産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-8

2016年06月


化学物質のリスクアセスメントが義務化(640物質)され、6月1日から施行されました。
この対象となる化学物質について、リスクアセスメントが実施され、結果に基づく必要な措置がなされているか、再確認してください。
その他の化学物質についても、努力義務であり、リスクアセスメントの実施と必要な措置を講ずるように努めなければなりません。
今まで、このメルマガで紹介してきたこと等を参考にしてください。

また、6月1日には、福井県の事業場で、オルト-トルイジンをはじめとした芳香族アミンを取り扱う作業に従事していた複数名の労働者が膀胱がんを発症した事案について、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所より最終的な調査結果の報告がありました。これには、今後の化学物質のリスクアセスメントの課題も含まれています。

=========== 調査結果報告書の概要 ===========

今回の災害調査結果では、調査対象事業場において、現在、膀胱がんを引き起こす可能性のあるオルト-トルイジン等の芳香族アミン類がばく露限界を超えるような経気道ばく露があることの確認はできなかった。

しかしながら、労働者は防じん防毒マスク、手袋や化学防護服等の労働衛生保護具を着用していたにもかかわらず、多くの労働者で尿中オルト-トルイジンが検出された。
その後の聞き取り調査や手袋の汚染調査などから、オルト-トルイジンの経皮吸収による生体への取込みの可能性が示唆され、また、過去の作業内容や作業衣や保護具の使用・管理状況、さらには有機溶剤に係る過去の特殊健康診断や作業環境測定の結果等からオルト-トルイジンのばく露は長期間にわたって存在していた可能性が懸念された。

今後、オルト-トルイジンによる健康障害を予防するために、製造・生産工程の密閉化・無人化・自動化等を通じた経気道・経皮・経口ばく露を徹底的に防ぐとともに、事業者には化学物質のばく露や生体への取込みの特徴や特殊性、適切な保護具の使用・管理手法等について認識してもらい、適切な労働衛生教育を現場で提供していただく必要がある。

また、オルト-トルイジンばく露防止のための効果的なリスクアセスメントを実施していくためには、作業環境測定や個人ばく露測定等のばく露評価に加えて尿中代謝物の測定等のばく露評価の手法を用い、これらの結果を労働者の健康管理に活用していく必要がある。

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この報告書にあるように、効果的なリスクアセスメントの実施には、3経路(経気道、経皮、経口)からのばく露評価ができる尿中代謝物の測定等のばく露評価手法を加味することが必要であり、これは今後の課題です。
現状のリスクアセスメントは、経気道(気中濃度測定)からのばく露評価のみです。

なお、3経路(経気道、経皮、経口)からのばく露については、本マガジンにおいても、H25年8月号(3本の毒矢)、H27年2月号、3月号(化学物質を取り扱う際の日常の注意)で次のように紹介しました。

経気道からのばく露防止対策は、作業環境改善で化学物質の気中濃度を低くする、化学物質にばく露しない作業位置・姿勢をとる、化学物質を取り扱う作業時間を短くする等で、気中の化学物質が呼吸器から体内に取り込まれないようにするものです。

さらに、経皮吸収によるばく露対策については、液体や粉体の付着だけでなく、ガスの状態でも皮膚から取り込まれます(皮膚→皮脂腺・汗腺→血液)。
特に有機溶剤とその蒸気はこの性質をもつものがあります。
経皮吸収は、化学物質の濃度、皮膚接触面積、接触時間等が影響します。

1.汚れ落としのために、化学物質(溶剤)で手を洗ったり、拭いたり、また衣類等を洗うことは厳禁。

2.化学物質を手で取扱う作業は、必ず不浸透性の材質の化学防護手袋を使用する。

3.トラブル時等の異常ばく露の防止としては、化学物質が飛散し、被服等に大量に付着した時は、浸透による経皮吸収だけでなく、付着した被服からの蒸発によるばく露もありますので、
(1)早く衣服を脱がせ、着替えさせる(このために常に着替えの用意をしておく)。
(2)化学物質が付着した患部(皮膚)を洗う。
シャワー等を浴びさせ(場合によっては風呂に浸かって)、石鹸水等で体表面の化学物質を早く除去する(このために、洗眼、洗身設備を設置しておく)。

(3)トラブル時に、被害を最小限に抑えるために、取扱量は当日の作業に必要な量だけ持込むようにする。

4.長袖の作業服を着用して、皮膚を露出しないようにする。
有害性の強い化学物質を取り扱う場合は化学防護服を着用することにより皮膚からの侵入を防ぐ。

このように、作業管理を中心とした経皮吸収によるばく露対策にも十分に留意することが必要です。
作業環境等の測定値だけでなく、化学物質の不適切な取り扱いに伴う異常ばく露のリスクがないか、今一度、作業をよく見てチェックしてください。

次回は、代謝物測定等を用いたばく露評価の手法を紹介します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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