産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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冬場に注意 身近に起こる一酸化炭素中毒 短時間で命を奪う・見えない・恐ろしい危険

2024年01月


これからは、1年で最も寒い時期になり、身近なところで一酸化炭素中毒が起こりやすい時期になり、中毒事故のニュースを耳にします。
何故でしょう。原因の1つは、火災が多くなるからです。
冬場は、湿度が低く物が乾燥しています。さらに暖房等で火気を使用する設備・ 器具を使う機会が増えますので、火災が多くなります。

Ⅰ.火災による一酸化炭素中毒
火災で恐ろしいのは、「炎」より「煙」です。
火災時に、「煙に巻かれて死亡した」と言うことをよく聞きますが、火災による死亡原因は、「煙」に含まれている一酸化炭素による中毒・窒息です。

消防庁・令和4年の火災状況(確定値)によりますと、1~4月における出火件数は、年間の41.1%を占めています。
火災による負傷者数は、5,750人、死者数は、1,452人で、前年度より増加しています。

火災による死因の実態は、一酸化炭素中毒です。
令和4年版・消防白書よると、火災による死因は、「火傷」が500人(35.3%)と最も多く、次いで「一酸化炭素中毒・窒息」が439人(31.0%)となっています。

しかし、これは統計上の分類の仕方でそうなっているのであって、実態は一酸化炭素中毒が大部分を占めています。
統計で、死因が「火傷」とカウントされているものには、煙を吸うことで一酸化炭素中毒に陥り、逃げることができないため「炎」に焼かれて焼死したものが含まれています。
「一酸化炭素中毒・窒息」としてカウントされているのは、「火傷の跡もなく死亡」している方のみの人数となっています。
従って、「一酸化炭素中毒・窒息」で意識を失った後に、炎で焼かれれば、統計上の死因は、「火傷」に分類されています。
このことから火災による死因の実態は、「煙」による「一酸化炭素中毒・窒息」が大きな要因となっていることがうかがえます。

火災による一酸化炭素中毒事例を紹介します。

(事例1)
木造2階建て住宅(家族5人)で火災 
火は5時間後に消し止められましたが、急性一酸化炭素中毒で病院に搬送された家人1名が、その後死亡が確認された。

(事例2)
火災で壁と天井約2平方メートルを焦がした。
救急隊員が駆け付けたところ、被害者が台所で倒れており病院に運ばれたが、すでに一酸化炭素中毒で死亡していた。
(この程度の火災でも、不完全燃焼で一酸化炭素が発生し中毒死が起こります)

(事例3)
大阪市の雑居ビル内で発生した放火事件で24人死亡。
大阪府警は司法解剖の結果、全員の死因が一酸化炭素中毒だったと発表。 
死者24人には、火傷はほとんどなく、全員が煙を急に吸い込んで亡くなっていた。

(事例4)
雑居ビル(地下2階、地上4階)の火災で、44名が煙に巻かれ死亡。 
3階で火災が発生し、火は周辺に置かれていた看板、ダンボール等に燃え移り、ビル全体に延焼した。
最上階の4階には、27名がいたが、出入口から煙が進入してきて充満し、視界もなくなったため逃げることができずに全員が一酸化炭素中毒で死亡。
3階にいた17名も煙が充満してきたため逃げ遅れ、一酸化炭素中毒で死亡。

(事例5)
令和元年に発生した「京アニ・スタジオ」(3階建て)での放火による火災で、一酸化炭素中毒とみられる多数の犠牲者が出ました。

対策のポイント
室内で火災が起きた時は、室内に一酸化炭素を含んだ煙が充満すると共に視界が遮られるので、出来るだけ低い姿勢になり、空気層が残っている壁や床に顔を近づけて、出口へと急いで避難すること。
ハンカチ等を水でぬらしても、一酸化炭素には効果が期待できないので、ぬらす時間があれば、まずは逃げることが必要と言われています。

Ⅱ.一酸化炭素の発生原因
なぜ火災(燃える・燃焼)で、一酸化炭素中毒が起こるのでしょうか物質と酸素が結びつくことを「酸化」と言い、酸化物が生成するとともに、酸化熱が発生します。 
鉄が酸素と反応すると酸化鉄(錆)になり、酸化熱が発生しますが、酸化のスピードが遅いために生成した熱は放散されてしまいます。
このような低温でゆっくりと起こる酸化は、燃焼とは言いません。

