産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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健康長寿の秘訣

2022年02月


昨年12月号で、「きんさん」と「ぎんさん」の長寿双子姉妹は、1990年代の日本で国民的な人気者となり、明治、大正、昭和、平成の4つ時代を生きて、107歳、108歳でそれぞれ天寿を全うされとのお話をしましたが、この後日談があります。

今後の医学の向上のために、「ぎんさん」のご家族の承諾を得て、お体を解剖させていただいたとのことです。
その結果、内臓は実年齢よりも20歳以上も若い状態に保たれていたそうです。
胃、肺、肝臓等に「がん」は見つからず、大動脈は柔らかくきれいで(動脈硬化になっていない)、心筋梗塞や脳梗塞といった病変も見つからなかったとのこと。

何故このような若々しい体を保つことができたのでしょうか。
もちろん、長生き家系(遺伝的要因)であることも関係します。
しかし、遺伝子だけで健康で長生きできるわけではありません。
家に例えれば、親からもらった設計図(遺伝子)に基づいて建てた家は、建築当初は堅固でも、その後の環境やメンテ(生活習慣)次第で、早く朽ちてしまいます。
健康への遺伝的要因の寄与は、3割程度と言われていますので、「環境」や「生活習慣」が重要になってきます。

健康長寿には、バランスのよい食生活と適度な運動が良いとされています。
「ぎんさん」は、食べ物に偏食がなく、バランスのよい食生活ができていました。
魚が大好きで、良質の蛋白質やEPAやDHA(血液サラサラ作用)等の摂取もできていました。
お茶も大好きで、お茶に含まれているカテキン(ポリフェノールの一種で、抗酸化作用、がん・動脈硬化予防、血圧・血糖値抑制作用)も摂取できていました。

100歳になっても、毎日30分から1時間の散歩をしていたそうです。
散歩には、運動によるカロリー消費以外に「寝たきり予防効果」もあります。
歩くことによって、体のバランス感覚と筋肉が維持されて転び難くなり、転倒による寝たきり予防にもつながってます。

更に、健康長寿に必要なものは、「気力」です。
ぎんさんは、常日頃から「長生きには気力がいる」と言っていたそうです。
自分はまだ必要とされているのだと思える何か(例えば、趣味、ボランティア活動、仕事、社会的な貢献、友人等々)を持って、社会に自分の居場所があり、そのことで生涯現役を目指す気力が生まれたことが、健康長寿につながったと思われます。

健康長寿には、若いうちから健康に良い生活習慣を身につけ、継続していくことが重要です。
「継続は力なり」は、生活習慣病予防にピタリと当てはまります。

(一社)日本生活習慣病予防協会では、1月23日を数字が1、2、3と並ぶことから、「1無、2少、3多の日」と定め、さらにこの日を起点とし、毎年2月を「全国生活習慣病予防月間」と定め、「1無、2少、3多」をテーマに、健康な生活習慣の普及・啓発活動
を行っています。
1無(いちむ)とは、無煙・禁煙の勧めです。
2少(にしょう)は、少食・少酒の勧めです。
3多(さんた)は、多動・多休・多接のことで、体を多く動かし(多動)、しっかり休養をとる(多休)、多くの人、事、物に接する生活(多接)の勧めです。

「1無、2少、3多」のもう少し詳しい説明と、高齢者の健康を考えるうえで重要視されている概念である「サルコペニア」、「フレイル」、「ロコモ」等は、来月以降に説明させていただきます。

先月の続き「エイジアクション」(完結編)
今後、職場では高齢者がますます増加し、健康問題を始め、いろいろな課題への対応が必要になってきます。
産業保健スタッフとしては、今後、どのような受け入れ準備・ケアが必要になるのか、以下に記載した「100のエイジアクション」 (高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト)を使ってチェックし、不十分なところは整備していきましょう。

高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト(76~100)

76 健康診断において職務遂行能力に大きな影響を及ぼす視力や聴力等に所見がある場合には、精密検査や医療機関への受診の勧奨を行っている。

77 医療機関への受診終了後においても、休職前の体調にまでには未回復であったり、体力が低下していたりする場合も見られること等を踏まえて、病気休職後の職場復帰が円滑にできるように就業上の配慮を行っている。

78 体調不良等の場合に、職場で休養できる部屋を確保するとともに、すぐに医療機関等を受診できる体制を整備している。

79 高年齢労働者の特性(職場における役割の変化、病気・体調不良、睡眠の質の低下等に伴うストレスの増加やストレス耐性の低下等)を踏まえたメンタルヘルスケアを行っている。

80 高年齢労働者や管理監督者に対して、メンタルヘルスケアについての研修や情報提供を行っている。

81 メンタルヘルスケアについての相談窓口の設置等により相談しやすい環境を整備している。

82 ストレスチェック(ストレスの状況を把握するための検査)を実施して、作業時間の短縮、作業内容の変更等の就業上の措置や職場環境の改善を行っている。

83 メンタルヘルス不調により休職した場合に、円滑に職場復帰できるようにするためのプログラムを定めている。

84 転倒・腰痛等に関連する体力測定やその予防のための筋トレ・ストレッチ体操等の運動指導を行っている。

85 がんについての理解を促す健康教育を行うとともに、がん予防につながる生活習慣の改善(禁煙等)の指導を行っている。

86 がん検診を実施したり、健康保険組合等や市町村が実施するがん検診の受診勧奨を行っている。

87 法令で定められた安全衛生教育を確実に実施している。

88 加齢に伴う身体・精神機能の低下による労働災害発生リスクを低減させるための安全衛生教育を行っている。

89 「ベテランだから大丈夫」という先入観は持たないで、十分な時間をかけて、教育・指導を行っている。

90 定年退職・再雇用後は、希望すれば、働きやすい柔軟な勤務制度・休暇制度を利用できるようにしている。

91 できる限り夜勤を避けるとともに、夜勤をさせる場合には、心身の負担を軽減するように夜勤シフトや休日を調整している。

92 高年齢労働者の健康状態、身体・精神機能の状態等を踏まえて、安全や健康の確保に支障がないように職務配置を行っている。

93 高年齢労働者の職場における役割を明確にするとともに、円滑に職場に適応できるように、きめ細かな目配りを行っている。

94 治療と仕事との両立を図りながら、安心して働けるように必要な支援や環境整備を行っている。

95 高齢期になっても元気に働くことができるように、若年時から、運動指導、生活習慣指導(休養・睡眠、食事、節度ある飲酒、禁煙等)等の健康教育、口腔衛生等の健康づくりの支援を行っている。

96 妊娠・出産に伴う体調不良や更年期障害の症状が強い場合には、就業上の配慮や産婦人科の受診勧奨を行っている。

97 乳がんや子宮がんについて、女性労働者に対する健康教育を行うとともに、がん検診の実施、健康保険組合等や市町村が実施するがん検診の受診勧奨を行っている。

98 若年時から、更年期以降の骨粗しょう症についての健康教育を行うとともに、極端なダイエットの防止等の食事指導や運動習慣づくりの支援を行っている。

99 仕事により心身の健康を害することのないように、若年時から、長時間労働の抑制やワーク・ライフ・バランスの確保を行っている。

100 若年時から、高齢期までを見据えたキャリア形成の支援を行うとともに、高齢期を迎える前に、今後のキャリアについて考える機会を提供している。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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