産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-1

2015年11月


安衛法の改正(H26年6月25日公布、H28年6月1日施行)で、第57条の3において、事業者は、一定のリスクのある化学物質(第57条第1項に規定する表示義務の対象物及び通知対象物、現在640物質)による危険性又は有害性等を調査(リスクアセスメント)することが義務となりました。
そして、厚労大臣は、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表することになっていました。
この指針が、H27年9月18日に公示されました(適用はH28年6月1日から)。指針の名称は、「化学物質による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」で、旧指針と同じです(旧指針を廃止し、新たに同名の新指針を策定)。
内容も、旧指針を基本に、改正法の内容等に合わせて一部を見直し、具体的な実施方法等について定めています。
構成も、基本的には旧指針の構成を維持し、趣旨、適用、実施内容、実施体制、実施時期、対象の選定、情報の入手等、危険性・有害性の特定、リスクの見積り、リスク低減措置の検討・実施、結果の労働者への周知等、となっています。
以上のように新指針は、旧指針と大筋は変わっていませんが、細部では新たに補充された事項がいくつもあります。
そこで、復習も兼ねて新指針の内容を紹介していきます。

1 趣旨等
本指針は、安衛法第57 条の3に基づき、事業者が、化学物質等による危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)を実施し、その結果に基づいてリスク低減措置が各事業場において適切かつ有効に実施されるよう、一連の措置の基本的な考え方及び具体的な手順の例を示すとともに、これらの措置の実施上の留意事項を定めたものです。
以後、リスクアセスメント及びリスク低減措置を「リスクアセスメント等」と表現します。
また、危険性又は有害性とは、危険有害要因、ハザード等とも表現されるものです。

2 適用
対象となる事業場は、製造業、建設業だけでなく、清掃業、卸売・小売業、飲食店、医療・福祉業等、さまざまな業種で化学物質を含む製品が使われており、労働災害のリスクがありますので、業種、事業場規模にかかわらず、化学物質の製造・取扱いを行うすべての事業場が対象となります。
化学物質等には、製造中間体(製品の製造工程中において生成し、同一事業場内で他の化学物質に変化する化学物質) が含まれます。

3 実施内容
実施事項の骨子は、以下の(1)~(5)です。
このうち、法や関係規則で事業者に義務付けられている事項と努力義務となっている事項とがあり、その区分も以下に示しました。

(1) 化学物質等による危険性又は有害性の特定(義務 法57 条の3第1項)
危険有害要因の特定等とも表現されます。

(2) 上記で特定された化学物質等による危険性又は有害性並びに当該化学物質等を取り扱う作業方法、設備等により業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又は当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度及び当該危険又は健康障害の程度(リスク)の見積り (義務 法57 条の3第1項)

(3) 上記の見積りに基づくリスク低減措置の内容の検討
(義務 法57 条の3第1項)

(4) 上記のリスク低減措置の実施
1.法令の規定による措置を講ずる (義務)
2.労働者の危険又は健康障害を防止するための必要な措置を講ずる
(努力義務 法57 条の3第2項)

(5) リスクアセスメント結果の労働者への周知 (義務 安衛則34 条の2の8)

4 実施体制等
(1) 事業者は、次の体制でリスクアセスメント等を実施するものとする。

ア. リスクアセスメント等の実施を統括管理する者
→総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者

イ. リスクアセスメント等の実施を管理させる者
→安全管理者、衛生管理者、職長、労働者を直接指導・監督する者

ウ. 化学物質管理者(化学物質等の管理について必要な能力を有する者)
→上記イに掲げる者の下でリスクアセスメント等に関する技術的業務を行わせる

エ. 安全・衛生委員会等でリスクアセスメント等に関することを調査審議させ、リスクアセスメント等の実施を決定する段階において労働者を 参画させる。

オ. リスクアセスメント等の実施に当たっては、化学物質管理者の他、必要に応じ、専門的知識を有する者を参画させる。

カ. 上記のほか、技術的な助言を得るため、労働衛生コンサルタント等の外部の専門家の活用を図ることが望ましい。

(2) 事業者は、上記の者に対し、リスクアセスメント等を実施するために必要な教育を実施する。

次回は、実施時期、対象の選定、情報の入手等を紹介します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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