産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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職場の化学物質 よもや話-11 未知との遭遇 見えない危険

2019年12月


 加熱式タバコのアイコスやグローは、紙巻タバコのようにタバコの葉に直接火をつけるのではなく、たばこの葉を専用のデバイスを用いて電気的に加熱(240~350℃)し、エアロゾル(気体の中に微小な液体や固体粒子を多数含む物→ニコチンや香料を含む微粒子)を発生させ、これを吸入するものです。
 加熱式タバコのプルーム・テックは、粉末状のタバコの葉に、溶液(グリセロールやプロピレングリコール等)を加熱して発生させたエアロゾルを通して、発生したニコチン等をエアロゾル経由で吸入するものです。
 いずれにしろ、紙巻きタバコと加熱式タバコの主な違いは、たばこの葉を燃やすのか、それとも加熱するのかということで、「タバコの葉」を使用することでは同じです。
 日本では、世界に先駆けて2014年に発売され、現在は多くの方が使用しています。
 加熱式タバコの有害性については、使用され始めてからまだ日が浅いため詳しいことはわかっていませんが、「わかってきたこと」、「まだわかっていないこと」をお話します。

1. わかってきたこと

(1) 加熱式タバコのエアロゾルには、紙巻タバコと同様に、ニコチンをはじめさまざまな有害物質が含まれており、人体に有害です。 
既に、加熱式タバコが原因と疑われる重篤な健康障害(急性好酸球性肺炎)等も出始めています。

加熱式タバコから発生するエアロゾル中に含まれる有害物質は、紙巻タバコと比較して、減った物質もあれば、減っていない物質もあり、更には加熱式タバコの方が多くなっている物質もあるとのことです。(複数の研究機関による分析結果)
一律に低減されているわけではありません。
加熱式タバコは、タバコの葉を燃やさないため一酸化炭素とタール成分の発生が抑えられますが、「発がん性」のあるホルムアルデヒド、アクロレイン等は、少ししか減りません。
ニコチンもほとんど減りませんので、ニコチン依存は維持されます。

(2) 加熱式タバコによる「受動喫煙」の害もあります(詳細は後述)。

(3) このため、世界保健機関(WHO)をはじめ、国内の多くの学会等からも
「健康に悪影響を与える」との警告がなされています。

2. わかっていないこと →「未知との遭遇」

(1) 加熱式タバコを長期間使用した場合の未知のリスク
加熱式タバコの毒性の程度や人体への影響は、研究データも少なく、使用し始めてからの日が浅いこともあり、詳しいことはまだわかっていません。
今後、喫煙者や受動喫煙を受けた人の健康被害の調査が必要です。
世界に先駆けて使用し始め、多数の利用者がいる日本が、その実験場となっているという学者もいます。
健康への影響は、長い時間を必要とするので,その結果がわかるのは数十年後です。
仮に有害物質が極少量だったとしても、断続的かつ長期の喫煙により体内に摂取されれば、有害物質が蓄積し、喫煙者の健康に悪影響を与えます。

(2) 有害性が未知の物質も多くあります
タバコ製品から出る物質は7000種類以上あると言われています。
その全てについて健康影響が明らかにされているわけではありません。
有害性が未知の物質も多くあります。
PMI社がアイコスの販売申請のために、米国FDAに提出した資料は、FDAが定める有害物質の内の半数程度と言われています。
潜在する多数の未知の有害物質、発生する化学物質の相互作用や複合影響等も未知です。 

(3) 加熱式タバコは、加熱温度で化学物質の発生(量、種類)が変わります。
従って、使用者が故意に加熱温度を変えたり、デバイスのメンテが悪くて加熱温度が変わったりすると、未知の物質が発生する可能性もあります。

(4) エアロゾルを肺の奥深くまで吸い込んだ場合の人体への影響は、今までに経験がなく未知です。
加熱式タバコでは、紙巻タバコではあまり発生しない化学物質(プロピレングリコールやグリセロール)が高濃度に発生します。
このような化学物質を、大量に継続的に呼吸器から肺の奥深くまで吸い込んだ場合の毒性については、詳しいことはわかっていません。

加熱式タバコの使用は、情報も経験も少ないままで、これらの未知との遭遇ということになります。
このような場合は、人の命にもかかわることですので、以前にも説明しました「安全性が確認されるまでは販売を認めない」、「安全が確認できるまでは紙巻タバコと同様な規制をする→疑わしきは規制」と言う安全確認型の対応が必要と考えます。

世界保健機関(WHO)は7月26日に「タバコの世界的流行に関する報告2019」 を発表しました。
この報告の中で、「加熱式タバコ」と「電子タバコ」について、解説を加えて注意を喚起しています。
具体的には、「これらのたばこ製品には、有害物質が含まれているために健康上のリスクがあるので、紙巻きタバコと同様の規制が必要だ」との見解を示し、「受動喫煙の有害性」も否定できないと指摘しています。

3. 受動喫煙について →「見えない危険」を頭で見る

煙が出ないから害はないと誤解されがちですが、使用者が呼出するエアロゾルに有害物が含まれています。
加熱式タバコからは副流煙が出ませんが、受動喫煙は、副流煙だけで生じるものではありません。
呼出煙(呼気中にそのまま吐き出されるエアロゾル)によっても、受動喫煙は起こります。
呼出煙は、臭いも少なく、見えづらく、分かりにくいのですが、特殊なレーザー光を照射することで、肉眼でも見えるようになります。
そうすると、人の目には見えにくいエアロゾルが大量に呼出していることが分かります。
この呼出されたエアロゾルは、2~3m先まで飛散するため、受動喫煙が起こります。
紙巻タバコのように、煙が見えて臭いもあれば、気づいて受動喫煙を避けることもできますが、エアロゾルは、肉眼では見えにくく、臭いも少ないので、避けることが難しく、気づかないうちにばく露している可能性があり危険です。 →見えない危険(目に見えにくいリスク)
このエアロゾルには、紙巻きタバコと同レベルのニコチンや有害物質(発がん物質等)が含まれていると報告されています。
加熱式タバコは、煙も匂いも少ないので、周囲の環境を汚していないように思い込み、これまでは受動喫煙のことを考えて、家庭内や車の中でタバコを吸わなかったお父さんが「加熱式タバコなら大丈夫」と吸い始めたとの事例もあります。
加熱式タバコは、煙も臭いも少なく、人の感覚では察知できませんが、「受動喫煙の害」はあります。
このことをしっかりと認識しておくことが大切です。
特に子どもや妊婦さんへの配慮、化学物質にアレルギー反応を示す方等は、極微量でも反応して体調不良を引き起こすことがありますので配慮が必要です。
加熱式タバコなら大丈夫というわけにはいかないのです。

 来月は、加熱式タバコについて、世界保健機関(WHO)をはじめ、国内の多くの学会等からも「健康に悪影響を与える」との警告がなされていることを説明します。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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