産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
  • ←記事一覧へ

化学物質の法規制-22 化学物質を取り扱う際の日常の注意-(3)

2015年05月


化学物質を取り扱う際の日常の注意として次のことも必要です。

IV.換気設備等を正しく使って作業する

安全な作業環境を維持するための局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置等の防護(換気)装置を、
(1)有効に稼動させると共に、
(2)点検を実施し性能を維持し、
(3)正しく使用(作業)すること
が大切です。

具体的には、次のようなことが必要です。

1. 換気装置は、作業開始前に稼動し、作業終了後も、しばらく稼動させておく。

2. 排風量に見合う吸気口を確保する。
(給気が不足して室内が減圧状態になると、排風量が確保できなくなる)

3. 発散源を囲い、内部を吸引し、吸い込み気流で、漏れ出しを防ぐ包囲構造(密閉化の一種)の設備は、必ず内部を負圧に保つ。

4. 局所排気装置の使用に際して、
囲い式フードの場合は、

(1)開口面の外側では作業しない
(フード内の有害物を外へ逃がさないだけの吸い込み風量しかなく、 外の発生源からの有害物を全部吸い込む風量がないため)

(2)囲い式フードの内側には、立入ったり、顔を入れないようする。
(フード内に高濃度の有害物が存在するので)

(3)開口面を広げない。
(開口面で必要な風速がないために、開口面積を小さくすることで必要風速を維持している場合に、作業性が悪いから等で開口面を広げると、必要風速が得られなくなり、フード内の化学物質が外に飛散する)

外付け式フードの場合、

(1)フード開口面の近くで作業する。
(吸込み風速は、発散源までの距離の2乗に反比例して風減少するので)

(2)乱れ気流の原因になるような行為をしない。
(扇風機、エアコン、窓を開ける、人の通行等で生じた風が、フードへ吸い込んでいる有害物を吹き飛ばし、作業環境中に飛散し汚染する)

(3)乱れ気流がある場合は、衝立やカーテン等を設置して風を止めたり、風向を変えることで乱れ気流の影響を小さくする。

(4)発散源とフードの間に立ち入らない。
(フードに吸引される高濃度の有害物を吸入することになる)

(5)フードにフランジを取り付ける(フランジを付けるとフードの後ろから吸い込む余分な空気を止めて、有害物を吸い込む能力がアップする)

5. プッシュプル型換気装置

(1)発散源で風速 0.2m/s以上(平均風速の±50%以内)の一様に流れる気流で包み込む。

(2)作業者は、発散源から吸込み側フードに流れる気流の間には立ち入らないようにする。(作業者の位置は風上になるようにする)

(3)気流が全て吸い込み側に向かって流れるように、風量は、吸込み側を吹出し側より大きくする。

6. 全体換気装置

(1)新鮮な空気を作業場内に導入して汚染濃度を薄める対策であり、作業環境中には有害物が存在するので、必要に応じて呼吸用保護具を着用させる
(作業者は、平均濃度よりも高濃度の空気を吸う場合が多いので)

(2)作業場内が有害な濃度にならない換気量の排風機を設置する。

(3)給気口と換気扇は、作業場全体が換気できる位置に配置する。
(小容量の換気扇を分散設置)

(4)作業位置が風下にならないように配置する。

7. 換気性能が維持できているか点検する

【例】局所排気装置の場合
「吸っているか」、「漏れていないか」、「詰まっていないか」等を中心にチェックする。
「吸っているか」は、簡易には、スモークテスターを使い捕捉点で発煙させた煙が完全にフードに吸込まれているか、正確には、風速計で測定し、制御風速以上の風速があるか等。

V.作業手順の制定、教育・訓練の実施

(1)以上のばく露を少なくするための作業方法を作業手順(マニュアル)として定め、教育・訓練をし、作業者に守らせる。

(2)作業者が有害性を十分に認識していなかったり、作業に慣れすぎて有害性の認識が薄れてしまって、不安全な行動をして、ばく露してしまうことを防止するために、安全データシート(SDS)等を参考にして、取扱物質の有害性や取り扱い方法、応急処置、等の教育をする。

(3)好ましくない不適切行動は黙認せずに、その場で指導する。

VI.上記の措置を講じても残ったリスクには、有害物を体に取り込まないための最後の手段として保護具を使用する。
保護具の使用は、ばく露防止の最後の手段(砦)ではあるが、今までの化学物質による災害の約半分は、保護具を完全に着用しておれば防げたというデータもあり、非常に重要です。

【例】

(1)リスクに応じた(適した)保護具の使用を義務づける。

(2)呼吸用保護具を使用する際は、密着性のよい面体を選び、作業を始める前にフィットテストして(陰圧法等で)密着性を確認させる。

(3)保護具を正しく使用しているか監視する。

以上で、化学物質を取り扱う際の日常の注意点を紹介しましたが、皆さんの職場では、これらのことが守られていますか。今一度見直してみましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

記事一覧ページへ戻る