産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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化学物質の法規制-18 危険・有害性情報-(8) GHS・JIS 健康有害性の分類・区分

2014年12月


健康有害性の分類・区分は、GHS改訂5 版(2013)とJIS Z7252を参考にすると次のようになります。

1. 急性毒性
化学物質の経口若しくは経皮による単回投与、24 時間以内の複数回投与、又は 4 時間の吸入暴露によって起こる有害な性質。
経口、経皮、吸入経路による急性毒性に基づいて分類基準表に示されるようなカットオフ値の判定基準によって、5つの有害性区分(区分1~5)に分ける。( 前月号参照 )

区分番号が小さいほど毒性が大きい。
急性毒性の値はLD50(経口、経皮)、LC50(吸入)、急性毒性推定値(ATE)で表わされる。

2. 皮膚腐食性/皮膚刺激性
(皮膚腐食性)
試験物質の4時間以内の適用で、皮膚に不可逆的な損傷を生じさせる性質。
不可逆的な損傷は、皮膚組織の破壊(表皮から真皮に至る視認可能な壊死)として認識される。(皮膚刺激性)試験物質の4時間以内の適用で、皮膚に可逆的な損傷を生じさせる性質。

区分1 皮膚腐食性
本区分はさらに、3つの細区分(1A、1B、1C)に分けてもよい。

区分2 皮膚刺激性

区分3 軽度の皮膚刺激性

3. 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性
(眼に対する重篤な損傷性)
試験物質の適用で眼の組織損傷又は重篤な視力低下(適用後21日以内に完全には治癒しない状態)を生じさせる性質。(眼刺激性)
試験物質の適用で眼の変化(適用後21日以内に完全に治癒する状態)を生じさせる性質。

区分1 眼に対する重篤な損傷性/眼に対する不可逆的作用

区分2 眼刺激性/眼に対する可逆的影響
本区分はさらに、2つの細区分(2A、2B)に分けてもよい。

4. 呼吸器感作性又は皮膚感作性
(呼吸器感作性)
化学物質の吸入によって気道過敏症を引き起こす性質。
細区分のためのデータが十分でない場合には、区分1に分類。
データが十分にある場合は、1A(強い感作性物質)、1B(他の呼吸器感作性物質)に分類する。

(皮膚感作性)
化学物質の皮膚接触によってアレルギー反応を引き起こす性質。
皮膚感作性は、接触感作性ともいう。
細区分のためのデータが十分でない場合には、区分1に分類。
データが十分にある場合は、1A(強い感作性物質)、1B(他の呼吸器感作性物質)に分類する。

5. 生殖細胞変異原性
次世代に受け継がれる可能性のある突然変異を誘発する性質。
in vitro での変異原性/遺伝毒性試験、およびin vivoでの哺乳類体細胞を用いた試験も、この有害性クラスの中で分類する際に考慮される。

区分1 ヒト生殖細胞に経世代突然変異を誘発することが知られているかまたは経世代突然変異を誘発すると見なされている物質

区分1A ヒト生殖細胞に経世代突然変異を誘発することが知られている物質、ヒトの疫学的調査による陽性の証拠。

区分1B ヒト生殖細胞に経世代突然変異を誘発すると見なされるべき物質

区分2 ヒト生殖細胞に経世代突然変異を誘発する可能性がある物質

変異原性とは、細胞又は生物集団における突然変異の発生率を増加させる性質。
突然変異とは、細胞内遺伝物質の量又は構造の恒久的変化。経世代的な遺伝的変化、その基となるDNAの変化の両方。
遺伝毒性とは、DNAの構造、含まれる遺伝情報、又は染色体の分離を変化させる性質。

6. 発がん性
がんを誘発するか、又はその発生率を増加させる物質あるいは混合物。
動物を用いて適切に実施された実験研究で良性および悪性腫瘍を誘発した物質および混合物もまた、腫瘍形成のメカニズムがヒトには関係しないとする強力な証拠がない限りは、ヒトに対する発がん性物質として推定されるかまたはその疑いがあると考えられる。

区分1 ヒトに対する発がん性が知られているあるいはおそらく発がん性がある

区分1A ヒトに対する発がん性が知られている。主としてヒトでの証拠により物質をここに分類する。

区分1B ヒトに対しておそらく発がん性がある。主として動物での証拠により物質をここに分類する。

区分2 ヒトに対する発がん性が疑われる

7. 生殖毒性
雌雄の成体の性機能及び受胎能に対し悪影響を及ぼす性質、又は子の発生に対し悪影響を及ぼす性質。

区分1 ヒトに対して生殖毒性があることが知られている、あるいはあると考えられる物質

区分1A ヒトに対して生殖毒性があることが知られている物質 分類のための証拠が主としてヒトのデータによるもの。

区分1B ヒトに対して生殖毒性があると考えられる物質 分類のための証拠が主として動物データによるもの

区分2 ヒトに対する生殖毒性が疑われる物質

8. 特定標的臓器毒性(単回暴露)
単回暴露によって生じる臓器における特異的な非致死性の有害な性質。
単回暴露は、可逆的若しくは不可逆的、又は急性若しくは遅発性の機能を損なう可能性があるすべての重大な健康への影響を含む。
特定標的臓器毒性物質であるかどうか、および、それにばく露したヒトに対して健康に有害な影響を及ぼす可能性が存在するかどうかを特定する。

区分1 ヒトに重大な毒性を示した物質、または実験動物での試験の証拠に基づいて単回ばく露によってヒトに重大な毒性を示す可能性があると考えられる物質

区分2 実験動物を用いた試験の証拠に基づき単回ばく露によってヒトの健康に有害である可能性があると考えられる物質

区分3 一時的な特定臓器への影響

9. 特定標的臓器毒性(反復暴露)
反復暴露によって生じる臓器における特異的な非致死性の有害な性質。
反復暴露は、可逆的若しくは不可逆的、又は急性若しくは遅発性の機能を損なう可能性があるすべての重大な健康への影響を含む。

区分1 ヒトに重大な毒性を示した物質、または実験動物での試験の証拠に基づいて反復ばく露によってヒトに重大な毒性を示す可能性があると考えられる物質

区分2 動物実験の証拠に基づき反復ばく露によってヒトの健康に有害である可能性があると考えられる物質実験動物での適切な試験において、一般的に中等度のばく露濃度で、ヒトの健康に関連のある重大な毒性影響を生じたという所見に基づく。

10. 吸引性呼吸器有害性
誤嚥の後、化学肺炎若しくは種々の程度の肺損傷を引き起こす性質、又は死亡のような重篤な急性の作用を引き起こす性質。
誤嚥とは、液体又は固体の化学物質が、口若しくは鼻腔から直接、又は嘔吐によって間接的に気管及び下気道へ侵入すること。

区分1 ヒトへの吸引性呼吸器有害性があると知られている、またはヒトへの吸引性呼吸器有害性があるとみなされる化学物質

区分2 ヒトへの吸引性呼吸器有害性があると推測される化学物質

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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