産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
  • ←記事一覧へ

思いもよらない石綿ばく露に注意を

2021年11月


今月は、石綿ばく露の機会と対策について説明します。

石綿ばく露の機会
先月は、石綿暴露の機会として、石綿を仕事で扱う人(職業性直接ばく露)はもちろん、石綿を直接扱う人の近くで働く人達のばく露(職業性間接ばく露)、さらには石綿が付着したままの作業衣で家庭に帰り、家庭内で石綿が付着した作業衣の着替えや洗濯等で、石綿が飛散し、それを吸い込むばく露(傍職業性家庭内ばく露)、家庭内での石綿製品の日曜大工でのばく露(傍職業ばく露)、石綿工場の近隣住民のばく露(近隣ばく露)があることを説明しました。

この他に、思いもよらない石綿ばく露が原因で中皮腫を発症したという事例があります。
例えば、手術用ゴム手袋を利用する際に使用するタルク粉(不純物として混入)で起こっています。
これにつては、昭和63年以降は、タルクに石綿が不純物として混入しているかどうかをチェックするようになりました。
さらに、石綿の輸入で使われていた麻袋の再利用等で発生しています。
「直接的」に石綿を扱わなくても、「間接的」な形で石綿を吸入し、健康障害がでていますので、注意が必要です。

最近でも、家庭用品に石綿が混入していたという事例がありましたので、下記に紹介しますので、ご注意ください。

石綿含有製品等の製造、輸入、譲渡、提供又は使用の禁止の徹底について
基安発1127第1号 令和2年11月27日 厚労省労基局安衛部長

平成18年9月1日から、石綿を重量の0.1%を超えて含有する全ての製品の製造、輸入、譲渡、提供又は使用が禁止されており、厚労省においては、平成23年1月27日付け基安発0127第1号通達等により、その遵守の徹底を要請してきたところです。
しかしながら今般、成形品を加工したバスマット及びコースターに、石綿がその重量の0.1%を超えて含有している事案が把握されました。
当該製品は、平成13年に購入した成形品を原料として、平成28年に開発した製品であったことが判明しています。

本事案の他にも、平成18年8月以前に購入し、在庫として保有していた石綿含有の工業製品を、平成18年9月以降に販売した事案が、複数確認されています。
つきましては、同種事案の再発を防止するため、下記に留意の上、石綿を含有する製品を取り扱っていないかの点検をお願いいたします。

(1.)平成18年8月31日以前に購入若しくは製造し又は譲渡・提供を受け(以下、「購入等を行った」と称する)、在庫として所有している工業製品又は原料であって、石綿含有の可能性があるものについて、石綿がその重量の0.1%を超えて含有していないか点検を行うこと。

なお、平成18年以前は1%以下の含有率であれば石綿製品には当たらなかったが、平成18年9月以降は0.1%を超えるものを石綿製品として取り扱うよう規制範囲を拡大したため、表1に列記する建材及び類似品にあっては、製品安全データシート等に記載されている組成・成分情報に石綿の記載がない場合であっても、材料の製造年等によっては石綿が含まれる場合がありうることに留意すること。

表1 石綿を含有する可能性がある石綿の表記がない建材及び類似品の例

繊維強化セメント板、パルプセメント板、珪藻土保温材、塩基性炭酸マグネシウム保温材、けい酸カルシウム保温材、バーミキュライト保温材、パーライト保温材、屋根用折板裏断熱材、煙突用断熱材、スレート、スラグ石こう板、けい酸カルシウム板第1種、けい酸カルシウム板第2種、ロックウール吸音天井板、タルク

(2.)ガスケット、パッキンについては、平成18年9月1日以降においても禁止措置の適用が猶予されていたものがあることに留意すること。

(3.)海外から輸入した建材及びその類似品(表1の材料を使用して製造された建材以外の製品を含む)並びにそれらの原料については、輸入時期に関わらず、特に石綿等の輸出が禁止されていない国から輸入したものについて、使用・販売前に石綿がその重量の0.1%を超えて含有していないかの点検を行うこと。

(4.)調査対象製品に石綿がその重量の0.1%を超えて含有していないと判断する方法は、自ら石綿含有の有無について分析調査を行うか、製造事業者から石綿等の使用の有無に関する証明や成分情報等を入手し確認する必要があること。
この際、生産国によっては石綿含有の有無の判断基準が日本とは異なる可能性もあることから、単に石綿含有の有無だけでなく、0.1%を超えて含有していないことを確実に確認すること。

(5.)上記の結果、石綿をその重量の0.1%を超えて含有している製品があることが判明した場合には、直ちに当該製品の出荷及び使用を停止するとともに、所轄の労働基準監督署まで報告の上、流通している製品の回収を行うこと。

