産業保健コラム

臼井 繁幸 相談員

    • 労働衛生工学
    • 第一種作業環境測定士 労働衛生コンサルタント
      ■専門内容:労働衛生工学
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「きんは100歳、ぎんも100歳」から、みんな100歳の時代に

2021年12月


1991年に数え年百歳を迎えた「成田きん」さんと、「蟹江ぎん」さんは、長寿双子姉妹のお婆さんとして親しまれ、1990年代の日本で国民的な人気者となりまた。
1993年には「春の園遊会」にも招かれています。
明治、大正、昭和、平成の4つ時代を生きて、107歳、108歳でそれぞれ天寿を全うされました。

これから30年後の2021年9月、厚労省の集計では、100歳以上となる高齢者が、前年同時期と比べて8%増えて、8万6510人となり、51年連続で過去最多を更新することになりました。
医療の進歩や健康意識の高まり等で、年々長寿化が進んでおり、2020年の平均寿命は、女性が87.74歳、男性が81.64歳となりました。

一方、日本の総人口は減少を続け、2020年7月時点で約1億2,600万人、40年後には1億人を下回ると推定されています。
15歳~64歳の「生産年齢人口」も年々減少し、1993年の69.8%から、2016年には60.3%に減少しています。

2020年版・高齢社会白書 (2020年7月)によると、60歳以上の人に聞いた結果多くの人が70歳を過ぎても働きたい。さらに働けるうちはいつまでもが20.6%。
少子高齢化が急速に進展し、人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化することが努力義務になりました。
70歳までの就業機会確保→改正高年齢者雇用安定法(2021年4月Ⅰ日施行)

今後、職場では高齢者がますます増加し、健康問題を始め、いろいろな課題への対応が必要になってきます。
産業保健スタッフとしては、今後、どのような受け入れ準備・ケアが必要になるのか、以下に記載した100の「エイジアクション」(高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト)を使ってチェックし、不十分なところは整備していきましょう。

高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト
100の「エイジアクション」 チェック項目

1 高年齢労働者のこれまでの知識と経験を活かして、戦力として活用している。

2 高年齢労働者の対策も盛り込んで、安全衛生対策の基本方針の表明を行っている。

3 高年齢労働者の対策も盛り込んで、安全衛生対策を推進する計画を策定している。

4 加齢に伴う身体・精神機能の低下による労働災害発生リスクに対応する観点から、高年齢労働者の安全衛生対策の検討を行っている。

5 高年齢労働者による労働災害の発生リスクがあると考える場合に、相談しやすい体制を整備し、必要に応じて、作業内容や作業方法の変更、作業時間の短縮等を行っている。

6 通路の十分な幅を確保し、整理・整頓により通路、階段、出入口には物を放置せず、足元の電気配線やケーブルはまとめている。

7 床面の水たまり、氷、油、粉類等は放置せず、その都度取り除いている。

8 階段・通路の移動が安全にできるように十分な明るさ(照度)を確保している。

9 階段には手すりを設けるほか、通路の段差を解消し、滑りやすい箇所にはすべり止めを設ける等の設備改善を行っている。

10 通路の段差を解消できない箇所や滑りやすい箇所が残る場合は、表示等により注意喚起を行っている。

11 作業現場の環境に合った耐滑性があり、つまずきにくい作業靴を着用させている。

12 書類や携帯電話を見ながらの「ながら歩き」、ポケットに手を入れた「ポケットハンド」での歩行や「廊下を走ること」は禁止している。

13 ヒヤリ・ハット情報を活用して、転倒しやすい箇所の危険マップ等を作成して周知している。

14 高所作業をできる限り避け、地上での作業に代えている。

15 高所で作業をさせる場合には、安全に作業を行うことができる広さの作業床を設けて、その端や開口部等には、バランスを崩しても安全な高さの囲い、手すり、覆い等を設けている。

16 高所で作業をさせる場合には、ヘルメット(「飛来・落下物用」と「墜落時保護用」の規格をともに満たすもの。以下同じ。)を着用させた上で、安全帯を使用させている。

17 高所で作業をさせる場合には、その作業開始前に、作業床や手すり、安全帯を安全に取り付ける設備等の安全性の確認を行っている。

18 はしごや脚立の使用をできる限り避け、移動式足場や作業台等を使用させている。

19 はしごや脚立を使用させる場合には、ヘルメットを着用させた上で、安全な方法で使用させている。

20 ひねり、前かがみ、中腰等の不自然な作業姿勢を取らせないようにしている。

21 肘の曲げ角度が90 度になるように、作業台の高さを調節している。

22 同一作業姿勢を長時間取らせないようにしている。

23 不自然な姿勢を取らざるを得ない場合や反復作業を行わせる場合には、休憩・休止をはさんだり、他の作業と組み合わせることにより、できる限り連続しないようにしている。

24 重量物の取扱作業を、できる限り少なくしている。

25 重量物を取り扱う場合には、機械(台車・昇降装置・バランサー等)による自動化・省力化、腰痛予防ベルト・アシストスーツ等の活用による負担の軽減を行っている。

26 重量物の重量や外観から判断できない偏った重心の位置を、できる限り明示している。

27 要介護者のベッドから車いす等への移乗介助等には、介護用リフト、スライディングボード・シート等を活用している。

28 機械の危険な部分には、バランスを崩しても、接触することがない高さのガード(囲い、柵、扉、カバー等)を設けて防護するとともに、そのガードには、ぶつかっても怪我をしないようにクッションをつけている。

29 身体の一部が機械と接触する前に、機械が安全側に停止する安全装置を設けている。

30 機械の危険な部分には、見やすい標識・表示等により注意喚起を行っている。

31 機械を停止させて、点検中等の表示をした上で、機械の清掃・修理等の保守・点検を行っている。

32 上着やズボンの裾は巻き込まれるおそれがないか、袖のボタンはかけているか等について、作業開始前に確認している。

33 安全カバー・安全囲い等を取り外した場合には、機械が停止することを確認している。

34 長時間走行、深夜・早朝時間帯や悪天候時の走行を避け、走行計画は十分な休憩時間・仮眠時間を確保した余裕のあるものにしている。

35 疲労、飲酒、睡眠不足等で安全な運転ができないおそれがないかについて、運転開始前に、問いかけやアルコールチェッカー等により確認している。

36 運転適性検査や睡眠時無呼吸症候群の検査を定期的に行っている。

37 睡眠不足、飲酒や薬剤等による運転への影響のほか、長年の「慣れ」等によって、安全確認や運転操作がおろそかにならないように、交通安全教育を行っている。

38 自動車運転を専門とする運転手については、ドライブ・レコーダーの記録や添乗チェック等により運転技能を確認して、運転指導を行っている。

39 交通事故発生状況、デジタル・タコグラフ、ヒヤリ・ハット事例等に基づき、危険な箇所、注意事項等を記載した交通安全情報マップを作成して周知している。

40 自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置等の先進安全技術を搭載した車両を導入している。

41 急な天候の悪化や異常気象の場合には、安全の確保のための走行中止、徐行運転や一時待機等の必要な指示を行っている。

42 定期点検整備のほかに、乗車・走行前に、必要に応じて、日常点検整備を行って、車両の保守管理を適切に行っている。

次回に、43~100をチェックいたします。

臼井繁幸 産業保健相談員(労働衛生コンサルタント)

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