産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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(加熱式タバコ) 新型コロナウイルスより桁違いに恐ろしい喫煙

2020年02月


 新型コロナウイルスによる肺炎が拡大しています。
 世界保健機関(WHO)は、1月30日、中国を中心に感染が拡大している新型コロナウイルスによる肺炎ついて、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言しましたが、その後も感染が拡大し続けて、2月9日時点で中国での死者が811人に達し、2003年に流行した新型肺炎「SARS」の世界全体の死者の774人を上回りました。
 このためWHOは、近日中に、治療法やワクチンについての会合を持つとのニュースがありました。

 一方、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、米国ではインフルエンザが猛威を振るっており、米疾病対策センター(CDC)によるとインフルエンザによる死者数は、1万人を超えたとのことです。

 このような感染症ではありませんが、世界中で年間800万人以上が死亡している健康障害要因があります。これは「喫煙」によるものです。
 死亡者のうち、700万人が「喫煙者本人」で、約120万人が「受動喫煙による非喫煙者」です。
 WHOでは「タバコは最大の公衆衛生上の脅威」と捉えるとともに、喫煙を「病気の原因の中で、予防することができる最大にして単一の原因」として禁煙活動を強カに推進しています。
 禁煙の徹底は、健康維持に最も直結している課題です。

 WHOは、喫煙に関して、「禁煙を世界規模で奨励するための報告書」「世界のタバコ流行2019 禁煙を支援するために」を2019/8に発表しました。
 この報告書では、「電子タバコ」と「加熱式タバコ」をまとめて「新型タバコ」と呼んでいますが、「あらゆる形態のタバコ製品は有害であるので、規制の対象とするべき」として、次のように述べています。

1.タバコは本質的に毒性の高い嗜好品です。

2.新型タバコの使用が、健康に悪影響をもたらす可能性があります。
あらゆる形態のタバコ製品は有害と考えられ、規制の対象とすべきです。

3.使用者の多くが従来の燃焼式タバコと並行して使い続けています。
健康上のリスクを減らす効果はほとんどありません。

4.新型タバコについて、従来の燃焼式タバコと同様に、公共の場所での使用を禁止すべきです。

 この理由として、次のことが挙げられています。

1.新型タバコが従来のタバコ製品よりも有害性が低いことを示すエビデンス(証拠、根拠)がありません。

2.新型タバコは、従来の燃焼式タバコに比べてタールが削減されているが、主流煙中に燃焼式タバコとほぼ同レベルのニコチンや化合物(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)が含まれています。
特に、呼吸器疾患や冠動脈疾患をもつ患者にとっては有害な影響がでることが懸念されます。

3.新型タバコの使用者が出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動吸引(受動喫煙)による健康被害が生じる可能性があります。

 日本の医学会等も、以下のように「警鐘」等を鳴らしています。

2017年10月 日本禁煙推進医師歯科医師連盟からの注意喚起

「加熱式タバコ」に、ご注意を !   
「加熱式タバコ」には、医学的に見て以下のような特徴や害があります。

1.タバコの葉を使用したタバコ製品です。

2.様々な毒物が検出されています。紙巻きタバコよりも本人や周囲への害が少ないかのように宣伝されていますが、この宣伝には医学的な根拠がありません。

3.通常の紙巻きタバコと同程度のニコチンが含まれています。
ニコチンは、喜びや意欲を感じる脳の中枢の働きを弱めてしまい、日常生活で喜びや意欲を感じにくくなります。
また、タバコを連想させる条件刺激で不快な身体症状が出現するため、そこから逃れるために手放せない状態、すなわち「ニコチン依存症」が続きます。

4.害がないとする宣伝を信じて使用していると、何かのきっかけで禁煙できていたはずの人が、ニコチン依存症から脱却する機会を逃してしまう可能性があります。

5.毒物を含んだ煙や蒸気が目に見えなくても、また臭いが少なくても、受動喫煙が起こります。

 以上の事実を踏まえて、私たちは医学的な立場から、以下のようにお勧めします。

【紙巻きタバコを吸っている方へ】

「加熱式タバコを試してみようかな」と思っておられませんか?
紙巻きタバコも加熱式タバコも、タバコに変わりはありません。
ご自身や周囲の方の健康と幸福のため、是非禁煙に挑戦されることをお勧めします。
「挑戦してみたが辛くて難しい」という方は、禁煙外来にご相談下さい。

【加熱式タバコを使っている方へ】

「加熱式タバコ に切り替えたから安心 」 と思っておられませんか?
ご自身や周囲の方々の健康を気遣われるお気持ちは、素晴らしいと思います。そのお気持ちを大切に、是非禁煙に挑戦されることをお勧めします。
もしお一人だけで禁煙することが難しければ、 禁煙を補助する効果が医学的に証明されている禁煙外来をご活用下さい。

【飲食店、宿泊施設、職場の管理者の方へ】

「加熱式タバコでは受動喫煙は生じない」と思っておられませんか?
加熱式タバコの使用者が吐き出す息には多くの毒物が含まれており、受動喫煙が起こります。したがって、従来の紙巻きタバコが吸えない場所で加熱式タバコの使用を許可することは、禁煙にした意味がありません。
大切な顧客や従業員に健康被害が生じないよう、加熱式タバコを含めた全てのタバコ製品は、屋内での使用を禁じて頂くようお願い致します。

2017年10月 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解(抄)

日本呼吸器学会は、非燃焼・加熱式タバコや電子タバコについて以下のように考えます。

1.非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は、健康に悪影響がもたらされる可能性があります。

2.非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動吸引による健康被害が生じる可能性があります。
従来の燃焼式タバコと同様に、全ての飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められません。

2017年7月(更新2018年1月) 日本禁煙学会 緊急警告 !! (抄)

「加熱式電子タバコ」は、普通のタバコと同様に危険です。
受動喫煙で危害を与えることも同様で、認めるわけにはいきません。

その他の学会等 → 紙面の都合上割愛させていただきます。

【トピックス】 加熱式タバコの禁煙治療も保険適用

 中央社会保険医療協議会は2月7日、診療報酬の2020年度改定案をまとめ、厚労相に答申しました。
 今回の改定では、「加熱式タバコ」を吸う人への禁煙治療も、新たに保険適用の対象になります。健康に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
 (ニコチン依存症の禁煙治療は、既に「紙巻きたばこ」が保険適用)

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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