回収にあたっては、「石綿則」第32条に基づき、堅固な容器又は確実な包装による梱包を行うとともに、当該容器又は包装の見やすい箇所に石綿等が入っていること及びその取扱い上の注意事項を表示する必要があること。
なお、事業者が直接回収せず、販売先等に輸送の手配を依頼する場合には前記の方法による梱包及び表示を行う必要があることを確実に伝達する必要があること。

(最近の事例)

(1.)平成18年8月以前に購入し、在庫として保有していた石綿含有の建設機械・車両等機種用のエンジン等のガスケット、パッキン等について、平成18年9月から平成27年7月までの間出荷していたことが判明したもの。
(事業者において令和2年9月に事案を公表済)

(2.)平成18年8月以前に購入し、在庫として保有していた石綿含有の建設機械エンジン用等のガスケットについて、平成18年9月から令和元年10月までの間出荷していたことが判明したもの。

上記の事案の公表を踏まえ、事業者において自主的に点検を行ったところ本件が発覚したもの。(事業者において令和2年11月に事案を公表済)

(3.)平成18年8月以前に購入し、在庫として保有していた原料を使用して製造した珪藻土バスマット及びコースターについて、平成28年6月から令和2年2月までの間出荷していたもの。
当該原料に当時添付されていた製品安全データシートには、「石綿」「ススベスト」の記載はなかったものの、分析調査を行った結果、その重量の0.1%を超えて石綿を含有する結果が得られたもの。
(今回の事案)

石綿含有珪藻土製品(バスマット・コースター等)の流通の再発防止のため石綿則の改正

(1.)石綿含有のおそれのある製品の輸入時の措置を新設(令和3年12月1日施行)
珪藻土を主たる材料とするバスマット、コップ受け、なべ敷き、盆その他これらに類する板状の製品を製品輸入の際、厚労大臣が定める資格者が作成した分析結果報告書を取得し、0.1%を超えていないことを確認のこと。

(2.)石綿含有製品に係る報告の新設(令和3年8月1日施行)
上記で 0.1%を超えていることを知った場合は、遅滞なく、所轄労基署長に報告しなければならない。

今後の石綿暴露の最大のものは、解体作業です。

石綿は、1970年代、80年代に毎年約30万トン程度輸入され、総量が1000万ト近くになると言われています。
これらの石綿の90%以上は、建材として使われていると推定されており、今後これらの建物・施設の老朽化で、石綿が露出して飛散したり、老朽化による解体が行われ、石綿が大量に飛散することが懸念されます。

解体等に伴う石綿飛散を防止するため「石綿則」等の関係法令(先月参照)で規制していますが、更に強化すべく、以下のように改正(予定)されています。

解体等作業における石綿ばく露防止

石綿が用いられている建築物の解体工事の増加が見込まれる中、石綿の使用の有無の調査が十分に行われないまま解体工事が施工される事例等が報告されています。
このため、石綿則等が次のように改正されます。

1.工事開始前の石綿の有無の調査工事対象となる全ての部材について、石綿が含まれているかを事前に設計図書等の文書と目視で調査し(事前調査)、調査結果の記録を3年間保存することを義務とする(令和3年4月~)建築物の事前調査は、厚労大臣が定める講習を修了した者等に行わせることを義務とする(令和5年10月~)

2.工事開始前の労働基準監督署への届出石綿含有保温材等の除去等工事の計画は14日前までに労基署への届出を義務とする(令和3年4月~)一定規模以上の建築物や特定の工作物の解体・改修工事は、事前調査の結果等を電子システム(スマホも可)で届け出ることを義務とする(令和4年4月~)

3.吹付石綿・石綿含有保温材等の除去工事に対する規制除去工事が終わって作業場の隔離を解く前に、資格者による石綿等の取り残しがないことの確認を義務とする(令和3年4月~)

4.石綿含有仕上塗材・成形板等の除去工事に対する規制石綿が含まれている仕上塗材をディスクグラインダー等を用いて除去する工事は、作業場の隔離を義務とする(令和3年4月~)

5.石綿が含まれているけい酸カルシウム板第1種を切断、破砕等する工事は、作業場の隔離を義務とする(令和2年10月~)

6.石綿が含まれている成形板等の除去工事は、切断、破砕等によらない方法で行うことを原則義務とする(令和2年10月~)

7.写真等による作業の実施状況の記録石綿が含まれている建築物、工作物又は船舶の解体・改修工事は、作業の実施状況を写真等で記録し、3年間保存することを義務とする(令和3年4月~)

皆さんの職場では、石綿にばく露される可能性のあるところはありませんか。
安全衛生委員会等の議題に挙げて調査審議してみてください。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

記事一覧ページへ戻る