産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
  • ←記事一覧へ

化学物質の法規制-20 化学物質を取り扱う際の日常の注意(1)

2015年02月


 今までは化学物質の法規制を見てきましたが、ここで一休みし、化学物質を取り扱う時の日常的な注意点について、再確認してみましょう。

 化学物質の健康影響を防止するためには、工学的対策(密閉、局所排気装置、全体換気装置の設置等)で、作業環境を改善することが基本です。
 しかし、これだけでは十分ではなく、これらの設備や化学物質を適切に取り扱う等の作業のやり方(作業管理)が非常に大切です。

 リスクアセスメントでは、作業管理(ソフト対策)は、工学的対策を補完するためのものと位置づけられ、生死にかかわるような大きなリスクに対しては、作業管理対策だけではリスクを下げないようにしています。
 それは、ばく露時間管理、マニュアル整備、教育・訓練、保護具等のソフト対策は、使われたらリスクは低減しますが、使われない可能性があるからです。「面倒だから、邪魔だから、時間がかかるからしない等々」、個人の任意性に委ねるような対策では、信頼が置けないということです。

 しかし、毎日の作業において、上記のような作業管理内容の実施が徹底できれば、非常に大きな効果が期待できます。
 いくら性能のよい作業環境改善設備を設置(ハード対策)しても、それが適切に使用(ソフト対策)されなければ、性能をフルに発揮できません。

 保護具の着用は、個人の任意性に委ねるソフト対策の代表的なものですが、これが徹底できれば、化学物質による災害の半分は防止できるとさえ言われています。
 作業管理については、安衛法第24条では、「事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない」又、第65条の3では、「事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない」と規定しています。

 それでは、化学物質についての作業管理とは、具体的にはどのようなものでしょうか。今一度考えてみましょう。

 化学物質による健康影響を無く(少なく)するために、作業の内容や作業のやり方を管理することであり、

(1)作業環境を汚染させないような作業方法(こぼれたら直に拭取る等)や

(2)労働者の体内に吸収される化学物質の量を少なくするような作業方法

 (風上で作業する等)を定め、作業手順、作業標準等として明文化し、労働者に、これを適切に実施させることです。
 この作業管理には、労働者を守る最後の砦としての保護具も当然含まれています。

 化学物質の作業管理の具体例を説明します。
 体内に吸収される化学物質の量を「ばく露量」といい、健康障害を防止するためには、ばく露量をなくするか、できるだけ少なくすることです。

 化学物質の体内侵入(ばく露)経路別にみると次の通りです。

Ⅰ. 呼吸によるばく露対策
 空気中のガスや粒子状の化学物質が呼吸器(鼻→気道→肺→血液)から体内に取り込まれるもので、有害物の代表的な侵入経路です。
 空気中の化学物質を呼吸によりばく露する場合は、
 ばく露量 = 環境濃度×作業時間 となりますので、

1.作業環境を汚染させないように作業する(環気中の濃度を低く抑える)

(1)化学物質の入った缶や化学物質がしみたウエスの容器には、必ずその都度、蓋を閉める(蒸発による作業環境汚染防止)

(2)空容器は、密閉して所定の集積場所に置く(空容器内には蒸気が存在する)

(3)化学物質をこぼさないように、移注時の作業手順、缶や容器の転倒防止措置を講じる。

(4)粉末状の物質の取り扱いは、可能であれば、与湿・湿潤化等を行い、発じんを抑える。

(5)二次汚染(こぼれたもの等からの再飛散)防止措置をする。
 液体の物質は、こぼさない、こぼれたら直ぐに除去する。(ウエス等で拭き、有蓋の容器に捨てる)
 これらの措置の手順を決めて訓練し、守らせる。
 粉体の物質は、発じんしたものが堆積し、風、人、物の動きで、再び舞い上がり、作業場を汚染するので、堆積粉じんの清掃を水洗や真空掃除機等で定期的に実施する。

(6)作業量、作業速度、温度、圧力を必要以上に上げない(飛散、蒸発の抑制)
 取扱温度を低く、取扱量を少なくすること等で、作業場への蒸発量を少なくすることができます。

(7)有害物の発生源が多くなるのを防止するために、取扱場所を一箇所にまとめて集中対策をとる (集約化)

 次号に続く

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

記事一覧ページへ戻る