酸化のスピードが速くなると、酸化熱が大量に発生し、熱と光(火、炎)を発します。
これを「燃焼」と言っていますが、燃焼を継続するためには、大量の酸素が必要になります。
燃焼において、十分な酸素がないと不完全燃焼をおこし、この時に一酸化炭素が発生します。

燃焼における化学反応式は、次のようになります。
可燃物 + 酸素 → 燃焼生成物 + 熱
主な燃焼生成物(煙)は、酸素が十分にあれば、完全燃焼し、
炭酸ガス + 水
酸素不足の場合は、不完全燃焼し、
一酸化炭素 + 水
となります。

室内等で火災(燃焼)が起こると、酸素が急減に消費され、室内は酸欠状態となり、燃焼に必要な酸素の供給が不足し、不完全燃焼となり、一酸化炭素が発生します。
また、室内等で十分な換気を行わずに、燃焼機器(木炭・ガス・石油等のコンロ、湯沸かし器、ストーブ等)を使用していると、室内は酸欠状態となり、不完全燃焼による一酸化炭素等が発生します。
燃焼機器にもよりますが、空気中の酸素濃度が18%以下になると一酸化炭素の発生量が急激に増えてくると言われています。

Ⅲ.一酸化炭素中毒の特徴・症状
短時間で命を奪う「見えない・恐ろしい危険」それは一酸化炭素

一酸化炭素は、無味無臭、無色、無刺激のため、存在を感覚で知ることはできない見えない危険です。
従って、本人が気づかないうちに、体内に吸収(ばく露)されてしまいます。
さらに、ガスを吸って起こる中毒症状も、初期には頭痛、めまい、吐き気等であり、風邪の症状にも似ていますので、気付き難くなります。

中毒は、血液の酸素運搬能力が低下し、酸素が取り込めなくなることで起こります。
人間が生きていくために必要な酸素は、呼吸で肺に空気を吸い込み、この空気中の酸素を肺から取り入れています。
肺に入った酸素は、血液中のヘモクロビンと結びついて、全身の細胞に届けられ、人間が活動するために必要なエネルギーを生み出しています。

しかし、一酸化炭素を含んだ空気を吸うと、一酸化炭素は、酸素の200倍以上もヘモグロビンと結合しやすいため、酸素より先に結合して一酸化炭素・ヘモグロビンになり、ヘモグロビンと酸素とが結合できない状態になります。 
この結果、血液中の酸素量が低下し細胞に届ける酸素の量が減少し、体内に酸素が行き渡らない状態(内部窒息)となり、体の機能を正常に保つことできなくなって、様々な症状を引き起こします。

中毒症状は、血液中の一酸化炭素濃度(吸引した濃度や時間)によって異なりますが、軽度の頭痛、吐き気等からはじまり、その後、失神、呼吸不全等を引き起こし、最悪の場合は短時間で死に至ります。

軽度(血中濃度の目安10~20%)では、頭痛、眠気、めまい、吐き気、集中力の低下、嘔吐等の症状が起こります。
燃焼機器や内燃機関等の使用中や身近にそれらがある場合等で、頭痛や吐き気等、少しでも体に違和感を覚えた場合は、一酸化炭素中毒を疑い、ただちに使用を中止し、新鮮な空気を取り込みましょう。

ほとんどの場合、軽度の一酸化炭素中毒は、新鮮な空気を吸うことで回復します。
次のような失敗事例も参考に、軽度の段階で中毒を見逃さないように注意しましょう。

(1) 鍋物をガスコンロで煮炊きし、飲酒等で酩酊状態となり、中毒の初期症状を見つけられず、その後に症状がより重度なものとなった。

(2) 「眠気」を中毒の症状と認識できずに、そのまま眠ってしまい、一酸化炭素を吸い続け重度の中毒になった。

(3) 室内を石油ストーブで暖房していて、軽度の中毒になっていたが、その初期症状を風邪と間違えて放置していたために、重篤化してしまった。

中等度~重度では、判断力の低下、息切れ、胸痛、呼吸不全、錯乱等の精神的変調、意識消失等の意識障害、痙攣発作、昏睡等が起こります。
このため多くの場合、自力で動くことができなくなり、救助が必要になります。

重度の場合は、死に至るケースが多くなります。
火災現場や、狭い車庫内に排気ガスを引き込んだ場合等は、短時間で昏睡や痙攣を起こし、死に至ることがあります。

中毒が回復したようにみえても、中毒で脳にダメージが加わっているため、記憶障害、運動障害、抑うつ、遅発性の精神神経症状が現れたり、「後遺症」を残すケースもあります(もの忘れ、言葉が出てこない、スムーズな動作ができない、突然暴れる等)

