産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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化学物質の法規制-5 製造許可物質

2013年11月


化学物質の規制で一番厳しいのが前回に説明した「製造等禁止」ですが、次いで厳しいのが、「製造許可」です。
がん等の慢性・遅発性障害を引き起こす物質のうち、特に有害性が高く労働者に重度の健康障害を生じるおそれがあるものを製造しようとする者(製造者)は、下記のとおり、予め厚労大臣の許可を受けなければなりません。

【安衛法・第56条】
ジクロルベンジジン、ジクロルベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずるおそれのある物で、政令で定めるもの(※1)を製造しようとする者は、厚労省令で定めるところにより、あらかじめ、厚労大臣の許可を受けなければならない。

※1【令17条】(製造許可物質)  別表第3第1号に掲げる第1類物質
(特化則・第1類物質)
1 ジクロルベンジジン及びその塩(1重量%超)
2 アルフア-ナフチルアミン及びその塩(1重量%超)
3 塩素化ビフエニル(別名PCB)(1重量%超)
4 オルト-トリジン及びその塩(1重量%超)
5 ジアニシジン及びその塩(1重量%超)
6 ベリリウム及びその化合物(1重量%超、合金は3重量%超)
7 ベンゾトリクロリド(0.5重量%超)

2 厚労大臣は、前項の許可の申請があつた場合には、その申請を審査し製造設備、作業方法等が厚労大臣の定める基準(※2)に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

※2【特化則・50条、50条の2】
製造許可の基準→隔離、密閉、遠隔操作、漏洩防止措置等
【特化則・48条】
許可は、物ごとに、かつ、当該物を製造するプラントごと。
【特化則・49条】
許可手続きは、申請書、摘要書を、労基署長を経由して厚労大臣に提出→基準を満たせば厚労大臣は「許可証」を交付

3~6項(概略)
許可を受けた者(製造者)は、その製造や作業方法を基準とおり行うこと。
厚労大臣は、基準に適合していない場合は、適合するようを命ずる、又は許可を取り消すことができる。

【特化則・3条】
その他、製造以外の取り扱い (容器、反応槽への出し入れ等)についても、発散源を密閉するか、囲い式フードの局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けること。

【参考】許可物質による健康障害等

ジクロルベンジジン:主な用途は、有機顔料、染料の原料。
化学的な構造がベンジジン(製造禁止物質)に似ている。
動物実験では、容易にがんが発生した事例ある。
GHS分類(生殖細胞変異原性 区分2、発がん性 区分2)

アルフア-ナフチルアミン:主な用途は、アゾ系染料、媒染剤、ゴム 薬品、有機合成原料。
一般市販品には、ベータ―ナフチルアミン(製造禁止物質)が含まれており、その含有量が1重量%以下のもの。
生殖細胞変異原性は、細菌を用いた復帰突然変異試験で陽性。
発がん性 IARC グループ3

塩素化ビフェニル(PCB)
過去には、絶縁油、熱媒体、染料に用いられていたが、現在は特殊用途にしか使われていない。
GHS分類(発がん性 区分1B、生殖毒性 区分1A)
災害事例 熱媒体として使われていたものが,食用油脂に混入し中毒症。

オルト-トリジン:主な用途は、アゾ染料の原料 化学的な構造がベンジジン(製造禁止物質)に似ている。動物実験で、耳下腺腫瘍の報告がある。
GHS分類(生殖細胞変異原性 区分2、発がん性 区分2)

ジアニシジン:主な用途は、アゾ染料の原料。化学的な構造がベンジジン(製造禁止物質)に似ている。動物実験で腫瘍の報告がある。
GHS分類(生殖細胞変異原性 区分2、 発がん性 区分2)
災害事例 染料工場で、ジアニシジンを取り扱っていた者に尿路系腫瘍が発生。

ベリリウム:主な用途は、原子炉の反射体、減速材 航空機の部品銅合金。
ベリリウム肺、発がん性あり。
GHS分類 (発がん性 区分1A)

ベンゾトリクロリド:主な用途は、医薬品、紫外線吸収剤、農薬、染料。
蒸気を吸入すると、肺がん、鼻腔がんを起こすことがある。
GHS分類(生殖細胞変異原性 区分2、発がん性 区分1B、生殖毒性 区分2)
災害事例 製造業務従事者3名の肺がん死亡者と1名の鼻腔がん患者が発生。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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