産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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改正・リスクアセスメント指針-4

2016年03月


9.リスクの見積り
代表的なリスクの見積り方法(手法)が示されています。
見積りに当っての留意点としては、

1.リスクの見積りは、対象となる化学物質等に応じて特定された危険性と有害性のそれぞれについて行うことが必要です。従って、化学物質によっては、危険性と有害性の両方について見積もることが必要です。

2.見積りは、安衛則第34 条の2の7第2項に基づき、次のいずれかの方法により、又はこれらの方法の併用により行います。
ただし、危険性は、(1)又は(3)の方法に限られます。
(1)危険・健康障害を生ずるおそれの程度(発生の可能性)と、危険・健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法
(2)対象物にさらされる程度(ばく露量)と、対象物の有害性の程度を考慮する方法
(3)前2号に掲げる方法に準ずる方法
(法令に定める具体的な措置の状況を確認する方法等)

3.見積り方法の基本的な考え方(上記事項)を満たしておれば、指針で示された具体例の手法にこだわることなく、他の手法によっても差し支えありません。

来月以降に、各手法についての詳細な説明をすることにし、今月は、指針に示された見積り手法の概要を紹介します。

(1).危険・健康障害を生ずるおそれの程度(発生の可能性)と、危険・健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法
【具体例】

・マトリクス法
→ 発生の可能性と重篤度を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、予め発生の可能性と重篤度に応じてリスクが割り付けられた表を使用して見積もる

・数値化法
→ 発生の可能性と重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを加算又は乗算等して見積もる

・枝分かれ図を用いた方法 (リスクグラフ)
→ 発生の可能性と重篤度を段階的に分岐していくことで見積もる

・コントロール・バンディング
→ 化学物質リスク簡易評価法等を用いて見積もる

・災害シナリオの想定
→ 化学プラント等の化学反応のプロセス等による災害のシナリオを仮定して、事象の発生の可能性と重篤度を考慮する

(2).対象物にさらされる程度(ばく露量)と、有害性の程度を考慮する方法
【具体例】

・実測値による方法
→ 対象業務の作業環境測定等によって測定した作業場所での化学物質等の気中濃度等を、その化学物質等のばく露限界と比較する方法(この方法が望ましい)
ばく露限界 日本産業衛生学会の許容濃度、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)のTLV-TWA等)

・使用量等から推定する方法
→ 数理モデルを用いて対象の業務の作業を行う労働者の周辺の化学物質等の気中濃度を推定し、化学物質のばく露限界と比較する方法

・予め尺度化した表を使用する方法
→ 対象の化学物質等への労働者のばく露の程度とこの化学物質等による有害性を相対的に尺度化し、これらを縦軸と横軸とし、予めばく露の程度と有害性の程度に応じてリスクが割り付けられた表を使用して見積る方法(化学物質等による有害性に係るリスクの定性評価法)

(3)前2号に掲げる方法に準ずる方法
危険・健康障害を防止するための具体的な措置が安衛法関係法令の各条項に規定されている場合に、これらの規定を確認する方法等
【具体例】

・健康障害については、特別則(安衛法に基づく化学物質等に関する個別の規則)の対象物質(特定化学物質、有機溶剤等)は、特別則に定める具体的な措置の状況を確認する。

・危険については、安衛令別表1に定める危険物及び同等のGHS分類による危険性のある物質について、安衛則第4章等の規定を確認する。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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