Ⅳ.燃焼機器・内燃機関による一酸化炭素中毒

密室殺人
火災以外でも、密閉に近い環境下で「燃焼機器」や「内燃機関」等の使用で、一酸化炭素中毒が起こります。

それは前述のように、室内等「密閉に近い環境下」で「燃焼」が起こると、酸素が急激に消費され、室内等は酸欠状態となり、燃焼に必要な酸素の供給が不足して不完全燃焼となり、「一酸化炭素」が発生するからです。

火災以外で、一酸化炭素中毒が起こる主要な具体例を挙げれば、

(1) 燃焼機器 → ガス、石油、ガソリン、練炭、薪等を使っての暖房器具、コンロ、オーブン、湯沸かし器、給湯器等の燃焼機器

(2) 内燃機関 → ガソリンエンジン(自動車も含む)、発電機等

災害事例を紹介します。

1.排気ガスの逆流で一酸化炭素中毒
(事例-6)
雪で車内に排気ガスが逆流し死亡
マフラーが雪に埋もれている状態でエンジンをかけていて、一酸化炭素が車内に流れこみ中毒死。

自動車の排気ガスは、マフラーを通って車外に排出されていますが、排気系に穴が開いていたり、放出経路が塞がれていると、排気ガスが車内に逆流してきて、一酸化炭素中毒が起こります。
特に冬場は、マフラーが雪で埋もれてしまい、排気ガスが車内に逆流してくる危険性があります。

JAFのテスト結果によると、雪に埋もれた状態で、エンジンをかけた状態にしておくと、10分後に車内の一酸化炭素濃度は400ppm、16分後には1000ppmまで上昇しました。この濃度は、「3時間程で致死」という非常に危険なレベルです。

これは、エンジンを切ることで防げますが、そうすると寒さ対策が必要になります。
他の方法としては、放出経路が塞がれて排ガスが逆流しないように、マフラー周辺をこまめに除雪することです。

2.燃焼機器を使用し一酸化炭素中毒
燃焼機器とは、酸化反応で生じる熱を利用した機器のことで、具体例 として、石油・ガスストーブ、瞬間ガス湯沸かし器、カセットコンロ等酸素不足で不完全燃焼し、一酸化炭素を発生し中毒を起こします。

昔の日本家屋には、すき間がありましたが、今のマンション等は気密性が高く、閉めきった部屋で、換気をしないでガスコンロや燃焼を伴う暖房器具を使い続けることにより、一酸化炭素が発生します。

冬には窓を閉めた状態で、暖房器具、カセットコンロ、ガス湯沸かし器等の燃焼機器を使うことが多くなり、一酸化炭素中毒のリスクが高まりますので注意が必要です。
燃焼機器等は、酸素を急激に消費しますので、室内は短時間で酸欠状態となり、一酸化炭素が発生します。
冬季は、暖気が逃げないように、室内の換気もしなくなりがちですが、30分に1回程度(部屋の大きさ等にもよる)は、換気するよう心がけましょう。

ちなみに、空気清浄機では一酸化炭素は除去できないので、換気が必要です。
古くなった燃焼機器は、不完全燃焼している場合がありますので点検が必要です。
一酸化炭素警報機の設置や、不完全燃焼防止装置付き機器を使用しましょう。

(事例7)
ガス給湯器の点検・修理を怠ったために一酸化炭素中毒で死亡
換気扇を稼働していない状態で、ガス給湯器を使用したため、換気不良により一酸化炭素が室内に充満し、一酸化炭素中毒で、1名が死亡、1名が軽症を負った。
換気不良以外の原因として、長期間使用によって、ガス給湯器にほこりや煤が詰まり、不完全燃焼が起こったことも一因です。

長期間使用していると、不具合が生じるおそれがあるので、ユーザーによる定期的な点検、異常時のメーカー等による専門的な点検・修理が必要です。
ガス湯沸器や石油ストーブ、石油ファンヒーターを使用するときは、定期的な換気が必要です。

(事例-8)
就寝中に石油ストーブが不完全燃焼し死亡
密閉に近い状態の室内で、石油ストーブを使用して暖房をしたまま就寝したところ、給気不足から不完全燃焼となって、大量に発生した一酸化炭素による中毒で1名が死亡した。
石油ストーブの燃焼空気取入口が、多量のほこりの堆積で狭くなっていたため、空気の供給不足で不完全燃焼となった。

