産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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化学物質の法規制-24 母性保護のため女性の就労禁止

2015年06月


男女雇用機会均等法の1回目の改正が平成9年に行われ平成11年から施行されました(改正均等法)。
この際、女性の就業制限が大幅に緩和(深夜労働・残業や休日労働の制限の撤廃等々)されて、女性が多くの業務に就くことができるようになり、法律としての実効性が大きく前進しました。

その後も改正が行われましたが、母性保護の観点から制限が残ったものがあります。その1つが、女性則第2条第18号の「有害物の発散する場所における業務」です。

当初は、「鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、シアン化水素、アニリン、その他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務」への就業を禁止するものでした。
これ以外の化学物質については、科学的根拠が十分でなかったため、改正が見送られてきました。

その後、「母性保護に係る専門家会合」において検討がなされ、平成23年12月「報告書」が提出され、これに基づき平成24年に法令改正(改正女性則)がなされ、規制の対象物質や対象作業が以下の通りになりました。

【概要】

妊娠や出産・授乳機能に影響のある26の化学物質を取り扱う作業場では、全女性(妊娠の有無や年齢等にかかわらず)、以下の業務に就かせることは禁止となりました。

【女性則の対象物質】

GHSに基づく有害性分類のうち、生殖毒性(性機能及び生殖能又は発生に対する悪影響)若しくは生殖細胞変異原性(生殖細胞に経世代突然変異を誘発)が存在すると知られている又はみなされる化学物質(1A又は1Bに相当)、又は授乳影響ありとされた以下の26物質

(参考)

・GHS→化学品の分類および表示に関する世界調和システムのことで、国連勧告による統一基準

・1A→毒性(悪影響)があることが知られている
1B→毒性(悪影響)があるとみなされる化学物質

1 塩素化ビフェニル(PCB)
2 アクリルアミド
3 エチルベンゼン
4 エチレンイミン
5 エチレンオキシド
6 カドミウム化合物
7 クロム酸塩
8 五酸化バナジウム
9 水銀及びその無機化合物(硫化水銀を除く)
10 塩化ニッケル(II)(粉状のものに限る)
11 砒素化合物(アルシンと砒化ガリウムを除く)
12 ベータ-プロピオラクトン
13 ペンタクロルフェノール(PCP)及びそのナトリウム塩
14 マンガン
15 鉛及びその化合物
16 エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)
17 エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)
18 エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)
19 キシレン
20 N, N-ジメチルホルムアミド
21 スチレン
22 テトラクロルエチレン(パークロルエチレン)
23 トリクロルエチレン
24 トルエン
25 二硫化炭素
26 メタノール

【女性労働者の就業を禁止する業務】

1.安衛法令に基づく作業環境測定を行い、「第3管理区分」(規制対象となる化学物質の空気中の平均濃度が規制値を超える状態)となった屋内作業場での業務

2.タンク内、船倉内での業務等、規制対象となる化学物質の蒸気や粉じんの発散が著しく、呼吸用保護具の着用が義務づけられている業務

特化則→第22条第1項、第22条の2第1項、第38条の14第1項第11号ハ、第12号但書

鉛則→第39条但書、第58条第1項、2項、3項

有機則→第32条第1項第1号、2号、第33条第1項第2号から第7号

職場での化学物質の取扱について、女性の就業制限に抵触していないか見直してみましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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