産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもや話-7 どこででも起こる有機溶剤中毒を防ぐには

2019年08月


 平成25年から29年までの過去5年間の有機溶剤による健康障害(労災・厚労省公表分、23件)を基に、最近の災害原因や対策を見てみましょう。

 【年度別】では、25年(6件)、26年(8件)、27年(1件)、28年(4件)、29年(4件)と、5年間で23件、年平均で4.6件の災害が起こっています。

 【被災状況】は、死亡5件、中毒18件、その他として化学薬傷・熱傷・火傷等が起こっています。

 【業種別】では、化学会社が多いと思いがちですが、この5年間では1件のみです。
 1番多かったのは建築工事関係で3件、次いで2件起こっている業種は、電気工事、自動車製造、金属製品製造の3業種です。
 その他いろいろな業種で1件発生しています。
 このことは、業種によらず、有機溶剤を扱っているところでは、どこででも起こり得るということです。

 【原因物質】としては(現在は特化物質になっているものも含めて)、1番多かったのは、トルエン 7件、次いで、有機溶剤(詳細不明) 4件、シンナー、トリクロロエチレン、イソプロピルアルコール、が各2件、1件しか起こっていないのは、酢酸エチル、ジクロロメタン、キシレン、ノルマルヘキサン、ミネラルスビリット、スチレン、となっています。

 【被災時の作業】

1. 品質管理のサンプリングのため酢酸エチルが300リットル入った金属コンテナの上部に上がった被災者が、コンテナ内に落とした携帯電話を拾おうとして転落し中毒死。

2. 剥離剤(ジクロロメタン)を使用して刷毛で看板の文字消し中、ジクロロメタン中毒(呼吸用保護具未着用)。

3. バキューム車タンク内(底部にキシレンが残っていた)を清掃作業中に、キシレン中毒。

4. インクジェットの洗浄作業に使用していたイソプロピルアルコール(5ガロ缶)を倒してしまい、ぼれた液をふき取る作業中に中毒。
(防毒マスク、保護手袋未着用)

5. 排水貯留槽ピット内を一人で防水塗装塗布作業を行う予定であった作業者(防水工)が、ピット内で倒れ死亡しているのが発見された。
死因は急性トルエン中毒。

6. 有機溶剤(ペイント薄め液)の入っているペットボトルを、清涼飲料水と誤認して飲んで、シンナー中毒。

7. ろ過装置内のろ布の穴を塞ぐため、点検口内に上半身を入れて作業を行っていたところ、高濃度のノルマルヘキサンを吸入し死亡。

8. ポリウレタンにシンナーを混入した溶剤を、ろ布に刷毛塗り作業中、めまい頭痛等の急性有機溶剤中毒。

9. トリクロロエチレンを入れたことのある洗浄装置の内部で、底に溜まっているヘドロ等をスコップで除去していたところ、意識を失い後日死亡。

10. 浴室の防水工事で、手持ちのローラーを使用して、壁面に塗料を塗る作業をしていたところ、トルエン中毒による一過性意識障害で倒れた。

11. ミネラルスピリットを含有する防錆塗料剤が塗布された新車を取り扱う作業をしていたところ、めまい、嘔吐、息苦しさを感じ受診したところ有機溶剤中毒と診断され入院。

12. 塗装に使用するスチレンモノマーを保管場所から塗装箇所まで運ぶ際につまずき、バケツ内のスチレンモノマーが飛散し、配管工事中の作業者に付着し、接触性皮膚炎を起こした。

13. ガラス壁面に残るテープ跡を除去するため、払拭用液体を雑巾に染み込ませ、払拭作業をしていたところ、吐気、頭痛、立位が困難等の急性シンナー中毒となった。

14. 消毒用アルコール(イソプロピルアルコール50%含有20Lポリタンク)から、小分用容器に移し替え作業終了後、めまい、吐き気等の体調不良が生じ、薬物中毒症と診断された。

15. 塗装した架台の部品を乾燥している際に、塗料に含有していた有機溶剤の蒸気が拡散し、近くで作業していた作業者が有機溶剤中毒。
防毒マスクを着用していたが、吸収缶は取り替えていなかった。

16. タンク内側に有機溶剤を含有する錆止め塗料を刷毛塗りしていたところ、トルエン中毒。

 【発生原因】→ これらをなくすることが【対策】

1. 安全衛生教育不十分(有害性の認識不足)

2. 作業標準(作業マニュアル)の未作成、不徹底

3. 風通しの悪い場所での作業で換気なし、換気不十分
換気設備未設置(局所排気、全体換気装置等)、設備の管理不足

4. 適切な呼吸用保護具(防毒マスク等)の未着用、
保護具管理が不十分(吸収缶の破過、早めに交換)

5. リスクアセスメント未実施

6. 有機溶剤作業主任者の未選任、不在、職務不履行

7. 容器の表示なし、業場所と飲食場所の不分離、小分け作業の不適正

8. 有機溶剤の安全な運搬方法、運搬ルートの確立と周知が不十分

 皆さんの職場では、このようなことをしていませんか。
 これを機会に、上記の発災時の作業と原因を参考に、今一度、見直してみましょう。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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