産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもや話-5 有機(樹脂)粉じんによる呼吸器疾患の労災認定-(4)

2019年06月


経緯等 (厚労省発表資料を参照)

1. 平成28年5月、架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物 (以後、樹脂と略す)等を製造している化学工場の同一職場の複数の労働者に肺組織の繊維化、間質性肺炎、肺気腫、気胸等の様々な肺障害が生じていると所轄の労働基準監督署に報告があった。

肺障害を発症したのは、A社のB工場の構内請負業者C社の労働者。
発症者はB工場の作業場で製品(樹脂)の粉末の包装業務で、投入、計量、袋詰め、梱包、運搬などの作業を行っていた20代~40代の労働者。
発症した肺障害は、肺組織の繊維化、間質性肺炎、肺気腫、気胸等。
発症者は、いずれもC社に雇用されてから肺障害を発症するまでに他の作業場勤務はなく、当該作業場で継続的に就業していた。

樹脂(架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物)は、医薬品や化粧品を製造する際の中間体として使用されているが、最終製品である医薬品や化粧品が、吸入性粉じんに戻ることはない。
肺に対する有害性の文献情報は、これまで確認されていない。
肺組織の繊維化は無機粉じんの吸入により引き起こされることは良く知られているが、本物質を含め、有機粉じんにより発症するとの確立した知見はなく、安衛法令による措置義務の対象になっていない。

2. 所轄の労働基準監督署では直ちに立入調査を実施し、局所排気装置の改善などの発散抑制措置や防護性能の高いマスク(電動ファン付呼吸用保護具)の着用などを指導。
しかし、この肺障害については、所轄の労働基準監督署の調査では原因を特定できなかったため、厚労省では、独立行政法人労働者健康安全機構の労働安全衛生総合研究所(安衛研)に災害調査を依頼した。

3. 安衛研の協力を得て作業実態等の調査を行ったところ、肺障害を発症した労働者に共通する状況として、同工場内で製造している樹脂を主成分とする吸入性粉じんに日常的に高濃度でばく露し、多くがばく露開始から2年前後の短期間の間に肺疾患を発症していたことが判明した。

安衛研の調査結果の概要 (2019年5月20日公開)

調査の結果、当該工場の樹脂粉体の取り扱い作業場では、作業者が高濃度の樹脂粉体にばく露した可能性が明らかになった。
特に、ホッパーへの投入作業における個人ばく露濃度は極めて高く、1時間以下の投入作業での平均濃度で、20mg/m3を超える事例があった。
また、包装作業だけであっても1mg/m3 より高かった。
以上のことから、本件災害事例は、有害性を予知できなかった樹脂粉体への高濃度ばく露により発生したと推測される。

4. 上記の肺障害を発症した労働者から、業務によって呼吸器疾患を発症したとして労災請求がなされた。
これを受け、業務が原因かどうかを判断するために、本件の「肺障害の業務上外に関する検討会」が持たれた。
5回にわたって検討会が行われ、疫学調査結果等を分析・検討し、現時点での医学的知見を報告書として取りまとめ公表。

(2019年4月15日)

業務上外に関する検討結果報告書の概要

1) 本件の樹脂の吸入性粉じんを取り扱う業務に2年以上従事し、相当量の吸入性粉じんに吸入ばく露した労働者に発症した呼吸器疾患であって、胸部画像所見で「両側上葉優位の分布」、「気道周囲の間質性陰影」といった特徴的な所見が認められる呼吸器疾患については、業務が相対的に有力な原因となって発症した蓋然性が高いものと考える。

当該所見は、これまで報告されている粉じんばく露に起因する肺疾患(様々なじん肺症)とは異なる画像分布を示しており、多彩な病態を呈するものであるが、各症例とも亜急性の経過を辿っており、かつ、気道周囲の病変が主体である。

2) 業務への従事期間が2年に満たない場合は、上記の特徴的な医学的所見の有無、作業内容、ばく露状況、発症時の年齢、喫煙歴、既往歴などを総合的に勘案して、業務と呼吸器疾患との関連性を検討する。

3) 当検討会にて、労災請求があった事案を個別に検討し、業務上とすることが妥当との結論になった。

この検討会の意見を踏まえて、本事案は「労災認定」となった。

来月は、本件を受けての対応に関する通達を紹介します。

有機(樹脂)粉じんを取り扱う職場では、粉じん則に準じた措置ができているか今一度、見直してください。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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