産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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口腔ケアと定期的な歯科医院の受診を心がけ、生活習慣病や認知症の発症リスクを軽減さ せましょう

2019年08月


 現在私は松山市医師会で、学術部・勤務医病院部の担当主任理事を仰せつかっています。
 この中で、松山市歯科医師会と協働して、相互の会員間での研修会を定期的に開催しています。私は精神科医ですが、口腔ケアが糖尿病などの生活習慣病などのほかに、認知症などの精神疾患にも大きな影響を与えることを学びました。
 糖尿病になると、のどや口が乾きやすくなります。そのため、唾液の分泌量も低下して、口の中が汚れやすくなり、口臭の原因になります。また、免疫力が低下するため歯周病になりやすく、治りにくくなります。糖尿病患者のおよそ7~8割が歯周炎などに罹患すると指摘されます。放置すれば、歯周病から他の重度感染症を引き起こす危険性もあります。
 一方で、歯周病を治療すると血糖値がコントロールしやすくなるなど、歯周病の改善が糖尿病の改善に関係することが近年報告されています。
 口腔内の清潔を保つことが、二次的な感染症を防ぐだけでなく、糖尿病の進行も抑える可能性があるのです。是非、職場でも周知して頂きたいと思います。

 口腔ケアは、高齢者に対する「フレイル(虚弱)」予防・対策にも非常に大きな役割を果たします。私は認知症を専門としておりますが、認知症患者さんの診察時には必ずお口の中を見せていただきます。認知症になると、毎日の洗面や歯磨きが疎かになり、口腔内の清潔が保たれていない場合が多くあります。その原因としては、歯磨き自体を忘れたり、やる気が起こらず面倒に感じて止めてしまったり、中には歯ブラシの使い方が分からなくなったりと様々です。患者さん自身が上手に訴えることができれば良いのですが、ある程度認知症が進行した場合には、歯の痛みなどを上手く表現できず、急にイライラしたり、食事を嫌がったりされる方もいます。先日受診した患者さんは、「食事量が減って体重まで低下した」と、ご家族が心配されて来院されましたが、原因は入れ歯(義歯)が合っておらず、金具が舌にあたって口内炎ができていたためでした。原因が分かってみれば簡単なことですが、今まで食事をとっていた方が急に嫌がるときには、ぜひお口の中を見てあげてください。
 口腔衛生管理が困難になり、口腔の衛生状態が悪化すると、認知機能が一層低下しやすいことが最近の研究で分かっています。歯周病になると、慢性的な炎症反応に加えて、歯周病原菌が産生する毒素が血流に拡散することで血管の損傷を引き起こし、神経細胞障害やアルツハイマー病の症状を増悪させる可能性が指摘されています。また、歯を失うと、どうしても硬い食材を避けて、軟らかい物ばかりを食べるようになります。そうなると、認知機能維持に必要なビタミン類を摂取する生野菜などを摂る機会が減ってしまします。同時に、噛む(咀嚼:そしゃく する)回数が減ってしまい、脳への神経刺激が減少することも、認知症の発症や増悪の一因だと言われています。
 歯の数の維持、歯を失った場合の義歯などの治療、定期的な歯科受診などを心掛けて、認知症のリスクを少しでも減らしましょう。

医療法人牧病院 牧 徳彦

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