
機械設備等に大幅な変更があった時に実施
教育内容は、上記の定期教育と同様

時間
原則として1日程度とする。
内容、時間は、教育の対象者、種類毎に下記の教育カリキュラムによる。
安全管理者、安全衛生推進者、衛生管理者
作業主任者(特定化学物質、鉛、有機溶剤等)・・・他

推進体制の整備等
教育の実施者は事業者であるが、事業者自らが行うほか、安全衛生団体等に委託して実施できる。
事業者は、実施した能力向上教育の記録を個人別に保存する。
教育は、原則として就業時間内に実施する。

危険有害業務従事者への教育 法・60条の2
安全衛生教育指針→最新改正・第6号 R3.3.17

就業制限業務従事者(免許取得者・技能講習修了者)や特別教育修了者等の危険有害業務従事者に対しては、一定期間毎、または機械設備の変更時等に安全衛生教育を実施することが法・60条の2で定められています。

事業者が労災の動向、技術革新等社会経済情勢の変化に対応しつつ、事業所における安全衛生の水準の向上を図ることを目的とし、危険または有害な業務に現に就いている者を対象に行います。

法・60条の2
事業者は、前2条に定めるもののほか、その事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、危険又は有害な業務に現に就いている者に対し、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行うように努めなければならない。

2.厚労大臣は、前項の教育の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針
安全衛生教育指針 最新改正・R3.3.17

法第60条の2の規定に基づき事業者が労働災害の動向、技術革新等社会経済情勢の変化に対応しつつ事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、危険又は有害な業務に現に就いている者(危険有害業務従事者)に対して行う、安全衛生教育について、その内容、時間、方法及び講師並びに教育の推進体制の整備等その適切かつ有効な実施のために必要な事項を定めたもの。
事業者は、本指針に基づき実施するよう努めなければならない。

教育の対象者、教育カリキュラム以外は、能力向上教育指針と概ね同じ。

対象者
(1) 就業制限に係る業務に従事する者
(2) 特別教育を必要とする業務に従事する者
(3) 上記に準ずる危険有害な業務に従事する者

安全衛生教育カリキュラムに基づき実施する。
随時教育は、運転操作方法のほか点検整備等の実技を加えたものとする。

健康教育 法・69条
健康保持増進のための指針→最新改正・R5.3.31

健康教育は労働者一人ひとりが自身の健康について注意を払い、健康維持・増進に努められるよう支援するものです。

法・69条
事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。

2 労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。

この健康保持増進措置が適切で有効に実施されるよう、指針が出ています。
事業場における労働者の健康保持増進のための指針(THP指針)
最新改正・第11号・R5.3.31
この指針に基づく、労働者の心身両面にわたる健康づくりを推進するための取組として、厚労省が策定したのがTHP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)です。

事業者は当指針に基づき、事業場内の産業保健スタッフ等に加え、事業場外資源(労働衛生機関、中災防、医療保険者、地域医師会、地方公共団体、産業保健総合支援センター等)を活用することで、効果的な取組を行うものとする。
一挙に出来ない場合は、実施可能な措置から取り組む等、各事業場に合わせた形で取り組むことが望ましいとされています。

健康保持増進措置の概要

(イ)労働者の健康状態の把握 →健康測定等

・転倒等のリスクを確認する身体機能セルフチェック

・加齢による心身の衰えを確認するフレイルチェック

・移動機能を確認するロコモ度テスト
データヘルスやコラボヘルス等を考慮する。

(ロ)健康指導の実施

・労働者の生活状況、希望等が考慮され、安全に楽しく効果的に実践できるよう配慮された運動指導

・ストレスに対する気付きへの援助、リラクセーションの指導等のメンタルヘルスケア

・食習慣や食行動の改善に向けた栄養指導

・歯と口の健康づくりに向けた口腔保健指導

・睡眠、喫煙、飲酒等に関する健康的な生活に向けた保健指導

・高年齢労働者には、フレイルやロコモティブシンドロームの予防を意識した健康づくり活動

最新改正・R5.3.31の改正の内容は次のとおりです。
筋力や認知機能等の低下に伴う転倒等の労働災害を防止するため、体力の状況を客観的に把握し、自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、加齢による心身の衰えを確認するフレイルチェック、身体機能セルフチェック、ロコモ度テスト等の健康測定の実施や保健指導への活用が考えられる旨規定。

健康保持増進対策の考え方として、事業者は医療保険者と連携したコラボヘルスを積極的に推進すること、安衛法に基づく定期健康診断の結果の記録等を積極的に医療保険者と共有すること及び当該記録等は情報連携をよりスムーズにするため、電磁的な方法による保存・管理が適切であることを明確化。

法定外(推奨)教育

事業者は、法定以外の教育についても積極的に受講の機会を設けることが望まれています。
リスクアセスメント、健康障害防止、危険予知活動、メンタルヘルス等の教育の充実。

法定教育以外の教育等で推奨されているものは、以下のとおりです。
安全衛生教育等推進要綱(H28年改正 基発1012 通達)

(1) 危険有害業務(就業制限業務、特別教育)に準ずる危険有害業務従事者に対して特別教育に準じた教育

(2) 上記の従事者に対する危険再認識教育

(3) 一定年齢に達した労働者に対する高齢時教育

(4) 安全推進者、職長等に対する能力向上教育に準じた教育

(5) 作業指揮者に対する指名時の教育

(6) 安全衛生責任者に対する選任時及び能力向上教育に準じた教育

(7) 交通労働災害防止担当管理者教育

(8) 荷役災害防止担当者教育

(9) リスクアセスメント担当者、労働安全衛生マネジメントシステム担当者等への教育

(10) 化学物質管理者教育

(11) 健康保持増進措置を実施するスタッフ養成専門研修

(12) 事業場内産業保健スタッフ等に対しメンタルヘルスケアを推進するための教育研修

(13) 特定自主検査に従事する者に対する能力向上教育に準じた教育

(14) 生産・施工部門の管理者、設計技術者等に対する技術者教育

(15) 経営トップ等に対する安全衛生セミナー

(16) 管理職に対する安全衛生教育

(17) 労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタント等に対する実務向上研修

(18) 就業予定の実業高校生に対する教育等

その他
資格者(就業制限業務、作業主任者等)の充足のための教育
特別教育に準ずる教育(腰痛、情報機器、騒音、振動工具、熱中症、有機溶剤等)
危険予知活動(KYT)に関する教育
職場でのハラスメント防止対策、新型コロナウイルス感染症の予防・対策
外国人労働者に対する母国語や明解な図示などを活用した安全衛生教育

最近のニーズでは、
化学物質管理者教育、保護具着用管理責任者教育(R6年4月義務)
金属アーク溶接等作業健康障害防止措置

安全衛生管理に必要な教育を説明してきましたが、対象作業の有無、教育実施の有無、教育記録の有無等抜けがないかを、今一度チェックしてください。
労働衛生教育は、労基署報告義務がないこと、事業者の裁量で省略できる部分もある等から、法的義務を知らなかったり、知っていても教育を実施していない場合があります。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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