2014年03月
先月は、化学物質のリスクアセスメントについての法令を説明しましたが、その後「化学物質のリスクアセスメントの実施を義務化する」との動きがありましたので、その内容を紹介します。
要旨は、事業者は、安全データシート(SDS)の交付が義務づけられている物質(現在640種類)について、危険性又は有害性等を調査(リスクアセスメント)をしなければならないとするものです。
これらの物質は、日本産業衛生学会等が許容濃度を勧告する等、人に対する一定の危険性・有害性(ハザード)が明らかになっている化学物質です。
化学物質のリスクの大きさは、「ハザード」×「ばく露量」となりますので、「ハザード」がわかっている化学物質は、職場での取り扱いによる「ばく露量」がわかれば、リスクの大きさがわかります。
つまり、リスクアセスメントができるということになりますので、胆管がんの事例なども踏まえて、義務化しようというものです。
【労働安全衛生法の一部を改正する法律案要綱】 (化学物質関係抜粋)
1.事業者は、第57条第1項に規定する表示義務の対象物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならないものとする。
2.事業者は、1による調査結果に基づいて、この法律又は、これに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働の危険又は健康障害を防止するための必要な措置を講ずるように努めなければならないものとする。
3.厚生労働大臣は、1及び2による措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
4.厚生労働大臣は、3の指針に従い、事業者又はその団体に対して、必要な指導、援助を行うことができるものとする。
5.労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれのある者を譲渡し、又は提供する際にその容器又は包装の表示しなければならないこととされているもののうち、成分を削除すること。
【これまでの経緯】
平成25年6月以降、労働政策審議会・安全衛生分科会で検討を重ね、12月に報告書が提出され、これを基に、12 月24 日に、厚生労働大臣へ建議。
平成26年1月23日に、厚生労働大臣から労働政策審議会に「法律案要綱」(上記)の諮問がなされ、2月4日に、労働政策審議会から「概ね妥当と認める」との答申が行われた。
厚生労働省は、この答申を踏まえて法律案を作成し、今期通常国会への提出の準備を進める。
【建議の内容】(化学物質管理のあり方の要旨)
第28 条の2で、全ての化学物質についてリスクアセスメントを実施することが事業者の努力義務とされている。
しかし、印刷事業場において集団で胆管がんを発症した事案では、当該化学物質を採用した際にリスクアセスメントが適切に実施されていなかった。
この事案以外にも、リスクアセスメントが未実施又は不適切であったために健康障害が発生した事案が少なくない。
また、化学物質の有害性等が労働者に周知されていなかったために発生した事案もみられる。
こうしたことから、人に対する一定の危険性・有害性が明らかになっている化学物質については、起こりうる労働災害を未然に防ぐために、事業者及び労働者がその危険性や有害性を認識し、事業者がリスクに基づく必要な措置を検討・実施するような仕組みを設ける必要がある。
従って、対策の方向性として、
1.日本産業衛生学会等が許容濃度等を勧告するなど人に対する一定の危険性・有害性が明らかになっている化学物質を事業者が新規に採用する場合等において、事業者にリスクアセスメントを実施させることが適当である。
2.リスクアセスメントに基づく措置が適切かつ着実に実施されるようにするため、事業者が実施したリスクアセスメントの結果について、備え付ける等により労働者に周知されるようにするべきである。
3.国は、中小規模事業場においてリスクアセスメントが適切に実施されるよう、簡易なツールの開発・改善や相談・指導体制の整備など、十分な支援措置を講じるべきである。
4.労働者が化学物質を取り扱うときに必要となる危険性・有害性や取扱上の注意事項が確実かつ分かりやすい形で伝わるよう、ラベル表示を義務づけている化学物質の範囲を、人に対する一定の危険性・有害性が明らかになっている化学物質まで拡大することが適当である。
5.ラベルの表示を義務づける化学物質の範囲を拡大した場合、多種類の化学物質を混ぜ合わせている混合物については、ラベルに表示すべき成分の種類が大幅に増加し、情報が伝わりにくくなることが懸念される。
このため、ラベルへの成分の表示については、安全データシート(SDS)にも全ての成分が記載されていることを踏まえて、労働者に情報が伝わりやすくなるよう見直すことが適当である。
6.ラベルの表示を義務づける範囲を拡大するに際しては、ラベルの意味や読み方が労働者に正確に理解されるよう事業者において労働者に対する周知・教育を行うべきであるが、併せて国が周知・広報を行うべきである。
臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)
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