燃焼機器の使用で、一酸化炭素中毒にならないために(教訓)

(1) 使用時は、必ず換気をすること。
テント内や車内等のような換気の悪い狭い場所では、燃焼機器を使用しないこと。
冬季は、暖気が逃げないように、室内の換気が少なくなりがちですが、30分に1回程度(部屋の大きさ等にもよる)は、必ず換気を行って、新鮮な空気を取り込むこと。

(2) 燃焼機器や換気設備は常に清掃し、定期的に点検をすること。
器具類等に溜まったほこり等は、掃除機で吸い取ったり、こまめに拭き取ること。
煤やタール類についても、取説に従って処置すること。

(3) 就寝時には使用せず、寝る前に確実に消火(完全に消えたことをしっかりと確認)すること。

(4) 新鮮な空気の給気口を確保し、燃焼排気ガスの排気筒(煙突)を設置すること。

(5) 不完全燃焼防止装置付の機器を使用すること。

(6) 一酸化炭素の検知・警報機の設置が望ましい。

3. 携帯発電機等の内燃機関を使用し一酸化炭素中毒
内燃機関は、内部で燃料を燃やし、発生した熱によって内部の気体を熱膨張させ、力を生み出して機械的仕事をさせる原動機で、ガソリンエンジンを用いた発電機、除雪機、高圧洗浄機、刈払機等の工具類が該当します。
稼働時は多量の酸素を必要とし、十分な酸素がないと不完全燃焼を起こし、一酸化炭素が発生しますので、屋内では使用禁止です。

携帯発電機
ガソリン、軽油、カセットボンベ等の燃料を使ってエンジンを稼働させ、装置内のコイルや磁石を回転させることで発電する装置で、地震や台風時等の災害時の停電対応やアウトドアでの使用等で需要が高まっています。
一方、屋内で使用したことが原因で、一酸化炭素中毒になり多くの死亡者が発生しています。

(事例-9)
携帯発電機(ガソリン燃料)を、換気をしていない室内で使用していたため、室内に排気ガスがこもって、一酸化炭素中毒で3人が死亡。

携帯発電機は、室内や換気が悪く排ガスがこもる場所(物置、倉庫、車内、テント内等)では使用禁止です。
換気の悪い所で携帯発電機(ガソリン燃料)を使用すると、一酸化炭素濃度は短時間で死亡濃度になります。
(一酸化炭素の空気中濃度が1600ppmで2時間で死亡、3200ppmで30分で死亡)

2つの実験結果を紹介します。
東京都による実験では、携帯発電機を室内で運転したところ、一 酸化炭素濃度は、10分程度で1,600ppm以上に達しました 。
NITEの実験では、室内で携帯発電機を使用した場合、一酸化炭素濃度が1分30秒で300ppm、6分で1150ppm、8分で200 ppmになりました。

(事例-10)
その他の携帯発電機の災害事例
2016年 物置小屋で携帯発電機を使用中、一酸化炭素中毒で1名が死亡
2018年 地震で停電したので、家庭用の携帯発電機を屋内で使った男性が死亡。
      原因は、換気が不十分だったための一酸化炭素中毒。
2020年 換気の不十分な屋内で携帯発電機を使用したため、1人が死亡、2人が重症。

携帯発電機による一酸化炭素中毒防止のための使用禁止場所
1. 屋内、室内、車内、物置・倉庫、テント内等(換気不良場所)
2. 屋外でも、換気の悪い場所
3. 排気ガスが流入するおそれがある次のような場所
・ベランダ等の窓や玄関の近く
・テントの近く
・車庫、ガレージの近く
・温室、ハウスの近く

(事例-11)
携帯発電機以外の除雪機、高圧洗浄機、刈払機等
小屋内で、出入口のシャッターを閉めたまま、除雪機のエンジンをかけて暖機運転していたところ、一酸化炭素中毒で死亡。
原因としては、換気の悪い状態の小屋内で、除雪機を運転したため、排気ガスが小屋内に充満したこと。また、排気ガスによる一酸化炭素中毒の危険性の認識不足。

高圧洗浄機(原動機付)を、井戸内に持ち込み、洗浄作業を行っていたところ、排気口から一酸化炭素が井戸内に滞留し、一酸化炭素中毒で死亡。

冬季に身近な所で起こる「一酸化炭素中毒」についてご紹介しました。
予防は、端的に言えば、「火事や不完全燃焼を起こさないようにする」ことです。
いま一度、身の回りの対策を見直してみましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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