産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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化学物質の法規制-11 危険・有害性情報-(1)

2014年05月


孫子の兵法で、「彼(敵)を知り、己を知れば、百戦殆(危)うからず」というのが有名ですが、これは化学物質管理でも同じであり、取り扱う化学物質の危険有害性情報を把握することが安全に取り扱う上での基本となります。

化学物質の危険有害性情報が適切に伝達されていなかった、伝達されていたが危険有害性に対する認識が甘かった、情報が十分に活用されていなかった、というような情報不足と認識・活用不足による災害が多く起こっています。
これらの災害を防ぐには、職場で取り扱う化学物質の危険有害性情報は、全ての関係者に確実に伝達され、有効に活用(リスクアセスメント等)され、リスクに基づく合理的な化学物質管理を行うことが必要です。

そこで安衛法では、化学物質の危険有害性を伝達する方法や活用に関する規定を設けています。
危険有害な化学物質を譲渡提供する際に、容器等へのラベル表示やSDSを交付することで、名称、取扱い上の注意、危険有害性等の情報を伝達すること等が規定されています。

まず、容器等へのラベル表示については、次の通りです。

安衛法第57条・・・表示が義務であり、違反には罰則があります。
爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物、労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令(第18条)で定める物、及び製造許可物質を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚労省令(31条)で定めるところにより、その容器又は包装に次に掲げるものを表示しなければならない。

(1)名称 (2)成分 (3)人体に及ぼす作用 (4)貯蔵又は取扱い上の注意
(5)厚労省令で定める事項(則34条)
→・表示をする者の氏名(社名等)、住所、電話番号・注意喚起語・安定性及び反応性
(6)取り扱う労働者に注意を喚起するための標章で厚労大臣が定めるもの。
→・日本工業規格Z7253(GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法─ラベル、作業場内の表示及び安全データシート(SDS))に定める絵表示。

製造許可物質→特化則第1類物質(7物質)
政令(18条)で定める物→101物質、及びこれらを含有する混合物(裾切りあり)
省令(31条)で定める→容器又は包装に、表示事項等を印刷し、又は印刷した票せんをはりつけて行うこと。これが困難なときは、票せんを結びつけること。

2 上記以外の方法で、譲渡し、提供する者は、厚労省令(則34条)で定めるところにより、上記の事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。
→文書は、継続的に又は反復して譲渡し、又は提供する場合において、既に当該文書の交付がなされているときは、この限りでない。

以上は、罰則付きの義務ですが、以下は、努力義務(H24-4-1施行)の規定です。

則・第24条の14
化学物質、化学物質を含有する製剤その他の労働者に対する危険又は健康障害を生ずるおそれのある物で厚労大臣が定めるもの(危険有害化学物質等という。法57条で義務となっている物を除く)を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、その容器又は包装に次に掲げるものを表示するように努めなければならない。
→以下、法57条と同様です。
法57条との違いは、表示対象物質が、厚労大臣が定める物で、表示することが努力義務となっていることです。

→厚労大臣が定める危険有害化学物質等は、日本工業規格Z7253(前記参照)の定めにより、危険有害性クラス、危険有害性区分及びラベル要素が定められた物理化学的危険性又は健康有害性を有するものです。
つまり、GHS分類において危険有害性を有する全ての化学物質が表示対象になります。

また、事業場内で化学物質等を取り扱う労働者が危険有害性を知らずに不適切な取扱いをして災害が起こることを防止するため、「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針」が改正(H24-04-01)され、第4条で、「事業者は、容器に入れ、又は包装した化学物質等を労働者に取り扱わせるときは、当該容器又は包装に、表示事項等を表示するものとする」と定められています。

第12次労働災害防止計画では、職場の化学物質管理の推進のため、平成29年までにGHS分類で危険有害性を有する全ての化学物質について、危険有害性の表示と安全データシート(SDS)の交付を行っている化学物質製造者の割合を80%以上とすることを目標としています。

さらに、昨年末に、厚労大臣へ労働政策審議会から建議された今後の化学物質管理のあり方の中では、「ラベル表示を義務づけられている化学物質の範囲を拡大することが適当である」としています。
具体的には、SDSの交付が義務づけられている化学物質(640物質)にまで拡大することが提言されています(現在は、前記の法57条該当の108物質)。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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