産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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化学物質の法規制-23 リスクアセスメントの義務化への準備をしましょう

2015年05月


昨年6月に「安衛法の一部を改正する法律」が公布され、この中で一定の化学物質については、リスクアセスメントを実施することが義務となり、来年の6月までに施行される予定(今後政令で規定)となっています。
残された期間は1年余りとなりました。
施行に向けての化学物質管理体制等の見直しが行われていますか。
自職場で義務化の対象になる化学物質はリストアップされていますか。
そこで今月は、法改正内容を再確認します。

化学物質のリスクアセスメントの実施は、安衛法第28 条の2 で「努力義務」でしたが、平成24年に印刷事業場で胆管がんが発生しました。
この一因として、インクを拭く溶剤(化学物質)のリスクアセスメントが適切に実施されず(努力義務のため)、事業者がリスクを認識していなかったことが挙げられ、「義務化」されることになりました。
改正法令の内容は、次の通りです。

【安衛法・第57条の3第1項】
事業者は、厚労省令で定めるところ(※1)により、第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物(※2)による危険性又は有害性等を調査しなければならない(※3)。

※1 厚労省令で定めるところによりとは、リスクアセスメントを実施するタイミング等について定める。
具体的には、新規に化学物質を採用する際や作業手順を変更する時など、従来の実施時期を基本に定める。

※2 リスクアセスメントが義務化される対象物質→危険性・有害性が確認されている化学物質
第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物とは、ラベル表示義務対象物質とSDS交付義務対象物質です。
しかし、ラベル表示義務対象物質は、SDS交付義務対象物質の中に全て含まれていますので、実質的には、義務化されるのはSDS交付義務対象物質(現在のところ640物質)となります。

※3 化学物質のリスクアセスメントとは、化学物質を取り扱う際に生ずるおそれのある負傷・疾病の重篤度と発生の可能性を調査し、労働災害が発生するリスクの大きさを評価するものです。
危険性又は有害性等を調査する方法は、これまで、安衛法第28条の2の規定で実施してしてきたものと同じで、「努力義務」が「義務」(調査しなければならない)になりました。
具体的な実施手順等については、これまでと大きく変わるものではなく、追って、指針等で示される予定です。

【安衛法・第57条の3第2項】
事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずる(※4)ほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずる(※5)ように努めなければならない。

※4 リスクアセスメントの結果に基づく措置は、安衛法に基づく安衛則や特化則、有機則等の特別規則に規定がある場合は、当該規定に基づく措置を講じることが必要(義務)です。

※5 法令に規定がない場合は、リスクアセスメントの結果を踏まえリスクが高いと判定したものから優先的に、事業者の判断により、必要な措置を講じることが努力義務です。

【安衛法・第57条の3第3項】
厚労大臣は、第28条第1項及び第3項に定めるもののほか、前2項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針(※6)を公表するものとする。

※6 現行の指針を基本に、具体的な実施方法等について定める予定となっています。

【安衛法・第57条の3第4項】
厚労大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等(※7)を行うことができる。

※7 リスクアセスメントの実施が初めてであっても、SDSの危険有害性情報や化学物質の使用量、作業内容等を入力することで簡易的なリスクアセスメントを実施することが可能な、「コントロール・バンディング」と呼ばれる支援ツールが既に公開(厚労省ホームページに掲載)されていますが、今後より使いやすいように改良される予定です。

その他、リスクアセスメントの結果については、リスクを労働者にも周知させる必要があり、結果を事業場に備え付ける等、労働者に周知することについて、省令等で規定する予定となっています。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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