産業保健コラム

廣瀬 一郎 相談員

    • カウンセリング
    • カウンセリングルームこころの栞 主宰カウンセラー
      ■専門内容:カウンセリング全般
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こころの変容プロセス

2011年08月


ソクラテスの『無知の知』「“知らない”ことを知る」という言葉があります。
私たちは自分のことを“知らない”のに“知ったつもり”になっていることがないでしょうか。未知を既知にすることは、問題解決を促進するということでもあります。潜在しているものを顕在化する、あるいは未完を完結させるには、沢山の他者と出会い、自己と出会うことです。私たちは、常日頃顕在能力に満足して、潜在能力(宝庫)を認識していないといえます。それは潜在能力を眠らせたまま開発しないで、マニュアル化、定型化に留まり学習性無力感(セリグマン)に浸る状況です。ところでこの潜在しているものは何なのでしょうか。能力や感情、またはそれらが混在しているものなのです。特にそのこころの奥底に沈めた否定的感情は、自分が何かを行動しようとする時に、無意識にその行動を止めてしまうか、過剰に煽ってしまいます。たとえば親に対する憎しみや怒りそして自分への恥しさなどは、抱いてはいけない感情として無意識下に沈めてしまっています。時には快である“喜び”の感情でさえ沈めている場合もあります。親に「なにをニコニコしている!」と言って拒否されると、大人になっても喜べず、感動ができなくなります。また自分が抱いた本物の感情を封印して吐露できていないと、感情表現が未完結のままとなり問題解決には至りません。自分と自分の親との問題は自分と自分の子供の問題にも影響してしまいます。未完を完結させるということは自己を一致させることだともいえます。色々な出来事に出合って経験していくことが、「自己」と出会うことになるわけです。合わない人と付き合ってみる、回避せず話を聞いてみると意外と耐えられる自分を新たに発見したりするものです。

ロジャーズの自己構造図(改変)

上にロジャーズの自己構造図(改変)をあげております。これは「自画像と他画像の合作」である自己概念円と「対象との出会い」の経験円を重ねたものです。

Aさんの自己概念には歪曲や思い込みがあるので、すべてを受け入れるわけではなく自分の概念とBさんの概念が合うのかどうかを検証し、合うところ(一致している 部分)が心の中へすーっと浸透していきます。例えば、この人とは職場内だけなら付き合えるがプライベートでは絶対付き合いたくないということです。しかし新たな出会いを受容し一致部分を増やして自己概念の変容、拡張を繰り返ししていくとまるごと対象(Bさん)を受け容れることができるようになるはずです。万が一他者との出会いを拒否し、固定自己概念のままでいると、いつのまにか自分の常識が周囲の非常識になっているかもしれません。今ここでの気づきにより未知を既知にする、潜在を顕在化する、未完を完結させることが問題解決につながります。表現を変えれば、たくさんの経験を思い込みと歪みのない一致したこころで受容し、度量の大きな自己概念を構築していくための援助をすることがカウンセリングであるともいえます。

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