産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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化学物質の法規制-21 化学物質を取り扱う際の日常の注意-(2)

2015年04月


先月は、I.呼吸によるばく露対策として、

1.作業環境を汚染させないように作業する(環気中の濃度を低く抑える)
ことを説明しましたが、これ以外に次のような注意が必要です。

2.化学物質にばく露しない作業位置・姿勢とする
作業者の作業位置は、作業場の中で化学物質の濃度が低い(汚染の少ない)
場所を選ぶ。

(1)発散源の風上で作業を行うことが原則です。

(2)発生源と換気装置との間(高濃度の化学物質が流れている)では、作業をしない。

(3)作業姿勢は、発散箇所に顔を近づけないように注意する。
特に発散源近くでの手作業の場合は、仕事に熱中するあまり発散源からの汚染空気の中に顔が入ってしまうことがあるので作業位置や姿勢 を決めて作業を行う。

(4)濃度の濃い所は、立入禁止区域とし、柵等を設置して立入れないようにする。

(5)遠隔操作等で、発生源からの影響のない場所に離れる。

(6)狭い室内や換気不十分な場所での作業は避けて、通風の良い屋外で作業する。

(7)近隣や上下作業に影響を与えないように配慮した作業時間帯や作業場所とする。

3. 化学物質を取り扱う作業時間を短くする

(1)一連続作業時間を短くし、休憩時間を多くし、時間外労働を規制して、有害環境下での実労時間を短くする。

(2)有害作業を交代で実施し、一人当たりのばく露時間を少なくする。

(3)作業頻度を低減するための工夫(集約化等)をする。

II.経皮吸収によるばく露対策
液体や粉体の付着だけでなく、ガスの状態でも皮膚から取り込まれます(皮膚→皮脂腺・汗腺→血液)。
特に有機溶剤とその蒸気は、この性質をもつものがあります。
経皮吸収は、化学物質の濃度、皮膚接触面積、接触時間等が影響します。

対策としては、

1.汚れ落としのために、化学物質(溶剤)で手を洗ったり、拭いたり、また衣類等を洗うことは厳禁。

2.化学物質を手で取扱う作業は、必ず不浸透性の材質の化学防護手袋を使用する。

3.トラブル時等の異常ばく露の防止としては、化学物質が飛散し、被服等に大量に付着した時は、浸透による経皮吸収だけでなく、付着した被服からの蒸発によるばく露もありますので、

(1)早く衣服を脱がせ、着替えさせる。
(このために常に着替えの用意をしておく)

(2)化学物質が付着した患部(皮膚)を洗う。
シャワー等を浴びさせ(場合によっては風呂に浸かって)、石鹸水等で体表面の化学物質を早く除去する。
(このために、洗眼、洗身設備を設置しておく)

(3)トラブル時に、被害を最小限に抑えるために、取扱量は当日の作業に必要な量だけ持込むようにする。

(4)長袖の作業服を着用して、皮膚を露出しないようにする。
有害性の強い化学物質を取り扱う場合は化学防護服を着用することにより皮膚からの侵入を防ぐ。

III. 経口吸収によるばく露防止
化学物質が鼻や口に取り込まれ、唾液や飲食物と同時に飲み込まれた結果消化器官から取り込まれます(口→胃→小腸→大腸→肝臓)。
飲み込まれた化学物質は、

(1)人体の防御反応として、嘔吐したり下痢をしたりして体外に排出しようとします。

(2)排出しきれなかったものは、消化器官で吸収されて肝臓に送られ、ここである程度は分解されて、尿等として体外へ排出されます。(肝臓の解毒作用で、毒性が弱められるのが、経口吸収の特徴)

(3)肝臓で排出できなかった残りは、血液循環によって全身に回り、他の臓器や各器官に蓄積されて健康障害を起します。

飲食に伴う化学物質の摂取は、

(1)手指等を介して化学物質が飲食物を汚染することで起こります。

(2)まれには、清涼飲料水の空瓶(ペットボトル)に移し替えた化学物質を飲料水と思い誤飲し、急性中毒が起こることもあります。

対策としては、

(1)休憩室は、化学物質を取り扱う作業場外に設け、化学物質を取り扱う
作業場内では、飲食や喫煙を禁止し、作業場から飲食場所を分離することが原則です。

(2)食事や休憩の前にうがい、手洗いを励行すること。

(3)飲食物と化学物質の保管場所を分離し、飲食用の空瓶には絶対に化学物質を入れないこと等を徹底し、誤飲を防止する。

次号に続く

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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