産業保健コラム

牧 徳彦 相談員

    • メンタルヘルス
    • 医療法人鶯友会 牧病院 院長
      ■専門内容:精神科・精神保健
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お酒との付き合い方

2013年12月


 お酒の美味しい時期です。わが国では、昔から神事や祭祀をはじめとして様々な場面で人々にたしなまれ、歴史や文化と密接に関係して今日に至ります。皆と楽しくお酒を飲むと、コミュニケーションも取りやすく、忘年会・新年会を心待ちにしている方も多いと思います。ただ残念ながら、お酒の摂取量を自分でコントロールできなくなる方も、一定の割合でおられます。

 アルコール依存症者の有病率は、男性の約1.9%、女性の約0.1%と考えられ、全体ではおよそ0.9%と推定されます。この割合をもとにわが国のアルコール依存症者数を推計すると80万人に上ります。

 近年では、女性飲酒者の増加や若年者(未成年の場合には未成年者飲酒禁止法違反になります)の飲酒量増加が問題視されています。女性では、妊娠中の胎児への影響が懸念されます。若年者の場合には、危険運転や事故傾性につながります。当然、身体的にも飲酒量増加は、食道がんや咽頭がん等の上部消化管がんのリスクを高くします。

 アルコール(Alcohol)は、「職場の3A」と呼ばれ、欠勤(Absenteeism)・事故(Accident)と並び、職場内の規律や生産性を低下させます。精神科関連では、長引くうつ病や不眠症等の背景に、アルコール依存症が隠れている事があります。「イライラするから」「眠れないから」といった理由で、お酒を飲んでいる方は生活習慣を見直して下さい。当初とは異なり、「飲まないとイライラする」「飲まないと眠れない」といった逆転現象が起きているかも知れません。

 アルコールには、精神依存と身体依存があります。精神依存は強い欲求により、自分の意志で摂取行動をコントロールできない状態です。身体依存は身体的異常(離脱症状)を生じる状態で、アルコールが抜けると手が震える、冷や汗が出るなどの症状が出現します。依存が形成された場合、酒に執着し、他の社会的責務を容易に放棄するようになります。そのため、社会生活・就労に大きな影響を及ぼします。

 アルコール依存症は、「否認の病気」です。自分では「いつでも止めることができる」と主張して周囲の助言に耳を貸しません。職場と家族が協働して、本人に内省を促すことが重要です。発症予防のために、職場で飲酒教育を行い、日頃から酒害について意識付けましょう。早期発見も大切です。職場や家庭内で変わったことはないか、無茶な飲み方になっていないか等、部下の様子に普段から目を配りましょう。また、健康診断の結果、肝障害や膵臓障害、糖尿病の急激な悪化などに職場として十分注意して下さい。

 もし、職場内でアルコール依存症者を確認したら、組織として介入メンバーを決め、アルコール問題の把握に努めて下さい。時には厳しい対応も必要です。あいまいな態度や妥協は決して本人のためになりません。早急にご家族と連携して医療機関に御相談ください。

 現在は薬物療法として、嫌酒剤2種類と断酒補助剤1種類が用いられます。ただし、薬物療法を行うにしても、最終的には本人の意思が尊重されます。「たかが、お酒」ではありますが、国会で「アルコール健康障害対策基本法案」が討議されるように、大きな社会的問題であるとの認識が重要です。

産業保健相談員(メンタルヘルス) 牧 徳彦

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